彼女の真実
「スカウト、でございますか」
どう考えても聖女に関してのことだよな? うちのメイドさんたちにも聞こえたようで部屋にピリッとした緊張感が走った。
地元で魔物を狩るときの空気じゃん!やめろよぉーなんも気づいてないレクティータさんの前では注意しづらいんだからな。
「はいっ! カエノメルさんに私の侍女さんになってもらいたくてお話に来たんです!」
(あー……)
おれも気になってたんだ、ヒロインの侍女問題。聖女選択のときはウィステリア先輩が付き添ってるけど、他に人が増える気配がない。そのウィステリア先輩はシフリール先輩と結婚するために侍女を断るだろうし、そうなるとたしかにレクティータさんには侍女が不在。
「考えてみてくださいませんか……?」
おれが考え込んでると、さっきまでのハツラツさは空元気だったのか不安そうに聞いてきた。よく見たら膝のうえに置いた指先が震えてる。
「………申し訳ございません。私はローズマリーさまの信頼を裏切ることを、たとえ言葉だけでも申し上げることも一考することもございません」
身分が違っても親友を裏切るようなことはできない。
おれは立ち上がって深々と頭を下げた。
うぅーそれでも心が痛い。不安と緊張を抱えてる女の子に対してひどいよな……。
何も言わないレクティータさん。おれも頭をあげずに自分の足をジッとみてた。
どれくらいそうしてたかわからないけど、ふいにレクティータさんがため息をついた。
「カエノメルさん、頭をあげてください」
「はい……」
「ふふっ、そんな顔しないでください。断られることはわかってたんです」
促されてソファに座ると、目の前にいるレクティータさんは晴れやかな顔をしてた。
「カエノメルさんはローズマリー様が大好きでしょう? 見ていてわかります。だから私のスカウトは失敗するってわかってました。……憧れちゃったんです、おふたりの関係に」
ギュウッと組んでた指先をほどいて、レクティータさんはゆっくり紅茶を飲んだ。
「……伯爵のおうちに引き取られたとき貴族のマナーも全然しらなかったし、メイドさんも都会の洗練されたキレイな人ばかりで、わたしは田舎育ちだから苛つかせてしまうことも多くて……。そんなとき自然体でローズマリー様と仲良くしてるカエノメルさんと会ったんです」
眩しそうに目を細めておれを見てくるけど、待て。
レクティータさんはメイドさんに冷たくされてたんじゃね? 思い返せば彼女の貴族らしくない行動の端々に、本来仕えるべきメイドの冷淡さがみえるぞ!
「ふふっ、一年生のときカエノメルさんの水魔法がかかったんですよ。冬の乾燥でピリピリしてた肌が保湿されるみたいで気持ちよかったなあ。あっそれに礼儀作法のことでウィステリア様をご紹介してくれたのもカエノメルさんですよね? お礼が遅くなっちゃったけどありがとうございます!」
「い、いえ」
「スカウトは失敗しちゃったけど、お礼がいえて良かった!」
ぜんぶ受け入れたみたいなレクティータさんの微笑みが心臓を痛くする。肌の乾燥とか礼儀作法なんて、身近にいるメイドさんがきづくとこだ。なのに!
「っうく、すみません、少々失礼いたします……っ」
おれは早足にサロンを出た。そして早足に自室へ向かう。
「お嬢様、どうかされましたか」
「うぐぅう〜!レクティータさまの現状がツラぐで涙ででぐるぅー」
部屋のドアを締めてから、噛んでた唇をほどいてダンドワさんに言った。
「たしかに伯爵のところのメイドたちは仕事を放棄していたようですね」
「んぐ、えっく、ヒドイ……!」
おれは顔をぐしょぐしょに濡らしながらクローゼットの中を漁る。いちばん奥に置いてた小箱を取り出して、心配気なダンドワさんを振り返った。
「そちらは……?」
「レクティータさまにあげる。すぐ戻るから、グズっ、この顔を直して」
ポーション使ってもらったりお化粧直ししてもらって、サロンへ戻った。
「お待たせして申し訳ございません」
「いいえ。突然来てしまったのだもの、忙しいですよね。わたしももう」
帰ろうとするレクティータさんのところへ行き、ソファの前に跪いて両手を握った。びっくりしてるけどこのまま進めるぞ!
「レクティータさま、確認がございます」
「は、はい」
「レクティータさまは聖女になりたいですか?」
瞳をまっすぐに見つめてきくと、ちょっと目を見開いて、すぐに微笑みが帰ってきた。
「はい。この三年間で私の力が多くの人の役に立つとわかりました。苦しむだれかのためになるなら、そしてこの力を正しく使うために、私は聖女になりたいです」
教会でひとりになっても。
おれはレクティータさんの覚悟を聞き届けて、迷いなく小箱を渡した。
「これは……?」
「白蛇のウロコです。今日から必ず身につけていてください。聖女選択のときも、必ず」
「…わかりました。ありがとうございます」
エントランスまで見送りにでる。当然ながらレクティータさんの馬車はなく、迎えもきていないのでうちの馬車で貴族街まで送ることになった。
「それでは、失礼しますね。また新年にお会いしましょうね!」
馬車の窓から顔を出して無邪気な笑顔を向けてくれるレクティータさん。
「レクティータさま、」
「はい」
「ぜったいに“会いにいきます”から!」
キョトンとしてる。
「どんな立場であっても、私は会いに行きます! だって私達はお友達ですもん!!」
「……はい!」
ガラガラと走り去っていく馬車を見送り、おれは決意を新たにしてた。
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