地元でゆっくり
王子を落ち着かせて三人でお茶会を続行したけど、王子に異変はなかった。刃丞のちかくに白蛇のウロコを隠して置いたから、聖女パワーみたいのが発揮されるかと思ったのに。
婚約者と語らいたいこともあるだろうから、おれは先に帰ることにした。帰り際、刃丞からふたつのアイテムはおれが持つよう言われた。
「万が一聖女のせいで変な効果が出たら、いやじゃない」
「おっけー。まだ使わないって判断だよな」
「ええ、冬までに考えましょう」
こっそりと話をまとめて、おれたちは別れた。
十日かけて地元へ戻る。
今回は馬車にヴェガからもらった振動軽減の魔石を取り付けたから、すごく快適な旅路だ。
夕方になるくらいで近くの村に泊まって、翌朝出発する。貴族なので無理しない行程で、さらにご近所の村でお金を使ってくるのも地主のお仕事なんだって。
「揺れないだけで、こんなに疲れが違うんだね」
「さようでございますね」
お尻の負担がぜんぜん違うもんなぁ。馬車の疲労で寝るんじゃなくて、ウトウト微睡めるってすごいぞ。以前のは“寝る”ではなく“気絶”だったんだな。
十日目の昼過ぎに領地の我が家につくと、みんな勢揃いで出迎えてくれた。
「メル、よく帰ってきたね!ああ、なんて可愛いんだろう!」
ひさしぶりに会ったお父様が溺愛してくる。
「メルちゃん! 寂しくなかった?」
そんなひさしぶりでもないはずのお母様も、愛いっぱいで抱き締めてくる。
やっぱりこの世界の人たちって、表現のしかたが素直っていうかストレートで感動する。
「ただいま戻りました。みんな元気でしたか?」
使用人さんもメイドさんもニコニコして、お帰りなさいませって言ってくれるから帰ってきて良かったなって思った。やっぱり地元って安心するよね。
部屋に荷物を運んでもらい、浮腫んだ足とか体を軽くマッサージしてもらって、着替えたりして休憩。半年ぶりだというのに我が家のベッドは寝心地良すぎだ……。
いつの間にか眠ってたらしくて、起きたら夕飯の時間だった。
「疲れはとれたかい?」
「メルちゃんは細いから、馬車の長旅はつらいのではなくて?」
「いいえ。それが学校でヴェガ様から魔石を頂戴して……、」
それからは学校であったこととか、人間関係のことを話した。お母様はいっしょに暮らしてたし、お父様にも手紙を書いてるから事情は知ってるはずだけどね。
ヴェガへのお礼は領地で扱ってる隣国の布とかペット用おやつとか色々送ったらしい。そしたらヴェガのお父さんが布を気に入ってくれて、ちょっと取引できるようになったんだって。
たしかにヴェガんちってちょっと異国感あったもんな。
「メルはヴェガ様みたいな男性はどう思うんだい?」
「どう、ですか?」
お父様からの唐突な質問。意図がわかんないというか、前世で親から異性のこと聞かれる体験ないから、どぎまぎしてしまう。しかしヴェガの評価かー……。
「人見知りなのか、あまり濃い人間関係は見受けられませんでした。王子とは良い友人のようです。魔力はさすがとしか言えないですが、意思も強いようですし、それを利用するような友人もいないかと。弱点となるモノはとくに思い当たらないです」
「いや、メルそうじゃない。政治的にどうかではなくて。男性として見たときどう思う?」
異性として!?
ふ、不良、としか……。
お父様が優しい顔で見てくるから答えないわけにはいかん。
「え、えー、とてもワイルド……野生的?で、面倒見が良い方です。魔石も惜しげなくくださるから慈悲深いところも……あ、あ、動物好きなのは良いですね。ですが、それを上回る野生的なところや粗野、いえ、えー……男らしい言葉遣いで、女性受けはどうでしょうか」
言葉選びに苦労するぜ!オブラートに包むの苦手なんだぞ。
ヴェガがいいやつなのは間違いない。前世で会ってたらめちゃくちゃ仲良くなりたかったし、なってたと思う。
「そうか。……よし、では婚約には乗り気ではないということで良いね!」
お父様が満面の笑み。
「婚約!?」
「万が一だけれどね。あちらさまが、それとなくアピールしてきたから。でもやり過ごせる言い方だったから大丈夫大丈夫。お父様が聞かなかったことにするからね」
あー。なるほど。
よく考えたら攻略対象者って、ゲームが終わるまで結婚どころか婚約者の姿がないもんな。ヒロインのもの(仮)みたいな存在だ。
ヴェガのところも名門だからそりゃ親は焦るか。
にしても焦ってるとはいえ、こんな田舎貴族にも話がくるとは。がんばれヴェガのパパ。
ブクマ、評価ありがとうございます(^ν^)!




