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大晦日から夜明けをみる

「レクティータさん、あなた、なめていらっしゃるの?」


刃丞が険しい顔でレクティータさんを睨む。



ここは西のお山と呼ばれる王都のいちばん西にある低めの山だ。

騎士たちが常駐して警備にあたっていて、普段は立ち入ることができない“聖なる山”だ。

いまも騎士数人が周りに立ってる。


空にはまだ星が輝いている時間なんだけど、もう少しして日が昇ったら新しい年の始まりだ。

冬のせいか空気がキンと冷えてて剥き出しの頬がピリピリする。



『新年の祝』の日にして『聖女選択』にふさわしい緊張感なのかもしれない。



おれたちの目の前で聖女候補ふたりが向かい合ってる。

悪役令嬢たる刃丞は眦をつりあげて珍しく怒っていた。


「い、いえ、あの、すみません……」


対峙してるレクティータさんが涙目でうつむく。顔色は真っ青だし唇も戦慄いてる。


「予備のコートを持っていらっしゃい!はやく!」

「はい!」


刃丞の怒声にメイドさんたちが公爵家の馬車へ走っていく。


「冬の山ですのよ!? しかも夜明け前なら寒いに決まっているでしょう! どれだけ山をなめてますの?」

「す、すみません。南部でこんなに寒くなることがなかったので」

「貴女の家のものも何を考えているのかしら!」


刃丞はモッコモコのフワフワした黒いコートで完全防寒をして山に来ていたが、レクティータさんは普通の冬用のコートだ。登山にはちょっと寒いよな。


おれと同じく呼び出されてたピネちゃんたちも刃丞と同じようなモコモコの格好だし、おれは重ね着いっぱいしてきた。


レクティータさんのおつきの人たちも暖かそうな格好なんだから、そういうの用意してあげればいいのに。


「ちゃんと着て!」

「は、はい。ありがとうございます」


刃丞にコートを着せられ、お礼をいうヒロイン。

悪役令嬢の仕事ってなんだろうかと思うよ。


「意外とローズマリーは世話焼きなんだな」


おれの近くにいたレキサ王子が話しかけてきた。


「山の寒さに詳しいのですわ」


前世ではスノーボードによく行ってたからな。あと女子が体冷やすの良くないって思ってんだろう、中身がイケメンだから。


「そんなに大声を出さずともいいじゃないですか。レクティータだってわざとじゃないでしょう? ほら、保温石をあげますよ」


フェナクがかばうように言って、レクティータさんに手のひらサイズの石を握らせてやってる。保温石は魔力じゃなく火で温めたカイロ代わりの石だ。


「おい」


フェナクの行動はイケメンかもしれんが見習いたいと思わんな、と思ってると横から気配。


「あ、えー……ヴェガさま」


裏庭の不良、ヴェガいて拳を差し出してきた。


「?」

「ん」


なおも拳を突き出すので、おれも拳をつくってかるくぶつける。


「ウェーイ?」


なんにも勝ってないけど。急に欧米のあいさつってなんだよ。


「ちがう!」


ヴェガがおれの手を雑に掴んで手のひらにクリスタルを置いた。あったかい。


「やるよ。ついでで友達のぶんもだ」


ガサガサとさらに4つクリスタルをくれたけど、これあれだ、魔力で暖かくなってる高級保温クリスタルだ!


「よろしいので!? ありがとうございます!」


うおー!はじめて見たぜ!


「まぁぁ!」

「素敵な色ですわね!」

「ありがとうございますぅ」


ピネちゃんたちもこれにはニッコリ。

フェナクのあとで魔法省トップの息子の権力みせつけてくる感じ、嫌いじゃないぜ。

フェナクとレクティータさんはこっち気にしてないけど。


「おお、よい色だな」


レキサ王子は保温クリスタルみても余裕である。さすが王族だな。


ちまみにシフリール先輩も来ていて騎士たちと挨拶しあってる。


そして、


「まあまあ、ごめんなさいね。わたしが最後だったのね、お待たせしたわ」


背後から年配の女性の声がした。

振り返ると教会の白いローブをきて、お付きをたくさん連れたおばあちゃんがいた。


騎士が一斉に冑をとって跪いたので、ガザザッと音が響いてちょっとビビった。

ハッとした様子で刃丞たちが跪くのでおれもそれに倣う。この人がきっと当代の聖女さまなんだな。


おれたちに労いの言葉をかけた聖女さまはさくさくと仕切りはじめた。


「今日は本当に冷えますね、手早く済ませられたらいいのだけど……さあおふたりとも、頂上へ行きましょうね」


様子が見えないまでも山頂はすぐそこで、石で階段が作られてるんたけどさっき到着したときは登るのを止められてた。


その階段をかるい様子で登っていく聖女さま。

刃丞とレクティータさんがそれにつづいて登っていった。


おれたちと王子たち攻略対象者はその場で待機だ。


山頂の様子は見えないが、しばらくして聖女さまだけがこちらを見下ろすところまで姿をみせてくれた。


「みなさま」


王子や騎士、おれたちをゆっくりと見たを聖女さまが朗々と話し出した。


「みなさまの協力が必要です、どうか民のため全力をお尽くしください」


山のむこうが明るくなる。太陽がのぼりはじめたようだ。

聖女さまは後光のように光を背負い、おれたち一人ひとりの目をみるように微笑む。


「これからここで、わたくしは王都の結界のひとつを壊します」


聖女のためのイベントが始まった。

ブクマ、評価、感想ありがとうございます(^ν^)やる気凄いでます!

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