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近いけど、かすらない嗜好と奇遇

「刃丞、なんでいるの?」

「翔義のメイドがうちのメイドに“メル様が不審な生徒を捕まえた”と伝えて、メイドが侍女に、侍女が授業中のわたくしに伝えてきたので、わたくしは親友の危機に颯爽とやってきたのですわ!」


ふふん!と刃丞は得意気に胸を反らした。いつみてもおっぱいがパツパツだな。

感謝しろとばかりの表情だけど、おれにはわかる。こいつ、授業がめんどうだったから面白そうなおれのほうにノリノリでやってきただけだ。


「おまえ……そんなんだから勉強についていけなくなるんだぞ」

「うぐっ!」


刃丞がムギュムギュおっぱいを揉んで精神安定を図りはじめたので、気を失ってるウィステリア先輩の上からこそこそと立ち上がる。それにしてもご令嬢ってすぐ気を失うよね。コルセットが悪いんかな?



ほんの数分、気を失ってたウィステリア先輩が目を覚ますと、刃丞の尋問がはじまった。


「タラゴン家の二女ウィステリアね?」

「は、はい」


ウィステリア先輩の対面に刃丞が座り、おれは二人の中間に一人がけの猫足椅子をもってきた。

持ってきたっていっても実働はサロンの給仕さんたちで、ついでにクッキーとお茶をだしてもらってから刃丞の指示で人払いした。


「不審な動きをしていたと報告があったわ」

「ぁぅ」

「具体的にはなにをしたのかしら? ご自分で言えるわよね」

「……お、お昼休みにローズマリー様たちを拝見しておりました……申し訳ございませんっ」


しょんぼりしたウィステリア先輩が頭を下げる。緊張してるらしく膝においた手ももじもじしてる。

やっぱり覗いてたんだなー。なんのために見てたんだろ。貴族っていろんなこと考えてるから理由がありすぎてわからないんだよな。


「…………」


目をすがめて先輩の白い手を見つめる刃丞。遺伝子がいいから見た目はほんと美少女なんだけど、こうもピリッとした雰囲気にするとそのぶん迫力がある。


華やか系美少女に叱られるキツめキリッと系美人。

うむ、悪くない。


「ウィステリア」

「はひっ」

「わたくし、その癖に見覚えがあってよ」

「え……」


(? なんだ、刃丞の顔がビミョーだ)


「あのときは黒髪だけど短髪だったわ。道場に正座するのだけど、強い相手だと膝においた手、それも中指が動くの。膝を引っかくようにちいさくカリカリと」

「……!」


ウィステリア先輩が目を見開いて両手で口元を覆う。


「街で会ったときも驚いたときは口元を触っていたわね、あのときは片手の拳だったけれど」

「……!!」


「その街のなまえは “京都” だったわ」


「っ!!!!」

「えええ!? 京都って!どういうことだよっ?……ですの」

「翔義、言い直さなくていいわ。その人、京都の神泉高校の空手部部長よ」


はぁーと深いため息をついて肘掛けにもたれる刃丞。

ウィステリア先輩は衝撃に立ち上がったまま呆然としてる。


「な、なんで、それを」

武藤空鉄むとうそてつ先輩、奇遇ですね、あなたも女になられたのね」

「ふええ!?」

「はへえ!?」


驚きすぎておれも気を失った。




数分後、目を覚ましたおれたちは情報をだしあって状況を整理した。

結果、ウィステリア先輩は他校の武藤先輩で間違いなかった。おれは前世でも認識ないけど、刃丞は友達の友達の先輩、くらいの関係だったらしい。


「夢も希望もない……」


こんな美人なのに! 中身がゴリゴリの男とか!


「俺からしたら夢いっぱいの世界だけどなっ!」


ニッコニコの先輩。それはそうだろう、“ソレ”が事実なら。


「それで。その乙女ゲーム?の世界だっていうのね、ここが」

「ほぼ間違いなくそうやな! 国も都市も、存在する人物の名前も特徴も一致しているし!」


声でかー。中身男ってばれた途端、すごい元気になった。おれと同じで話し方とか使い分けられるらしいよ。しかもいまは“同類”に会えたからかテンションも高い。

ちなみに先輩は令嬢モードのときは理想の女性を模してるんだって。余計なことすんなよ、おれがキュンとでもしてたらどうするつもりだ。


「上井、きみは悪役の令嬢だったはずなんや」

「悪役……」

「ふへっ」


ちょっと笑っちゃったおれをキッと睨む。


「しかしこの数日、様子をみた限り悪逆を行うそぶりがない。ゲームのなかでローズマリーは幼い頃からワガママで気が強く、しかしカリスマ性があるから取り巻きの数も多かった」

「カ リ ス マ 性」

「翔義、ちょっとよろしくて?」

「ひぎゃー!」


刃丞が立ち上がって鼻フックしてきやがった!

おまっ、素手でやるとか躊躇いねぇな!? つーか令嬢! おれもいちおう令嬢だから鼻のあなおっぴろげはヤバイ!!


「はぁん! 最っ高……!!」


先輩が祈るように両手を組んで鼻血だしてた。


「「 …………。 」」


す、と着席するおれたち。


「なんで止めるん!? もっとやってや!!」

「「あ、大丈夫です。」」


先輩が乙女ゲームをプレイしてた理由。

それはヒロインと悪役令嬢ローズマリーの百合エンドがあるから。それを見るために、見たくもないイケメンたちとヒロインの恋模様を何周もしたらしい。苦痛だったって泣きながら語ってた。


しらん! 解散!!

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