イチゴと遭遇イベント
夏の陽射しがやわらいで、たまに涼しい風が吹くようになったころ夏季休暇が明けた。
いつものランチタイム。
今日は刃丞の誘いを受けずにレゴちゃんと食堂でごはんだ。
「カエノメルさんとランチを一緒にするのって初めてですわね」
「はい。なんだか新鮮な気持ちになります」
お互いにニコニコして対面の席に着く。
食堂は広くて置かれた丸テーブルの間隔も大きくとってあり、雰囲気のいいレストランみたいな感じだ。といっても貴族が通う学校なので、給仕やメイドがランチのセッティングとかやってくれる。
「本日はローズマリー様のお誘いはよろしかったのですか?」
「はい。ローズマリー様もお忙しいようでしたし、わたくしとしましてもレゴ様のお誘いを受けたかったのです」
へへ。言っちゃった。
最近すごくレゴちゃんと仲良くなれてる気がするんだよね。
田舎の男爵家って人気があるポジションじゃないし、Bクラスでは挨拶とかはするけど親しく話す友達いなかったから嬉しいし楽しい。
それから運ばれてきたランチを食べ始める。我が家のメイドちゃんも過剰な緊張を強いられずリラックスした様子で、レゴちゃんとは終始和やかにごはんを食べられた。
「あっ、そうですわ。カエノメルさんはイチゴお好きでしょうか? 最近わたくしの家の領地で栽培をはじめたので、お味見していただけませんか」
レゴちゃんのところのメイドさんがイチゴが10個ほど並べられた木箱を差し出してきた。
「わあ! すごく美味しそうですわね!」
大きくて赤くて香りが強い。なにこれすごいぞ!
いただきますと言うとメイドさんが木箱から三粒ほどお皿に乗せてくれて、さらにおかわりできるように横にスタンバイしてくれる。
「んー!おいしいっ! イチゴって育てるのがとても難しいと聞いたことがありますけど、とっても甘くて形も素晴らしいですわね」
「ふふっありがとうございます。我が家はいろいろ調べるのが得意、というか好きで……イチゴ作りも色々な方からお話を伺ってたくさん試行錯誤しましたの」
そう言ってからレゴちゃんは少し恥ずかしそうにこちらを見て。
「今年の夏に納得できるイチゴができたと聞いたので、わたくし、カエノメルさんと食べたくて……お父様にお願いして分けていただいたのです。美味しいと言ってもらえてうれしいですわ」
きゅーん!!
なんやこの可愛い子は? 恋人とかそんなん越えてこう、なんだ! なんて言ったらいい!?
度を越したときめきに頭痛がしてきたとき、食堂の入り口がにわかに騒がしくなった。
「無礼ですわよ!」
よく知った声が怒号を発してる。
振り返るって入り口をみるとピネちゃんがブチ切れフェイスで背の低い女生徒と対峙していた。
「いくら伯爵家に引き取られたといっても身分を弁えなさいませ!」
「も、申し訳ございません……っ」
女生徒が頭を下げる。
刃丞はというと、いつもの3人の後ろで無表情で凛と立っていた。
が、そんなふうに見えるだけであれは呆然としてるな。
「行きましょうローズマリー様。やはり中庭でランチをいただきましょう」
ハチクちゃんが促して刃丞たちは去っていった。
「な、なんだったのでしょうか……」
落ち込んだ様子の女生徒も食堂から去ると、レゴちゃんが戸惑った様子でつぶやいた。
「ピネ様がお怒りになるなんて珍しいですわ」
ピネちゃん達は身分が高いのにすごく優しい。
現におれがランチに参加してても文句いわないし、たまに美味しいおやつ分けてくれる。怒られたこともない。
ただ、ひとつだけこうなる心当たりがあるけど……。
「カエノメルさん、ローズマリー様のご様子を見に行かれたほうが……」
レゴちゃんがそっと助言をくれた。
「そう、ですね……レゴ様、失礼いたしますわ。イチゴ、ほんとうに美味しかったです、ごちそうさまでした」
早足で廊下にでると黒髪のスタイルのいい女の人が待ち構えてた。手首を掴まれて廊下の柱の陰に連れ込まれた。
「ウィステリア先輩」
「ローズマリー様のところへ行くのね?」
「はい」
「明日、お話を聞かせて。……さっきのが遭遇イベントやで」
「!!」
想像したとおり、ヒロインが転校してきてすぐの『食堂で先制一発』イベントだったか!
おれのクラスでは特に転校生がいますとか先生からのお知らせなかったから、“ヒロイン転校してこない説”を願ってたんだけどそりゃそうだよね、Sクラスの話をBクラスでするわけない。
あー、あとで刃丞に謝らないとな。
当事者じゃないから学校終わったら話聞いてやればいいやとか考えてないで、今日のランチからそばに居てやればよかった。
おれは先輩とわかれて、走っていつものガゼボにむかった。
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