向き、不向き
おれが密かに楽しみにしていたBクラスの課外授業は延期された。
今日に!!
「これが採掘場……!」
王都内、もっとくわしくいうと城下町の北西に採掘場はあった。おれん家は郊外だけど方向ちがうから、こっちのほうぜんぜん来たことないな。
「きれいですわね」
「はい。こんなにたくさんのクリスタルは初めてみました。魔石が結晶化するってこんな感じなんですね」
「クリスタルになるに相当な魔力量と、運も必要だそうですわ」
口開けっぱなしで感心してるおれをニコニコ見ながらレゴちゃんが捕捉してくれる。
普段は立ち入り禁止区域だから周りを柵で囲ってある採掘場には、中央に地面から突き出るゴツゴツした岩があり所々クリスタル化した魔石がくっついてる。
もとは岩山だったそれはバランスよく掘られてるし、周囲は採掘が進んでるから家の中並に平できれいで、やっぱりそこここがクリスタルで輝いてる。ファンタジー世界に生きて15年経つけど初めてみる光景だった。
「はーい。みなさーん、本日はこちらで課外授業をおこないます。事前にお勉強したとおり、魔石の波動や特徴をとらえる訓練になりますので、しっかり行いましょう。では、安全に気をつけて……はじめ」
先生が手をパンと叩くとクラスメイトたちが石に近寄っていった。
採掘場の端では採掘の過程ででる小さな石のかけらを集めてあった。
おれたちはそこにお邪魔して、石に見えるものから魔石を選出するというのが今回の授業内容である。
「あぁら! 田舎で育ったのに魔石窟もみたことございませんの? 資源のない田舎ですわねぇー! ンホーッホッホッホ!!」
すごい。ド正面で蔑まれた。
ヒロインに立ち向かったあの刃丞を思うと、ラレールさんの立派な悪役ぶり。まじですごい。
「もう!またそんなことを……!」
「本当のことですわ。ビルン様もお付き合いする方を選ばれたらいかが?」
「カエノメルさんは素敵なお友達ですわ!」
「騙されてますわ! 田舎育ちの未熟者のくせに格上のわたくしたちにすり寄ってるのです!」
「失礼なことおっしゃらないで! カエノメルさんは優秀です!」
「あーら!! でしたら今回の魔石選出でもさぞ優秀な成績をおさめるのでしょうね!」
「もちろんですわ! カエノメルさんなら一番にだってなれます!!」
お、おお。レゴちゃんとラレールさんがヒートアップしてる。
「言いましたわね! 一番になれぬなら、お付き合いはおやめになった方がよろしいわね!」
「一番になりますもの! わたくしたちはずぅっとお友達ですわ!」
おれを置いてなにやら勝負するらしいけど、参加者はおれのみみたい。うそだろ、レゴちゃん……。
レゴちゃんがおれの手を取って石の溜まり場へ誘導してくれた。
「カエノメルさん、ごめんなさい勝手なことを言って。でもわたくしは本気でカエノメルさんならいちばんになれると思ってますの!」
興奮に目を潤ませながら、おれの手を両手で包んでぎゅっと握ってくれる。
「…やれるだけやってみますね。レゴ様とお友達でいたいですから」
「カエノメルさん……」
うるうる。
……! これはもしや、ちちっちゅーしてもオーケーな雰囲気では!?
いつかの刃丞みたいに自然に顔を寄せてチュッてしても怒られないやつじゃね!?
んはー! 緊張したきた!!
「ふたりとも、いちゃついてないで授業に集中しなさい」
いつの間にか真横にいた先生が冷静に注意してきた。おれの肩を掴んでるあたり解って止めてくれたんかな。ありがとう、あなたは間違いなく恩師だよ……。
小石の山を前にすると、全体的に魔力が満ちてるのがわかる。
両手にひとつづつ持つと石の角がなんだか鋭利だ。これは魔石の特徴のひとつだけど、こうなる普通の石だってある。
柔らかく握って集中すると、右手に持った石からは冷気を、左手からは鼓動のようなものを感じた。
(両方とも魔石だな)
さらに拾う。ゴツゴツしてるけど、どうだろう?
(集中しても反応はない普通の石かな。でももしかしたら……)
こういう場合は魔石の側に置いて共鳴するものは魔石だったはずだ。
おれは数個の石を先程の冷気を出す魔石のとなりに置いた。そして指先を当てて集中すると、ひとつからぐるぐると空気が回るような感触。
(これも魔石だったんだ。教科書どおりじゃんっ面白い!)
ならばゴツゴツした石をメインに鑑定していけばいい。
こういう地味な作業大好きなんだよなー。
おれは黙々と作業し続け、気づけば昼を迎えていた。
見渡すとすでに軽食を取り始めてる生徒ばかりだ。
「レゴ様、お昼ですわね」
「ええ。カエノメルさん、すごい集中力でしたわね。話しかけてもお気づきにならない様子でしたわ」
「こういう作業、好きなんです」
「まあ。それもきっと才能ですわね!」
ニコニコ笑ってるレゴちゃんと一緒に休憩場へ。
目にハンカチを乗せて休んでいたり、メイドさんに肩を揉んだりしてもらってる生徒がちらほらいた。
昼休憩を挟んでリフレッシュしたおれは、再び黙々と魔石探しを楽しんだのだった。
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