先輩と先輩
「なんやそれ、しらん」
お昼が終わった段階でメイドちゃんが「本日はローズマリー様とはお会いできないそうです」って刃丞んちのメイドさんから言われたらしく、放課後の予定が空いてしまった。
昼の話も気になるし、ウィステリア先輩に事情を聞こうと二年の学棟へ向かう途中運良くウィステリア先輩と会ったのでそのままサロンへ。
結果返ってきた答えが上記のやつだった。
「なんや、その想い人を諦めるの以外は嬉しそうやったんな?」
「はい。光栄です!って感じでした」
「んんー……なんやあったかなー」
腕を組んで上を仰ぎ見て考えるのが男らしい。これが本来の“空鉄”先輩の姿っぽいな。
「高位の貴族にしか伝わらん何かがあるのかもな。翔義くんが巻きこまれるゆーならどんな風にか、ちょっと調べてみよか」
「お願いしますっ」
ソファに座ったままペコっと頭を下げる。
「……ふふっ」
微笑ましげにこちらを見る先輩。
「どうかしましたか?」
「いや、後輩にこういう態度とられるのひさしぶり、ゆうか前世ぶりで懐かしいわ」
「ああー」
空手部ってもろ体育会系だもんね。貴族の子女は反応が全然違うだろう。
「ええこええこー」
ニコニコしながら頭を撫でてくる。
「……空手部の後輩にもこれを?」
「するわけない」
真顔のまま頭を撫でられ続けた。
「タラゴン? 珍しいな、後輩か」
急に声をかけられ、おれもウィステリア先輩もビクッとした。
いつも通りサロンの端っこだし、放課後だから人気もなかったはずなんだ。それなのに気配もないままめちゃくちゃ体格の良い男が、観葉植物越しとはいえ至近距離にいるとは……。
「……シフリール様、驚きましたわ。まったく気配がないのですもの」
「ははっすまん。タラゴンの楽しそうな声をきいて無意識にこちらへ来てしまった」
「まあ! 口説かれてるみたいですわ」
ウィステリア先輩が頬に両手をあててくねくねした。女子モードだな。
「タラゴンは可愛らしいな。後輩との団欒中すまなかった、では」
爽やかに去ろうとするイケメンマッチョ。
「あっ、お待ちになってシフリール様。少々うかがいたいことがありますの」
ウィステリア先輩がハッとして引き止め、イケメンマッチョは快くそれに応じてくれた。
そしてサロンとはいえ男女が物陰に一緒にいるのはよくないとして、すこし広いテーブルへと移った。紳士だな。
「お初にお目にかかります、カルダモン男爵家三女、一年のカエノメルと申します」
「俺はシフリール。ハーツイーズ・マルキオ・シフリールだ」
シフリール先輩は侯爵家の三男で、ウィステリア先輩と同じく二年のAクラス。魔法が優秀だから近衛騎士を目指しながら、魔法騎士となるべく勉強してるんだって。
ハーツイーズ侯爵家は騎士団長の家系で王家、ひいては国を守る軍部の一番うえの立場だ。
そう、つまりそんな偉い家系の息子ってことは攻略対象者ってこと!
(まさかこんなところで会うとは)
ウィステリア先輩も予想外だったらしく目配せしてくれた。
先輩のくれた資料には唯一の先輩枠で、さわやか騎士タイプの人って書いてあったな。
「わたくしの可愛い後輩ですの。シフリール様とも仲良くなれたらうれしいですわ」
「そうだな。カルダモン、なにか困ったことがあったら相談にのるよ」
ニコッ、キラッ。
微笑みと白い歯がまぶしいぜ。なんだこの頼れるイケメンは。
「それで聞きたいことというのはなんだい?」
「ええ、じつは最近ウワサになってる聖女様のことですわ」
「聖女様の、か……」
「クラスの女子どころか、学内の女子までどこか浮足立ってるように感じられて……恥ずかしながらわたくし、女子だけが騒ぎ立てる理由が思いあたりませんの」
ウィステリア先輩が全体的にぼやーっとした感じで聞いてくれた。
「きみがウワサに興味があるなんて、意外だな」
「あら、女はいつだってウワサに敏感ですのよ」
シフリール先輩は言いよどむみたいに苦笑した。
「……俺も詳しくは知らないが、女性が気にするといえば聖女様の侍女についてだろうね。貴族の中から数人が聖女様の侍女として、そして生涯の友として選ばれ、聖域で暮らすらしい」
「……っまあ!」
ウィステリア先輩がにわかに興奮しだした。
「身分の高い貴族の令嬢から選ばれるそうだよ」
「それはたいへんな栄誉でしょうね……聖域で聖女様と生涯をともに」
はふぅとため息をついて頬を染めてるが、これはなんか違う想像をしての興奮の気がする。すごく俗物なにおいがするぜ!
ウィステリア先輩がうっとりイマジネーションを膨らませるので、おれは大人しく紅茶をすすることにした。
ふと視線を感じて顔を上げるとシフリール先輩がガッツリこっちをみていて、目が合うとニコリと微笑んできた。
イケメンめ……。




