お茶会の季節
気を失ってぐっすり眠り、起きたら木箱がサイドテーブルに置かれてた。外はすっかり夜で、おそらくもうすぐ夜明けになる。
うむ、寝たおかげで冷静になれたな。
「手紙読むか」
ベッドから抜け出し木箱ごと持って椅子へ腰掛ける。
リボンを解いてフタを開けると中身はお菓子。あの通り過ぎた流行りのお菓子さんのだ。さすが貴族向けなお店なので焼き色も綺麗なクッキーやフィナンシェだ。
おれは油紙に包まれた焼き菓子をひとつ取って食べる。
「うっま……!」
すごいぞこれは!高そうな味がする。
パクパクとひとつ食べきってふたつめのクッキーも手に取っちゃう、深夜なのに。
そのながれで封筒を開けて手紙に目を通した。
「なになにぃ……はーん」
めっちゃ丁寧に書かれた呼び出しでした。
予想どおり!あー!
なんの話かなんて想像つくし、なんて言ったらいいかわかんないぞ。気ぃ使うわー。
とりあえずあと三つほどお菓子を食べ、寝直すことにした。
朝。
夜中にお菓子食べたことをダンドワさんに見咎められ、笑顔で「ダイエットが必要ですね」って言われた。自分の敵は自分ってな……コルセットの締付けを思うと青ざめるしかないよね。
王子から指定されてるのは来週で、今週は招待されてるお茶会で予定がぎっちりである。
朝ごはんはスープだけにして、さっそく一件目へ。
「カルダモン様、ようこそいらっしゃいましたわ!ぜひ聖女様のお話を聞かせてくださいませ」
ふくよかなご婦人に出迎えられて、きれいに整備されたお庭で年配の方々に囲まれる。このパーティーの主催はゴシップ好きな子爵家。でも影響力というか拡散力がある家なので、刃丞の良い噂を撒くには最適だと教えられた。おれが撒くのは刃丞と王子が仲良しってことだけど。
おばさんが多いパーティーはおやつが美味しいから好きだ。
朝はあんまり食べてないから、スコーンとかドーナツをむしゃむしゃしてきた。
翌日はレゴちゃんち。最近仲良くなったレゴちゃんのお友達も集まってて、人数も少ないパーティーだったからリラックスして楽しめた。
「レゴさま、ご招待くださりありがとうございます」
「夏の間に会えて嬉しいですわ!」
満面の笑みのレゴちゃんに手をひかれ、相変わらず無骨なお屋敷のなかに可愛いデザインの庭へ。
夏なのにしっかり手入れされてるようで綺麗に咲いてる。今日はすこし暑いから外じゃなくて、庭とつながったサロンを開放してのパーティーだ。
「カエノメルさんは夏は地元へ帰ったのかい? あちらは少し涼しいのかな」
「そうですね、王都より風があるのでサラリとしてます」
「それは過ごしやすそうだ。ぼくは王都育ちだから、緑の多いところには憧れがあります」
室内楽が流れる部屋で、おれのとなりの席にはモーラーくん。
話し方も穏やかだし、さり気なく気を遣ってくれる良いやつ。たまに手紙のやりとりもしてるし、雰囲気が刃丞に似てるから、こう、安心する?みたいな感じ。
おれとしてはモーラーくんが婚約者になってくれたらって、お父様にも報告してんだけど「焦ることはないからね」って保留にされてる。
そんな感じでつぎつぎとお茶会をこなし、とうとう王子との約束の日になった。
指定場所はなんとクローブ公爵家。
「カミングアウトするつもりじゃ……」
嫌な想像に頭痛を覚えつつ、刃丞の家へ。
いつものメイドさんに案内されて、おそらく公爵家でいちばん良いサロンに行く。
「おそかったな」
「メル、ひさしぶりね。さあ座って!」
扉の先には仲良くティータイムを過ごすふたり。
よかった!王子がふつうの格好だ!
「カエノメル、贈った菓子は食べてみたか」
おう。核心に近い話題が早いな!しかし相手の出方がわかるまで冷静にいけ!おれ!
「はい。とても美味しかったです、ありがとうございます」
「そうか」
「…………」
刃丞がじーっと見てくる。なんだ?……あっ、王子の浮気を疑って!? お、お菓子もらっただけだから!
「ローズマリーさま、あの」
「お菓子屋にいるのを見たのね」
「っ!? な、なンのことでショウカ?」
はぁーと刃丞がため息をついた。
「わかってるわ。というか、アドバイスしたのはわたくしだから」
「んえ!?」
「ハッハッハ! ローズマリーには女性の服についていろいろ教えてもらった」
「は!?」
「お忍びのお手伝いをさせていただいたの。……バレるのがいちばん不味いでしょう」
後半コソッと言われた。た、たしかに。
なんだよ、刃丞も協力した事案だったんか……婚約解消みたいな話になったらどうしようかと。
「カエノメルとは店で目があったと思ったが、すぐに私とわかったのか?」
「は、はい。ああいえ、普通は男性とも判らないと思いますわ。少々背の高いご令嬢だとは思いましたが」
「そうか! 完璧であったろう?とても頑張ったからな。女性らしい仕草というのも研究して」
めちゃくちゃ良い顔でそのときのこと教えてくれる。満足そうだし、楽しかったんだな。
「王子、一度だけとのお約束ですわ」
「む。……だが、私だと判らないのだし」
「ダメです」
「……カエノメル」
いや、おれに助けを求めれても。
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