午後の不審者
「ああ、そうですわ。夏休みまえは試験がありますわね」
「筆記はともかく、魔法実技試験はみなさまの前でするのがいやね。失敗したらはずかしいもの」
「Sクラスはレキサ王子とフェナク様もいらっしゃるのですよね? 想像しただけで緊張しますわぁ……」
桃色の髪のプリュネちゃんがため息をつくのに、ふたりがうんうん頷く。
「ローズマリー様は緊張などなさらないでしょう?」
ピネちゃんが縋るような、尊敬するような顔をして刃丞をみて聞く。
「え、ええ、緊張はいたしませんわね、ホホホホ!」
高笑いをする公爵令嬢がおのれの豊満なおっぱいを両手で揉んでたのに気づいたのはおれだけだな。
こうして無事、ガールズトークに花を咲かせて昼休みは終わったのだった。
「あかーん!!」
お花摘みに来た女子トイレで手を洗ってたら思い出した。昼にストーカー女子がいるんだった! ふつうに昼食を満喫してたぜ。
ぜんぜん気づかなかったけど居たかな?
気配とか感じられなかったけど。
「お嬢様、発作ですか?」
メイドちゃんがハンカチーフを差し出しながら気の毒そうに顔色をみてきた。
おれ普段はお嬢様らしくしてるけど、たまに前世のリアクションがでちゃうんだよな。うちの人たち、いちおう貴族の家だから高貴な言葉以外には反応処理できないようで「メルはたまに発作がでる」って病気みたいな扱いになってる。クシャミとでも思ってるのかな?
「う、ううん、大丈夫」
「そうですか、お嬢様は扱われる魔法がえーと……特殊、ですから辛くなったらおっしゃってくださいませ」
「(特殊…?)…ありがと。ね、それより今日のランチのときに変な人いなかった?」
「変な人、でございますか?」
メイドちゃんは少し考えてから首を振った。
「申し訳ございません、そのような人物はみていません。なにか特徴などを教えていただければ調査いたします」
「あ、うん。うーん、そんなに深刻な話じゃないと思うから、気づいたことがあったら言ってくれるだけでいいよ」
「かしこまりました」
メイドちゃんはハンカチーフを回収して、おれの身嗜みをササッと整えてからトイレの扉を開けてくれる。
廊下に出ると少し先にレゴちゃんがいた。
「あら、レゴ様、偶然ですね。お昼はもうおすみに」
「カカヵカエノメルさん……! シーッですわ……!」
後ろから声をかけたらすごい勢いで振り返って、両手でおれの鼻と口をふさいでくる。
(あっやわらかぁい。あと、いい香りしゅるぅー)
咄嗟ににおい嗅いだら酸素濃度減って目の前がクラッてした。
レゴちゃんの手はラベンダーみたいな香りがしたよ……、
「キャッ! ごっごめんなさい……! でもっあのっ、あの方なんです……っ」
レゴちゃんが指す先には黒髪ロングの女生徒が歩いていた。
スカートのラインカラーから上級生らしい。
視線に気づいたのか、女生徒はふと振り返った。
バッチリ目が合う。
前髪パッツンの美人だ。
しかし目が合うやいなや、女生徒はあからさまに動揺して挙動不審にしたあと、猛烈に走り出した!
「レゴ様、彼女が覗き魔ですね!?」
「っえ、ええ」
「行け!」
指示をだすとメイドちゃんが猛追しはじめた。
膝下のスカートを軽くつまみ上げてローファーで走るのがめっちゃ速い。
「わたくしも行ってきますね!」
「カ、カエノメルさんっ!?」
レゴちゃんを置いてメイドちゃんたちを追いかけるが、女生徒がなかなか足が速いらしくて人気のない中庭まで出てことになった。
ふたりを視界に捉えたまま、両手をつかって魔力を練りはじめる。
「お待ちください」
「えええっ?」
射程範囲と判断したらしいメイドちゃんがおおきく跳躍し先輩の頭上を飛び越えて立ち塞がった。おどろいた先輩だったけど体全体をつかってターンするようにかわす。捕まえられなかったものの、しかし速度は少し落ちた。
(メイドちゃんナイス!)
おれは魔力を充分にネリネリしたところで、しゃがんで手ごと地面に魔力を叩きつける!
「つかまえろっ触手ちゃん!」
「あっ!? キャア!?」
地面から黒いウネウネがニュッと飛び出し先輩の足にひっかかった。ウネウネは5センチしかないけど、ベタベタヌルヌルしてるんだぜ!(自慢)
前傾で倒れかけたところを優秀なメイドちゃんがしっかり抱きとめた。
「先輩、お怪我はございませんか?」
乱れた黒髪と、疾走したせいでめくれたスカートから見える太もも。太もものうえ、太さが違うというかまるくカーブしはじめてるのはもしや、
(ででで臀部が見えてるのでは!?)
お尻の危機だというのに先輩は身じろぎすらしない。
メイドちゃんがガッチガチにホールドしてるから動けないんだろうけど、先輩もメイドちゃんの肩にしっかりしがみつき、足元でウネウネしてる5本ほど生えた自慢の触手ちゃんを怯えた目で見てた。
「ま、禍々しい……」
しつれーい!!
ヌルヌル≫ベタベタ