己と戦い、打ち震える日
翌日、さっそくおれたちは動き始めた。
昼休みにやろうかと話してたんだけど、ピネちゃんたちを巻き込むのは心苦しいし、なによりランチのあとはゆっくりお話して過ごすのが通例でおれはともかく刃丞は抜け出せなかったので不可。
ということで放課後。
「おう、お待たせ。……来た?」
「まだ。なにかあったの?」
学校の奥、礼拝堂までつづく森の道でおれたちはおちあった。まだ誰も来てないけど木陰に隠れてなんとなく小声になっゃう。
丸く刈り込んである低木の後ろにしゃがみ込んでる刃丞のよこになるべく体を寄せ合っておれもしゃがむ。
「ロベールに香り石の研究誘われてさ」
「ああ例の。すすんでる?」
「大詰めだな。何個かは売れる物にはなってると思う。判断するシフリール先輩次第だけど」
「すごいじゃない。わたくしも買いたいわ」
「おう、完成したら持ってくよ。そっちは?」
「フェネクは午後の実技授業にも出席していたし、レクティータさんも元気いっぱいで過ごしてたようよ。バケツは用意出来なかったけれど、コップにお水いれてきたわ」
みれば足元にティーカップ。そこにただのお水が入ってた。地面にティーカップが置かれてるのがシュールだけど、令嬢がバケツ持って歩くなんて違和感しかないもんな仕方ないね。
よしよし。
「準備は万端ってことだな」
「完璧よ」
コツっと拳を合わせる。
あとはこの道をレクティータさんが通ればいいんだけど。
刃丞もそう思ったようで
「レクティータさんってほんとうに毎日礼拝堂にいってらっしゃるの?」
「レゴちゃんによるとそうらしい。放課後はいちど礼拝堂に寄ってから帰るんだって」
「ずいぶん信心深いのねえ。……あっ」
「あっ」
足音が聞こえてきたので慌てて身を縮める。
呼吸するのも控えめにしてると、目の前の道をレクティータさんが歩いていった。やっぱり礼拝堂に行くみたい。
「……来たわね」
「来たね」
「……行ったわね」
「行ったね」
お互いに目を合わせる。
「「 …………… 」」
あ、むり。
これはすぐわかる。お互いともに無理だって思ってるのが顔にでてる。
「……刃丞、やれる?」
「むずかしい……でもやらなきゃ。ぅああー」
刃丞が覚悟を決めるが悲壮感がすごい。
濡れるってわかってるのにこんな冬真っ只中に水かけるっゲームのローズマリーって強すぎないか。みろよ、おれの親友を。
「おれのおっぱい揉む?」
「どんな心遣いよ……揉むけど。はあ~」
落ち込んでる様子なのでおっぱいを差し出したら、ツッコむわりには揉んできた。
「うーん、水じゃなきゃダメなのかしらね……」
もみもみ。
「それな」
「はあ~」
もみもみ。
ちょっとくすぐったい。でも無心で揉んでるし、やる気はゼロではないみたいだし、落ち着いてきたのかな。
しばらく揉ませてると礼拝堂のほうからレクティータさんがやってくるのが見えた。
「戻ってきた……!」
「っー!ヤバイヤバイヤバイヤバイ」
刃丞の目が。
刃丞が焦点のあわない目をしてヤバイヤバイ言いながら立ちあがるのを手伝う。介護かな?
内心のあわあわを隠しつつ、ザッ!とレクティータさんの行く手をふさぐおれと刃丞。
「えっ」
レクティータさんがびっくりした顔で立ち止まった。そりゃそうだよね、意味わかんないよね。
「ごきげんようローズマリー様、??」
すごい不思議な顔してる。
「……あの、どうかされましたか?」
首を傾げるレクティータさん。
おおー。ど正面で見るの初めてだけどさすがヒロイン、めっちゃ美少女! 薄桃色の長い髪を三つ編みにして、瞳は大きくて潤んでるみたいに光ってる。色白で唇はつやつやのピンク、これは男たちも惚れるよ。
「………」
おれがレクティータさんのヒロイン力に見惚れてると、ツンツンと制服の袖を引かれた。
(……?)
「ヤバイ。お水忘れた」
ちっちゃい声の告白。そして手ぶらの公爵令嬢。
(ああー……)
「? えぇと、それではごきげんよう……??」
レクティータさんはなにも話さないおれたちに戸惑いつつも挨拶し、道のわきを歩いて帰ろうとするので、
「あの! ま、魔法の練習してましたの! ごらんくださる!?」
とりあえず大声で引き止める! けどここからはノープラン!
「は、はい」
ビクッとして向き直ってくれるヒロイン。この子は良い子だ。
「えっと、その、ローズマリー様にも褒められましたの!ね!?」
「ソウナノデス!」
片言……!!
「こ、これですわ!」
ニュルリン! ぴと……
「きゃっ」
おれが発動させた水魔法がちいさい竜巻をつくり、その端っこがレクティータさんの頬と胸元にかかった。
「あっごめんなさい!大丈夫ですか!?」
うわぁあ、ごめんよぉ!
あせって駆けよるがレクティータさんが自分の頬を触ったまま無言だ。
「ごめんなさい!お怪我はないかしら……!」
「これでお拭きになって!」
「あ、いえ、大丈夫です。それよりこの水魔法、とろみがあって珍しいですね! すぐに乾いてしまいますし」
ニコッ。
「あと顔のほうはスベスベになりました! すごく面白い魔法ですね!」
「あぁありがとうございます?」
頬を紅潮させてちょっと興奮したみたいに顔を寄せて褒めてくれるレクティータさん。
「わたし、魔法がこんなに沢山種類があるって知らなくて。この学校にきて学べることができて本当に楽しいんです!」
「そうなの……」
「お水のことはほんとうに気にしないでくださいね! 魔法の練習ってそういうものだと思ってますから!」
レクティータさんがニコニコと笑顔のまま話す勢いにおされて相槌しか打てないおれたち……。
「ァ、デモ一応、保健室ニハイッテチョウダイ」
刃丞が仕事した。
「そうですか? なんともないけどなぁ」
「イッテクダサイ」
「……わかりました! それでは失礼しますね!」
「あ、はい」
「ゴキゲンヨウ」
春の風のように爽やかに去るヒロイン。
おれたちはそれを呆然と見送ることしかできなかった。




