広がる噂
目をさましたらウィステリア先輩がとなりで魔導書を読んでた。美人だから絵になるなーとぼんやり見てたら目が合った。
「起きたんやね。気分は?」
「あー……寝不足みたいな感じです」
「魔力切れだから仕方ないな。ちょっと待ってな、お友達も隣で寝てるで」
頭痛に響かないように小声で伝えてくれた先輩がそっと立ち上がった。三つほど先のベッドでも誰か寝てるのか横にメイドさんが付いてる。
どうやら保健室に運び込まれたみたいだな。
魔法学校の保健室は大きい部屋にずらりとベッドが並んでいる。対抗戦とか授業とかで魔力切れになって倒れる生徒が多いからだ。
いまはおれともうひとりしか使ってないみたいだけど。
ウィステリア先輩がメイドさんに話しかけるとベッドで寝てた人物が跳ね起きてこちらへ駆け寄ってきた。
「……レゴちゃん? おごぉっ」
黄色い弾丸かな?ってぼーっと見てたらすぐに近づいて、つぎには腹に衝撃がきた。
「心配しましたわ!心配しましたわ……!」
「レ、レゴ様……」
ぎゃん泣きやんけ。
レゴちゃんのところのメイドさんも慌ててやってきて、ハンカチで顔を拭ったりおれからそっと剥がそうとしてくれるけどレゴちゃんはぎゅーぎゅー腹に抱きついたまま動かない。
助けを求めて視線をやったウィステリア先輩は両手で口を覆ってるが鼻血が隠しきれてない役立たずっぷり。
「わたくしが保健室に来たときのレゴさんの狼狽ぶりは本当に凄かったですのよ」
ウィステリア先輩がにやにや、いやこれは微笑んでるのか?おれに教えてくれる。
「一緒にいたご令嬢とモメていらしたわね」
「ラレール様とは絶交いたしましたのっ! カエノメルさんに謝るまで、わたくし許しません!」
「あらぁー」
目も鼻も真っ赤にしたレゴちゃんが怒った顔をして宣言した。
「ラレール様もいらしたんですね」
「転んだのをカエノメルさんがお助けなさったのでしょう? それでカエノメルさんはお倒れになったのに……!」
「お嬢様、そんなに興奮されてはまたお倒れになります」
「また……?」
レゴちゃん、ラレールさんとケンカして倒れたのか。
「レゴ様、ご心配ありがとうございます。おかげさまで、もうこのように起きられるようになりましたわ」
「カエノメルさん……」
「お嬢様、あまり居座ってはカルダモン様のお体に障ります。そろそろ……」
「あっそうね」
レゴちゃんは大人しく体を起こし、おれを見つめてくる。
「レゴ様?」
「カエノメルさん……」
じっと見てきたかと思ったら肩に両手を置かれた。そしてそのまま身を寄せ、おれの頬にフニッと唇をあて、当て、ああああ!??
「お大事になさってくださいね」
はにかんだあと、ごきげんようといってあっさりレゴちゃんたちは帰って行った。
なななん、なん、いまのはなんだったのでしょうか!? 唇が顔面にあたるなんてキッスのように思えるのですが!?
ファーストキスとしていいやつだよな!?!?!?
ねえ!ねぇえええ!!
「ええやん……」
両方の鼻から血を垂れ流して床に寝そべってる先輩をみて少し冷静にはなれた。
「お嬢様、我々も帰宅いたしましょう」
保健室の入り口あたりで気配をけしてたメイドちゃんがスススと寄ってきたので、先輩に挨拶してエントランスに向かった。
廊下にでると生徒はかなり少なく、エントランスに数人がいるだけだった。結構な時間寝ていたのかな。
メイドちゃんが馬車を呼ぶ間、ベンチに座っているとそばの貴族子息たちの会話が聞こえてきた。
「ああ、じゃあやはりあの黒銀は聖魔法なのか」
「たぶんだけどな。あの見事な白金色は間違いないだろうが、銀の魔力は数代前の聖女様がお使いだったとみな言っていた」
「夜空のような美しさだったものな」
「だれが使ったかはまだ誰も知らない、か……」
「Sクラスの女子だろうとは言われてるな」
おおー、もう噂になってる。
覚醒するとは資料で知っていたけど、あんなにド派手なデビュー戦とは思わなかった。
覚醒したってことはうまくイベントをこなせたのかな。
あれ、でもあんなに魔力使ったのに刃丞は魔力切れにならなかったんか。
(寝てたから何もわからんなー)
「お嬢様、馬車が到着いたしました」
「はぁい。………今日はローズマリー様のところへは行けないわよね?」
「はい。ローズマリー様からの使いには明日、放課後必ずお屋敷にくるようにとことづかっております」
「わかったわー」
刃丞もいろいろ周りに説明したいだろう。
早く家に帰って資料確認したい。
つぎの展開と刃丞が聖女にも追放にもならないエンディング模索しないとな。




