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誘惑する男

イチゴの香りに包まれて眠ったおれは絶望した。

香油の残り香をまとったおれが学校に行くと、いつもと違うことに気づいたレゴちゃんが「いい香りですね」って普段より近くにいてくれたり、ピネちゃんたちもチヤホヤしてくれるかも、モテ期くるかも!って思ってたんだけど。


朝のおれは無臭だった……。


魔石で作ったオイルは効果が持続しないみたいだ。


それから教室に行ってびっくりしたんだけど昨日話したロベールは机に石置いてる。魔法の勉強楽しくてクラスメイトのことをあまりみてなかったのを後悔した。あいつ相当キャラ立ってる!おもしろそう!


「ごきげんようカエノメルさん」

「ごきげんようレゴ様」

「? どうかされまして?」

「い、いえ」


ロベールをチラチラ見てるのに気づかれてレゴちゃんに首をかしげられた。

令嬢じゃなければなー! あんなに楽しそうなやつがいるのに気軽に話しかけられないなんて。いつか友達になりたいぜ。


今日は午前も午後も座学だ。

ガゼボランチに行くまえに、裏庭の猫ちゃんがいるかみてこよーっと。

なんとおれの制服の胸ポケットには魚乾かしたやつが入ってる。意識するとうっすら魚臭い。しかしそれより乾物とはいえ鮮度もあるので早めに食べさせてあげたいのだ。


「……あれー猫ちゃーん? いないのかなー?」


ベンチ下を見るが猫ちゃんは不在。ついでに不良も不在。

残念だ……。もしかしたら木陰の奥にいるかな? 誰もいないのをいいことに、おれはガザガザ音を立ててベンチの裏にまわりこみ、こんもり刈り込んであるたくさんの低木の根本に四つん這いになって猫ちゃんを探した。


(おらんかー)


「あれ? ヴェガさんいないなぁ」


地面すれすれに顔を近づけてると女の子の声がして、ベンチのしたの隙間からはこちらに向かって立つ女生徒の足がみえた。


(おお、これは気まずいな……ん?)


四つん這いの姿勢のまま女生徒が立ち去るのを待ってると、さらに後ろから男子生徒が近づくのが見えた。


「だれを探しているのですか」

「え……、きゃっ」

「だれを、探しているのですか?」


うわぁあああ! すげぇー!!!

まじか? 目の前で起きてるのはマジの話か?


男子生徒が女生徒をいきなり壁ドンしてやがる。


「王子のつぎは魔法庁の息子ですか? レクティータ」

「フェナク様……」

「私のところにはきてくれないとはつれないですね」


おいやめろ。

男が女性をかっこつけて口説いてるのが、はたから見るとこんなに鳥肌をたてるものとはな。

そりゃおれもさぁ、前世では散々想像したよ?クソみたいにイケメンになって可愛い女優さんとかを相手に壁ドンやら顎クイやらしちゃうの。

いやーでもこれ現実ですと……


(つかフェナクって攻略対象じゃん)


相手はレクティータさんらしいので、イベント中ってことかな? 刃丞が関係しないならどんどんやってくれ。

ふたりはゴチャゴチャやってるが、見てても気まずいだけなので指先にもってた魚を口に入れてもちゃつく。自家製だけどなかなかうまい。


「離してくださいっ」


タッタッタッ……。軽やかな足音を立ててレクティータさんが走り去り、それをみて含み笑いしたフェナクもゆっくりと立ち去った。どうやらイベントはおわったらしい。


「はーっ……いやいや、まったく迷惑なもんですなぁー」


へひーっと息を吐いて立ち上がる。お昼遅くなっちゃうぜ。


「本当だね。こんな場所で女性を口説くなんてマナーがないと思うよ」

「ファ!?」

「驚かせたな。すまん」


ニコッ、キラッ。

曲がり角からふつうにシフリール先輩がでてきた。攻略対象者をふたりも見るなんて珍しい。


「いえ、わたくしこそ。はしたないところをお見せしましたわ、それでは失礼いたします」

「ああ」


もじもじ。令嬢らしく恥じらいをみせて油断させたところで、顔をそらしたまま去ろう。覗きなんてレディのすることじゃないからね、追求されるまえにサッサと消えよう。


「そうだ、カルダモン。きみの食べている魚の干物はとてもおいしそうだ。ぜひ我が家に届けてくれないか?」

「ぁえっ?」

「都合がついたらでかまわない。頼めないか?」

「は、はい。光栄でございます。必ずお届けいたしますわ」

「たのむ。これから昼なのだろう、引き止めてすまなかった」


キラキラッ。

シフリール先輩が爽やかに去ってゆく。


「なんなんだ……」


アドリブに弱いおれは心を疲弊させてガゼボに向かうのだった。

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