作戦実行中!
いつものランチ。
刃丞のとなりには王子が座っていた。
「ローズマリー、先日は私の思いちがいできついことを言ったな……許せ」
「わかって頂けただけで、わたくしは満ちる想いですわ」
「ローズマリー……」
刃丞がそっと王子の膝に手を置く。さり気ないやり方だけど女子にボディタッチされるとドキドキするよね!
「誤解が解けてよかったです!」
ニコニコしているのはレクティータさんだ。ふたりを見ながらおれの右となりの席で無邪気にデザートを食べている。これが本心なのかどうなのかイマイチ判別できないんだよな……。
現在、ひそかに作戦は進行中。
まずは先日の揉め事のフォローをすべく、王子とレクティータさんを同時にランチに招待したのだ。本人から証言させるのがいちばんだからな。おかげでランチ開始時にはあった緊張感もいまでは和やかなものに変わってる。
これが第一段階。
「安心しましたわ!」
「これでいつも通りですわね!」
「感動いたしましたわぁ、ねぇカエノメルさぁん」
ウフフ良かった良かったとみんなで言いつつ、左からプリュネちゃんが抱きしめてきた。一見仲の良い取り巻き同士のやりとりだ。
「……カエノメルさん、フェナク様は保健室にいるようですわ」
「……よし、やってまいります」
耳に唇が触れるくらいの近さでプリュネちゃんが告げてきた。
刃丞と王子を仲直りさせることはできたから、つぎは第二段階。フェナクとレクティータさんを近づけるのだ。
おれはあらかじめ決められていた通り、おもむろに口元をハンカチで覆った。
「ううん、感激しすぎてなんだか胸が苦しいですわ。わたくし、お先に失礼させていただきます……」
ふらりと立ち上がると、こちらも協力者のラデュレさんが支えてみせる。
「マァ、オ嬢様タイヘン! 保健室ニマイリマショー!」
(へた……っ!)
ラデュレさんは昨日からセリフの練習してたんだけど絶対棒読みになっちゃう。見ればピネちゃんたちは唇を噛んで笑いを堪えてたけど、体がすこし震えてた。
でも噛まずに言えたから伝わったよな、このままいこう!
「カエノメル、大丈夫か? 私が保健室まで送ろう」
す、と王子が立ちかけたので慌てる。
「えっいえ、あの」
困るぅ。王子はほんとにいいヤツなんだけど、いまはその紳士さは作戦のじゃまだ。
「王子、」
刃丞が立ち上がった王子の手を両手で包む。
「王子、レディは男性に付き添ってほしくない場所がございますの」
「付き添ってほしくない? ………アッ!! そ、そうか」
キョトンとしていたが、ナニかを察したらしく冷静を装って大人しく席につき直した。顔の下半分が赤くて、上半分が真っ青っていう動揺が丸見えの顔色をしてる。
イケメンなのにメンタルがおれに似てるんだよな。親しみ深いぜ……。
「レキサ王子、お心遣い感謝いたします。……では失礼いたしますね」
おれは心から感謝をいって、ラデュレさんとともに退場することができた。テーブルのうえにハンカチを置いて。
保健室のみえる廊下の角、保健室に用がある人からは見えない物陰におれとラデュレさんはしゃがんで待機していた。
「中の様子はどうだった?」
「手前にふたりほど生徒がいましたが眠っているようでした。奥にはフェナク様がおひとりで、お付きのものと医務官もおりません。人払いをしたのかもしれませんね」
よし。保健室は広いし、手前と奥って距離ならジャマにならなうだろう。
「くるかな?」
「お嬢様方の作戦通りにすすめば、かならず来るでしょう」
そう話すや廊下のむこうから女の子がひとりやってきた。
おれの忘れていったハンカチを届けにきてくれたレクティータさんである。
小走りなのは気持ちが急いでるせいだろうけど、令嬢らしくない所作だ。一年前までふつうの庶民だったんだから仕方ないかな。ラデュレさんも気になったらしくて眉をひそめてる。
「……マナーは教えられていないのでしょうか」
「うーん、まだ体に滲み込んでないんじゃない?」
こそこそ見られてるとも知らず、レクティータさんは保健室に入っていった。
一拍おいて保健室の扉に近寄り、うすく開けて隙間から様子をみる。
寝ている生徒を慮って静かに奥へすすむレクティータさん。
いちばんのベッドのまえまで行くと、そこに誰がいるかわかったようで立ち止まった。
「んんー逆光でわかりづらい!」
「フェナク様は眠っていらっしゃるようですね、寝顔を確認なさったようです」
「寝てるのかぁ。タイミングまでは計れないし仕方ない。寝顔にキュンってするかな?」
「どうでしょうか。わたくしは殿方の寝顔を見るといろいろ思い出してイライラしますが」
「えぇ……」
なにがあったんだよ、ラデュレさんの闇とか知りたくないよ。
「お聞きになりますか」
「いやだよ、女性の過去とかえぐそうだよ」
「あっお嬢様、レクティータさまがこちらへ」
ハッと隙間から見るとレクティータさんがすぐそこまで歩いてきてる。おれたちは慌てつつ身だしなみを整えて立った。
まもなく扉が開いてびっくり顔のレクティータさんと目が合った。
「保健室、いないようだったので心配しました、大丈夫ですか?」
キュッと眉をさげて純粋に心配してくれてるように見える。
「お手洗いに寄っていましたの。すっかり良くなりましたわ」
「そうなんですか! 回復されたなら良かったです。あっハンケチーフをお忘れだったのでお届けにきました!」
ニッコリしてハンカチを渡してくれる。
「ありがとうございます、レクティータ様」
「いえいえ! あの、……」
「はい?」
「……ううん、なんでもないです。では失礼しますね! カエノメルさんもお大事に!」
何が言いかけたようだけど、ふんわりと微笑んで去っていった。
「可愛らしい笑顔でしたね」
それな。ヒロインちゃんの微笑みはほんとに可愛かった。




