聖女襲来
晩餐会を終えたあとは、ローズマリー公爵令嬢のお友達は用意されたサロンに移動して二次会だ。
(お腹すいたなー)
さり気なくおなかを擦りながらサロンに移動し、そこでピネちゃんたちとも再会できてホッとした。
刃丞の交友関係だけなので女子しかいない。
うむ、もうこういう空間のほうが安心を覚えるようになってきたぜ。女子に緊張しなくなったぞ、前世のおれ! いま生まれ変わったらきっと吃らないな。
ピネちゃんハチクちゃんプリュネちゃんと、刃丞を囲むように部屋の奥のソファに座るとみんなおれの席順が気になってたらしく話題になった。
「メル、ニゲラ伯爵はどうでしたか?」
「どう……ですか。とてもお人柄の良い伯爵様でございました。かの方のご領地に住むものはしあわせでしょう」
「そうですね、ニゲラ伯は人格者として有名ですわ」
「ご子息が勇猛な騎士だったとか」
「奥方様もお優しい方と聞いたことありますわぁ〜」
へえ。家族の話をしなかったからわからないけど、みんな情報通だな。
「うんうん、わかったわ」
刃丞は満足げに頷いてるけど、なんの確認だろ。おれがあの席になったのは伯爵の希望みたいなこと言ってたから、一応ホスト側として気にしてくれたんかね。
それからは贈りあったプレゼントのこととか、ちょっとした恋愛話をしてたら窓の外が明るくなった。毎年恒例の魔法省が打ち上げる花火だ。
「綺麗ですわぁ」
だれともなく感嘆の言葉が呟かれる。サロンにいる女子の気持ちが一致する瞬間だ。
前世ほど灯りがないからひときわ華々しく見える。
「翔義」
「ん?」
みんなが窓の外に視線を向けてるところで、隣にすわってた刃丞が小声でおれの名前を呼んだ。
「バラありがとう」
「ああ、また赤いのにしちゃった」
「うれしいわ」
しみじみ言われると照れるな。おれは刃丞の顔が見られなくて花火が弾けるのを眺めながら「ん」と返事した。
聖夜祭が過ぎたらあとは新年までフリータイム。だけどつぎの新年は聖女選択大詰めの日だからのんきにしていられないのだ。
メイドさんたちが屋敷中の掃除をしてるなか、おれは自室で何度も目を通した“資料”を広げていた。
「いまの現状は」
前回までの結果から王子は刃丞派で間違いないだろう。
ヒロイン派はウィステリア先輩がフォローしてくれるシフリール先輩と、あと攻略が進んでるっぽいジンドールくん。
どちらの派閥かわからないのがヴェガと失恋したフェナクだ。
「でもヴェガはローズマリーに投票しがちだからなぁ」
二票入ると思ったほうがいいかも。そうなるとフェナクの投票先をヒロインにするのがいいんたけど……ああ、あとはヴェガの好感度を下げるとかか。
机の上の箱を見る。中身は魔力の影響を遮断する箱にいれられたイヤリングだ。ランダムに好感度を下げるらしいけど使ったとしても賭けだよなぁ。
最悪は引き分けの可能性も考えておいたほうがいいな。
「引き分けた場合は、」
「お嬢様、失礼いたします。ご来客でございます」
お掃除中の我が家に誰か来たみたいだ。おれは呼びに来てくれたラデュレさんに身支度を整えてもらいつつ来た人の名前を聞いたけど、なんで来たのかわからないぞ。とにかくお客さんを通したサロンへ急ぐ。
「お待たせいたしまして申し訳ございません。ようこそおいでくださいました、レクティータさま」
白の聖女ことヒロインであるレクティータさんが、行儀よくイスに座って紅茶をのんでた。
マジでなんできたの??
「カエノメルさん!」
おれの顔を見ると満面の笑みを浮かべて立ち上がる。そうしておれを出迎えるみたいに近づいてきて、両手を優しく捕らえられた。
「どうしてもお話したくてやってきてしまいました」
おれもアホじゃないので薄々わかってたんだけど、レクティータさんからおれへの好感度がなぜか高いよな? そんなに接点なかったと思うんだけど。
とりあえずイスに座らせて、おれは下座に座って対応することにした。うちのメイドさんも刃丞のライバルが来たことに心配してるようでサロンの壁にいるんだが、
(あれ?)
レクティータさんの侍女の姿がない、というか誰もいないぞ。
「レクティータさま、お付きの方はいかがされたのですか」
「あ……じつは黙って出てきてしまいましたの。わたしがローズマリー様の関係者と話すのを良く思わない人もいて……」
でしょうね!
いまはクローブ公爵とチャービル伯爵が聖女を武器にバチバチしてるとこだもん。なんだったらいちばん過熱してる時期だよ!
でもきっと、そういう貴族のあれこれより「みんな仲良くすべきです」っていうタイプなのかな。ヒロインだもんなぁ、心の清らかさは正しく聖女に選ばれる人らしいってやつか。
「……そうなのですか。あの、それでご用向きをお伺いしても」
とにかく話を聞こう。
「はいっ。私、カエノメルさんをスカウトしに来たんです!」
おん???
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