フェナクの手紙
フェナクぶっ倒れ事件から二週間ほどたったある休日。
おれは刃丞んちのサロンで頭を抱えていた。
「どう返事したらいい……」
「大丈夫よ翔義。わたくしがついているわ!」
刃丞は笑顔でいってくれるが、全力でおっぱいを揉んでるので内心の動揺が隠せてない。
おれたちがこんなに憔悴してる原因は一通の手紙。
今朝届いてすぐ、おれは刃丞のところにきてしまった。
「差出人はリンデン公爵なのよね」
「そう。ああぁフェナク個人からだったらまだなんとか……ならないな、無理だ。おれは男爵家だ」
手紙の差出人はフェナクの家、リンデン公爵家から。
フェナクから手紙をもらうならそれ自体はべつにいい。倒れた翌日に「感謝の意」みたいな手紙と高そうな布もらったし、いうてローズマリー令嬢を介して知らなくもない関係だし。
ただ今回のは差出人も内容も問題だった。
公爵家の侍女、しかもフェナク付きとして働きにきてはいかがかとのお誘いだ。
「これってつまり、フェナクの愛人にどうかってことだよな」
「どうかというより “なりなさい” が正しいと思うわ」
下級貴族の娘が行儀見習いとして貴族のもとへ行くことはある。だが子息付きとなるともうそれは……。
「すまん刃丞!!」
膝に手を置きガバッと頭を下げる。
おれがヒロインのフェナクルートを邪魔してどうする!
刃丞が立ち上がりこちらへくる気配。なぐられても仕方ないって覚悟をきめてると急に頭の一点をつつかれた。
ツン。
つんつんツンツン!
ツムジを連打されてる……!?
「“あきらめるな”」
聞き慣れた公爵令嬢の声で聞こえる男言葉。
おもわず頭を上げたら目のまえにしゃがむ刃丞がいた。
「いつも翔義が言っているじゃない」
「刃丞……」
「罪を感じる必要はないわ」
ニッとイタズラそうに笑い、
「あしたはお腹壊すわね」
立てた人差し指を見せつけてきた。
「う、うわぁあんっクソイケメンめぇー! しねぇー! ありがとー!!」
「ふふふっ! 手紙の返事は、わたくしの侍女の予定だからと手紙を送るのがいちばん角がたたないわよね。聖女候補の肩書を使いましょう」
「おう……!たすかる!」
「それからなぜ急に愛人なんて話が出たのかも調べないとね」
さらに翌日。
魔法学校は週休2日だから今日も休み。
刃丞がお父様に話を通したらすぐ返事を送ると言ってたから、今日か明日にはフェナクの家に刃丞のところから手紙が届くはずだ。
おれも実家に事情を説明しておくのに手紙を送っておいた。去年から騒がしてばっかりな気がするなー。
「いやあ、焦ったよー」
「わたくしたちも大変心配いたしました。お嬢様はまだこのお屋敷にいてほしいですから」
髪をとかしながらダンドワさんが言う。視界の端でバルベロさんもうんうん頷いてるのが見えて、なんだか胸があったかくなるよね!
「本日のご予定はいかがなさいますか」
「ポロンさんのところに行こうかなって。香油の売上が気になるし」
「かしこまりました」
恒例の外出用ドレスをダンドワさんが選ぶ時間、いつもどおりおれは全裸で待機だ。
お、こんなところにホクロあるやんけ……。へその横にちっちゃいホクロを見つけたりして暇をつぶす。
「お嬢様、本日はこちらのドレスでいかがでしょうか。まだ少々肌寒いのでケープを合わせたら清楚になります」
「はぁーい」
ファッションセンス、しかも女子のなんて前世もいまもないのでダンドワさんたちには全幅の信頼を置いてる。ちなみに前世の私服は量産型チェーン店のTシャツばっかり着てた。
「あ、そういえばフェナク様からもらった布どうしよう」
「あの生地を使うことはございません。お忘れください」
やたらキッパリ言われた。
なんか真顔だし逆らわないでおこうね……。
馬車に乗って街へ。ポロンさんのお店は休日のせいか以前来たときよりも混んでいた。
お店の外からなかを見てためらう程度には賑やかだ。
「ちょっと空くの待とうか」
「かしこまりました。カフェへいかれますか?」
「んーん、ここで待つ」
お店が見える距離にあるちいさい噴水のそばへ行き、さり気なく片足を浮かせて立つ。
この前フェナク担いでて感じたことだけど、地元にいた時よりもジャンプ力落ちた気がするんだよな。あとバランス感覚も鈍ってるかもしれない。
家でもガッツリ鍛えるつもりだけど、こういう空き時間でもトレーニングできたらいちばん楽なんだ。
腹式呼吸しながらさり気なく片足スクワットとかしてたら、気づいたダンドワさんたちが周りからみえないように囲んでくれた。
たしかに、ふしゅーって呼吸はやや令嬢らしからぬかもしれん……。
足を変えて反対側も鍛えてるとポロンさんのお店からレクティータさんが出てきたのが見えた。
「まじか……」
レクティータさん、ここ利用するんだ!?
ブックマーク、評価ありがとうございます(^ν^)
しばらくフェナクをフェネクって書いてました……修正してますがどこか抜けていたらすみません;




