予定不調和のあとの金策
空き教室の講壇の机の中はせまいけど、なかなかに落ち着く。
パニックになったのとまあまあ走ったから体力を消耗したな。
「まさかこうなるとは……」
いつも通り学校のエントランスを抜けて教室に向かっているとき、異変に気づいた。おなじく登校してるやつらがおれの背後を見て驚いたりこそこそ話したりしてたのだ。
揉め事とか気になるタイプのおれは迷わず振り返ったね。
「わ…っ?」
すれ違った生徒たちが男女の違いなく、瞬きもしないで動きを止めておれを見てた。思わずおれもストップ。
微動だにしない生徒たちのうしろ、ラデュレさんがエントランスから走ってくるのが確認できた。
「お嬢様! お逃げください!」
ラデュレさんの声が届くや踵を返して走り出す。
田舎ではモンスター相手に戦闘をする際、ためらいは命取りになるので仲間の言葉には瞬時に従うよう習ってたのが良かった。
学校の廊下にもかかわらず全力で走る!
間髪いれず雄叫びと複数の足音が背後でひびき、追いかけられているのがわかった。
いちおう令嬢らしさを心掛けつつ、廊下を走り一旦中庭にでたり窓からだれもいない空き教室に入ったりしてなんとかまいたのが、いま。
やっと息が整ってきたくらいだ。
「心当たりはオイルだよな」
自分の腕に鼻を近づけるとしっかりフルーツの香りがしてる。
ぜんぜん理由はわかんないけど、おれの変化っていったらこれしかないもんな。
「どういう効果なんだ……嗅ぐとゾンビになるとか唐突のホラー展開とかだったらどうしよう」
「想像力がチープだわ、海外ドラマ好きだったものね」
「うわ!?……ったぁ」
ガン!
びっくりして隠れてた机に頭ぶつけた。いてぇー。
仁王立ちしてたらしい刃丞が黒板側に回り込んでくる。教卓のなかで打った頭を押さえるおれと視線を合わせるようにしゃがんで呆れた顔をした。
「なにをしたのかしら?」
「まだ正確にはわかってない。てか、なんでここにいるんだよ」
「そんなの決まってるじゃない。親友のピンチに授業をさぼってやってきたのよ!」
「ああ……」
ふふんと得意げにしてるが、ウィステリア先輩に会ったときのようにメイドさんからの情報だろう。
「たぶん昨日使ったオイルのせいだとは思う」
「オイル? そういえば翔義、今日はいい香りさせてるわね」
おれのハマってる教卓に刃丞が顔を突っこんでクンクンと胸あたりの匂いを嗅ぐ。
「…………」
「……刃丞?」
「…………」
クンクンクンクン。
無心でおれをかぎ続けてるが、大丈夫なのか。もはやおれのおっぱいに鼻先埋めてる状態だが?
「刃丞!」
「……すっっごい! 唐揚げのにおいする!!」
バッ、と勢いよく顔を上げた刃丞が頬を赤らめていた。
「は?」
「ファミリーなコンビニのやつ! 部活帰りに食べたやつだわおいしそう!」
「うわわわわ!?」
口を大きく開けて「あーん」とか言いつつ抱きついてくるが、狭いせいで避けられない! 胸元をシャツ越しに口に咥えられる。待て待て!やばい!
「服ぬがすな!」
「ちょっとでいいの!」
「なにが!?」
「懐かしいし美味しそうだしなんか胸がキュウってするのを解消させて!」
「ぎゃー!? い、いでよ触手ちゃん!!」
ニュルン!!
細長い触手ちゃんが刃丞を縛りつける。そのまま黒板側へ貼り付けるように長さを調整。
おれも教卓から這い出て立ち上がる。しかし逃げる前にかくにんせねばならん。
「刃丞、唐揚げの匂いするんか? イチゴじゃなく?」
「一瞬フルーツっぽかったけど唐揚げ。安心して、いまの翔義は世界一美味しそうよ」
「お、おう」
鼻息荒い公爵令嬢も嫌だけど、うっとりした顔の親友とか見たくなかったよね。
おれは刃丞を置いて周囲を気にしながら空き教室を後にした。
空き教室から裏庭に移動したおれは無人のベンチに腰掛けていた。授業中だから当然なんだけど、不良もいないし猫ちゃんもいない。
ベンチにもたれて頭を整理する。
考えれば考えるほど謎は深まるんだけど、今までのおそらくおれの作った香り石オイルの効果ってことだけは確かだな。
近くにいると美味しそうな香りに感じられて、そして捕まえたくなる。もしくは好きになる?
(もしそうなら……いや、でも)
おれがひとつの可能性に気づき、そして方法を知らないために諦めようとしたとき、その人は来てくれた。
「カルダモン。無事だったか」
「シフリール先輩!?」
すこし息を乱したシフリール先輩が現れた。
「生徒たちに追いかけられていると聞いた。怪我はない?」
「近づいてはいけません! そしてお願いがあります!!」
シフリール先輩はふつうはおれが会えるような立場の人じゃない。このチャンスを逃してはだめだきっと。
先輩が驚いてるけど、まえに相談にのってくれるって言ってたし!
「香油の売り方教えてください!」




