ひみつのはなし
「おまえに助けられたっつって兄妹がおれに渡してきたんだ。あいつらじゃ貴族に会えねぇからな」
ヴェガは完璧な説明をした気になってるが、え?これで全貌がわかるやついるの?
とりあえずおれもヴェガと同じベンチに座って、考えを整理することに。
兄妹はパン屋の件の子だろう。その子たちからのプレゼントって意外すぎて感動するぜ。どう見ても手作りだけどあんな小さい子が作ったのか、大切にしよう。
ハンカチを取り出して木彫りのネコをそぅっと包んで、膝の上にのせた。
「……それでどうして、ヴェガさまが仲介になるのですか?」
疑問なのはこの一点。家が近いとは思えないし、魔法省がスラムの管轄だなんて聞いたことない。
ぜんぜんわかんなくて、ヴェガを見上げたらちょっと考える素振りを見せた。考えるときのクセなのか、手で顎を擦ってる。その手の指が男らしくガッサガサなのをなんとなく眺めてたら、おれの顔を見て頷いた。
「うーん……まぁ、おまえならいいか」
「あ、言いたくないならべつに言わなく」
「おれの母親はスラム生まれだからな」
!?
え……っいや、え!? おれが聞いて良い事情かな!?
「は、はへ、え、あの、」
なんて言っていいかわからん。
「オヤジに見初められてメイドになって、おれが生まれた。でも母親は追い出されて行方知らずになった」
「……それは、なんというか……」
「んでその息子のおれはグレてんだよ。クソみたいな理由だろ」
「いえ、お身内が行方知らずってかなり深刻ですけど」
「ああ、説明足りてねーな。結構まえに他の街で再婚してんのが見つかってる。会いにも行ってっから、母親がしあわせなのは確認済みだ」
ううーん、展開がはやいな!
おかーさんが幸せなのは良かったけど、いやまぁ、本人としては荒れるよな。
「その母親探すのにスラムに出入りしてて昔の知り合いみたいな人たちと親交ができた。その流れでガキたちとも仲良んだよ」
「へぇー……」
「んじゃソレ、確かに渡したからな。おれが言えたことじゃねぇが女があんまスラムと関わんなよ、あぶねーから」
「あっ!お待ちください……!」
立ち上がって去ろうとするヴェガを瞬間的に呼び止めた。
けど、なにを聞いたらいいかわからん! 先輩からもらった“資料”にも書いてなかった事をどう確認したらいい!? それに重要なことを教えてくれたヴェガになんて言えば……
「なんだよ」
「……これを差し上げます」
立ち上がってポケットから小さい貝殻を取り出し、ヴェガの手をとって握らせた。中身はただの軟膏でこの世界のワセリン。
「無骨な手は頑張っている証拠といいますが、指の綺麗な男性はモテますのよ」
ニコ!
モテるかは知らんけどご令嬢スマイルでお茶を濁す。がんばれっていうのも違うし、慰めとか求めてないだろうし。
ヴェガはちょっとのあいだ棒立ちになってたが、手のひらにある貝殻を見てプハッと笑った。
「キレーになったら見せるわ」
「あ、結構です」
「みろよ!」
おれの頭をぐしゃぐしゃに撫でて、機嫌良さそうに帰って行くのを見送る。
なんかわかんないけど落ち込んでないならいいか。髪を乱されたのにはプンプンだが、今のおれは情報をまとめるほうが優先だからな。
誰もいなくなった校舎裏のベンチに座り直し、手鏡なしで手櫛で身嗜みを整える。
「……!だれです!」
ごく近くに気配を感じ、座ったまま警戒態勢をとった。
(校舎から離れた、ベンチに近いところにある大木の影。こんなに近いのに気づかなかった!一体何者、)
「ごめん、聞いちゃったわ。ごめん」
「刃丞!?」
木の影からそろ……と出てきたのは親友。
眉毛を下げて心底すまなそうに頭を下げた。
「ちょ、刃、いえローズマリーさま!頭をお上げください」
男爵家のおれ相手になんて、遠目にも見られたら変なことになる!
「……すまーん」
トボトボとおれのいるベンチまで来て、座ってもいいか聞いてくるから、手を掴んで体が密着するくらい近くに座らせた。
「なんでここに」
「……最近ゆっくりランチを取らないから、何してるのかしらって思って。翔義のことだからすぐ気づくと思ってたら意外と気づかれなくて、ネタバレするタイミングがなくてズルズルついてきちゃった……」
「気配ぜんぜん感じなかったもん、気づかなかった」
「聖魔法使うとちょっと気配薄くなるみたいなのよね」
ちょっとどころか消失してると思う。聖魔法も進化してんだな……。
「ヴェガの秘密を聞いてしまった罪悪感がすごい……ああ、もちろん誰にも言わないわ!友情に誓って!」
「わかってる、し、おれも誰にも言わない、言えない」
「ね。ふたりの心にしまっておきましょうか……」
ヒミツを知るって重たいぜ。
なんとなくあとは無言で、刃丞はおれの髪を直してくれて、昼休みが終わるまでふたりでベンチで過ごした。
ブクマ、評価ありがとうございます(^ν^)!
ブクマにょきにょき伸びててビックリだけど嬉しいです!




