扉越しの荒くれ者
パンがくるっていうのに逃げ出そうとしてる子どもたちをガッチリ抱き締めてたら、バルベロさんが布の袋にいれられたパンを持ってきてくれた。
妹のほうは放しても平気そうなので、兄の手を掴んだ状態で受け取る。
「はい。これは私からのおごりで」
「バーカバーカ!でーぶ!!」
「でっ!?」
バッとひったくるように袋を掴むと、兄は妹を連れて全速力で走って行ってしまった。捨て台詞のセンスが鋭すぎて見送ることしかできない。デブは、デブはやめろ……。
「捕まえますか?」
「いいよ。走る元気があんなら大丈夫そうだし」
顔が赤かったからおれが抱きしめてたことに照れたせいだろうからな。あのくらい年齢でも知らない女性のおっぱいは緊張の対象だ。わかるわ。
よいしょと立ち上がり、制服についた砂埃をポンポン叩いて落とす。バルベロさんもメイド服のポケットあたりを直してる。よしよし、暗器は奥の方にしまったな。
「それにしてもお嬢様、パン屋を制止するときがご年配のような口調でしたが」
「ああ、無意識にお母様の真似っぽくなっちゃった」
「奥さまの……?」
いや、前世のほうのお母様ね。世界線を越えても残るものってあるんだな!
「はぁーなんか冒険者ギルドに行くのめんどくなっちゃったな。今日のところは帰ろうか」
「かしこまりました」
スラム街があるのは知ってたし、どんなのか理解してるつもりだったけど、住んでる子達を間近でみたら自分で思ってたよりショックだったみたいだ。ちょっと気持ちの整理したい。
おれはその日は大人しく帰路についた。
翌日。
朝の教室でレゴちゃんとお話してたら、背後の入り口がざわつきだした。
何事かなって振り返ったら扉にもたれて近くの生徒に話しかけるヴェガがいた。
「おい、カエノメル呼んでくれ」
「ひっ」
「っチ……」
ガラが悪い。だいたい制服着崩した不良だし、表情が怖いから話しかけられた生徒が聞こえないふりして避けてる。そこへ舌打ちってもうほんと不良。よくないな!と眺めてたら目が合った。
「なんだよ、いるじゃねーか。ちょっと顔かせ」
顔かせって……女子の誘い方ワースト1位だろ。しかも顎でくいってして呼んでんの。ヴェガのことだから悪意はないし、ただ単に呼んでるだけなんだろうけど。
まぁ仕方ないか、王様相手でもあんなだしな。
呆れ半分で立ち上がる。
「カ、カエノメルさん、大丈夫ですの……っ?」
レゴちゃんが心配して声をかけてくれるので、にこりと微笑んで「大丈夫ですわ」と安心してもらうよう努めた。まだ安堵しきってはいないレゴちゃんたちに見送られて外に出る。
「ごきげんようヴェガさま」
「おう。今日はランチのあと時間あるか?」
「特に用はありませんわ」
「いつものベンチにいるから来てくれ。渡したいもんあんだよ」
渡したいもの? 首を傾げているうちに「じゃーな」とあっさり消えようとしてるヴェガ。Sクラスと逆方向にいく背中に声をかけようとして止めた。
席に戻ると、レゴちゃんのほかロベールとトミカちゃんも緊張した顔でおれを見上げてくる。
「呼び出されてましたけれど大丈夫ですの?」
「ぼくも一緒に付き添おうか、」
「…影から見守れますよ……」
「みなさま、ありがとうございます。お気持ちが嬉しいですわ!でもああ見えてヴェガさまはとても良い方ですから大丈夫です」
貴族社会であの見た目と言動は異質だけど、中身は結構紳士でちゃんと貴族のご子息だもんな。面倒見いいし。
刃丞たちとのランチが終わって、約束どおり三年の校舎裏へ行くとすでにヴェガがベンチに座ってた。やたら端っこに座ってるなと思ったら、ベンチのうえには猫ちゃん!
「おぅ、来たか」
「猫ちゃん、ひさしぶりですねー!お魚食べますかぁ?」
胸ポケットからお父様特製ペットのおやつ(改)を取り出す。ベンチで寛いでたらしい灰色の猫ちゃんにそっと近づき、ベンチの前にしゃがんでスティック状のおやつを差し出した。
クンクン嗅いだあと、柔らかいそれをアムッと咥えて立ち去る猫ちゃん。
「ああ〜……感想聞きけなかった。でも咥えてったってことは気に入った感じですよね?」
「猫の言葉はわかんねーけど、嫌いなのは持って帰んないだろ」
「ですよね!あ〜こんどは食べてるところ見たいなぁ」
「そうかよ。ほら」
「わっ」
ポイと放られたのを慌ててキャッチ。だいぶゆるく投げられたし、近距離だから難しくはなかった。
両手で獲ったものの、中身は片手で収まるくらいのちっちゃくて硬いもの。なんだろ?
「木彫りの……人形ですか。可愛いですね、クマかな?」
手のひら乗る、素朴な彫りで作られた動物の置物。ちゃんと耳があってなかなか可愛い。
「ネコだってよ。スラムのガキ達からだ」
「え?」
どんな経由の仕方してここに来たんだ。
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