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乙女ゲームのこと

翌日。

いつも通り学校にいって昼をごちそうになって、午後、魔法実技の授業が始まった。

Bクラスは生徒14人で、授業内容は一年生なので魔力を身体に巡らすなどの基本の練習が主だ。


先生はスレンダーな美女で、エロさを感じさせないカッコいい感じの人だ。教え方も上手で授業がいつもたのしい。


「先生、本日は自主練習をさせていただきたいのです」


しかしおれは一刻も早く触手ちゃんから呪い疑惑を払拭させてあげなきゃいけない。基本練習なんてしてる場合ではないのだ。


普段は目立つこともせずに授業を受けてるおれの真剣な主張に、先生はすこし目を見開いてから思案したあと、いいわと言ってくれた。


「来週は試験が行われますし、本日は全員自習としましょうか。質問や手助けがほしければ来なさい」


先生がパチンと指を鳴らすと校庭の土が盛りあがり椅子になった。背もたれに鷹の意匠がある凝ったデザインの椅子に座り、なにもない空間から本を出して読み始める。


魔法使いっぽいぜ!


許可が出たので、クラスメイトたちも校庭に各々散って瞑想とか魔力練るのとかやりはじめた。


呪いだと思われてるって聞いてからわかったけど、クラスメイトは実技のときちょっとおれから距離置いてるんだよな。そんなに触手ちゃんが不評だったとは……。

おれは校庭の端に行って魔力をネリネリする。


(イメージしろ、可愛くするんだ。令嬢にふさわしい可愛らしさを思い出せ)


うぐぐぐぐぐ……と眉間にシワをよせて“可愛い”を考え続けて、


「いでよ、触手ちゃん!」


ニュ!


漆黒の触手があらわれた。

そりゃ10年近く黒って言ってたんだから急にカラーチェンジはできないよなー。




放課後。

刃丞とおれはウィステリア先輩の話を聞くべくサロンに集まった。他の生徒もいるから話が聞こえないように離れた奥のソファ席を選び、観葉植物も目隠しになってる完璧な場所だ。

そこに三人で陣取り、おれはソファに半身を倒していた。


「ふたりとも、なんだか疲れてない?」

「実技めっちゃがんばったんですー」

「魔法理論キライ……」


午後の授業中ずーっと試してたけど今日は触手ちゃんの色は変えられなかった。すごく集中したから疲労がすごい、肉体的じゃなくて魔力的に。気を抜くと寝ちゃいそうだ。

刃丞はちゃんと座ってるけど目にひかりがない。試験勉強苦手だから仕方ないね。


「そ、そう。コホン、では本題にはいります。これが例のものをまとめた資料よ。あらすじと登場人物、各エンディングを書いておいたわ」


ウィステリア先輩が封筒に入れた手紙を渡してくれた。開けるといい香りのするA4サイズの紙が一枚、丁寧に折りたたまれて入っていた。刃丞のほうにおれより数枚多い。


「……英語?」


手紙を開くとひさしぶりに見るアルファベットが書かれていた。

この世界には存在しない文字だ。


「万が一だれかに見られたら困るでしょ? 日本語で書いても良かったんだけど、わたくし区別つかなくて」

「そ!? そうですよね!?」


あああ! 先輩も同じなんだ!?

話てみると先輩も刃丞も日本語とこっちの言葉の区別がついてなかったらしい。ただ先輩の話では、日本語は書いてみるとこちらの文字より手の動かし方が難しく感じるらしい。でも英語は英語として認識できるんだって。


「ややこしいですね……」

「大丈夫よ、貴族の言葉はこちらの言葉にしかならないみたいだから」


お嬢様言葉ならまず間違いなく現地語ってことなんだな。

ちょっと疑問が解決したから、改めて手紙に目を通す。


「イケメン枠は5人で、マルチエンディングなんですか」

「ええ。いまは学生だけど将来は国の重要なポストにつきそうな人ばかりね」

「この“白と黒の聖女争い”って、どういうことですか?」


ゲームのメインテーマだろうけど、争いって不穏だよな。


「ローズマリー様とヒロインが国の次期聖女として争うの。支持者を多くとったほうの勝ちで、支持者の中からエンディングの相手が決まるわ。そのときの陣営が白と黒に色分けされてて“白と黒の聖女争い”っていわれてたの」


「えっ刃丞……ローズマリー様が聖女になるんですか? というか聖女ってあの聖女ですか!?」 

「シーッ! 小声で!」


これは国の一大事だ。

聖女っていうのはその莫大な魔力をもって国の結界を、引いては世界の結界を構築し支える中心の人を指し、各国でも王族と同等かそれ以上に要人として扱われていることもある。


その尊敬と畏敬をあつめる清く美しき聖女に、刃丞!?


「どんな話ですかそれ……!?」

「ゲームでは気づかなかったけど、当事者になったらオオゴトだったわね」

「刃丞が選ばれようものなら国が滅びますよっ?」


刃丞はいいやつだけどダメだ。親友だからわかるがこいつは国を背負えるようなやつじゃない、まず間違いなくストレスで死ぬ。


「そもそも聖属性の魔法使えたっけ?」

「夏休みが明けたところでヒロインが転入してくるのだけど、そのときヒロインに呼応してローズマリー様の力が目覚めるのよ」

「めちゃくちゃ強引ですね……ちなみに刃丞が負けると……?」

「ヒロインを陥れようとした悪事が明るみになって追放されるわ」


なんっだそれ!?

ヒロインちゃんには申し訳ないけど、転入してこなければいいのにぃ。


「あっそうですよ、転入してきてもヒロインと接触しなければいいのでは?」

「同じクラスになるはずだから、それも無理だと思うの」

「っはー。ヒロインが来たら自動的に開始されそうですね。刃丞、状況はかなり詰みかけだけど先輩の資料のおかけで対策はたてられ……刃丞?」


ずっと静かだった刃丞が顔を上げて虚ろに笑った。


「英語、読メナイ」


ひとり早めに詰んでたようだ。

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