第三回、聖女選択開始
刃丞たちの向かった先に、腰までの高さの控えめなサイズの石碑があった。その前に三人でたつと聖女さまを中心にして祈りの姿勢をとった。
集められてる兵士たちは石碑の近くと、平原を囲む位置の二重に円陣を敷いていた。
おれと王子たちは聖女と兵士の間に配置され、守られる側でいる。貴族だしね。ピネちゃんとプリュネちゃんはそれぞれ魔法杖とレイピアを抜いて、完全に交戦の構えをとってるが。
「結界が解かれる瞬間をみるのは初めてですわ」
背後から聞こえだした祝詞に取り巻きのみんなは振り返るとうっとりした表情をうかべた。この国では聖女は憧れの存在だけど、その儀式をみる機会は少ない。
おれも刃丞が聖女としての役目を果たしてるのに、なんともいえない感動を覚えていた。
(選ばれたら、刃丞はほんとうに聖女になれるんだな)
背筋をのばしうすく目を閉じて、凛とした姿勢で祝詞をとなえてる姿は聖女と呼ばれても納得できる。ヒロインにだって負けてない。
三人の声がハーモニーとなって一つの声みたいになってくると、だんだんと魔力の膨らみと空気の歪みが強くなってきた。地面もこまかく振動している。
「そろそろですわ。皆さん、油断せずまいりましょう」
「「「 はい! 」」」
ピネちゃんの声かけに気合いを入れられた。
まもなく魔力がはじけ散るような衝撃波が風となって吹いた。街から離れている平原には七つ時の鐘の音は聞こえないが、いまがそうなんだろう。
結界がなくなると同時に魔物の気配が濃厚になる。ざわざわと呻き声や囁き声みたいな不快な音がして、
「きたぞ!」
「聖女様がたに決して近づけるな!ゲートを破壊しろ!」
兵士たちが動きだす。
剣戟と人ではないものの雄叫び。周囲がにわかに騒がしくなりはじめた。
見れば、うっすら光っていたはずの芝生は暗くなり、ズズズ……と黒い靄が固まった場所がそこここに出現し、その靄から魔物が飛び出してきていた。
またたく間に平原にあふれるくらいの魔物たち。
「魔物ってああやって生まれるんだ……」
初めて知った。ゲート壊せのゲートってあれだよな?
うちの領土でもゲート壊したら魔物少なくなるかな。いや、でも排出される魔物は決まってるのか? 大きいのはいないし、強さも前回より強いけどまだひとりで対処できるくらいだ。
「行きますわぁ〜!」
「おふたりは最終ラインと心得なさい!」
物思いにふけってるうちに、プリュネちゃんがレイピアを突き出して走り出し、ピネちゃんも魔法杖を魔力を練りながら振り回して後を追うように全力疾走。そのまま戦禍のなかに突入していく。
ハチクちゃんは握りしめた短剣の柄に魔力を練りはじめた。すぐに魔法は剣全体に満ちて、鋼が紫色に光った。
「まあ!ハチクさま、魔法剣を作れるようになりましたの!」
「え、ええ! この剣ならば麻痺毒を付与できますの。ローズマリー様まで行かせないよう足止めになりますでしょう!」
なんて健気なんだ! 取り巻きでいちばん戦いが不得意だったハチクちゃんが、刃丞のためにこんな魔法を会得するとは。
「キャァ!?」
「!」
シャアア!と雄叫びをあげて飛びかかってきた虫型の魔物を触手ちゃんでパシッと捕まえる。
頭を抱えて目を閉じてしまってたハチクちゃんに、身動きを封じた魔物を差し出した。
「ハチク様、麻痺をお願いします!」
「ヒッ……は、はい!」
魔物というよりも虫のフォルムに引いてるハチクちゃん。
しばらくはおれはハチクちゃんとふたりで兵士たちの防壁をくぐり抜けてきた魔物の処理に没頭した。
相変わらず背後からは祝詞が聴こえてきている。
よくわからないけど、たぶん散った魔力を集めるようなことを唱えてるっぽい。
キラキラした聖魔法特有の魔力が刃丞とレクティータさんの周りに集まってきてるのがわかった。これを結界になるまで固めたら勝ちってことなんか。
「よぉ、無事かよ。……どんな状況だこれは」
「ヴェガさま。ありがとうございます」
「ぅっ……うっ……助かりましたわ」
ハチクちゃんの魔物の処理が間に合わなくなってきたころ、ヴェガがやってきて触手ちゃんに捕らわれた魔物をはんぶんほど魔法で一掃してくれた。
虫が苦手なハチクちゃんは慣れるどころか半泣きなんだけど、残りの魔物を倒すべくすごいがんばって短剣を振るい続けてる。
「なんかわかんねーけど、これでも飲んでがんばれよ」
ポーションを置いて去っていった。毎回ヴェガは様子見にきてくれるな。
しばしして、こんどはフェナクがやってきた。
ちょうど魔物を捌ききって感動か恐怖かわからないで号泣してるハチクちゃんを抱きしめて慰めてるところだった。
「おや。てっきり泣いてると思いましたが、カエノメルは余裕そうですね。残りも僅かでしょうから頑張りなさい」
ハチクちゃん泣いてますが? おれの顔を見たら歩いてゲートの多いところへ向かっていった。レクティータさんのほうには……行かないみたいだ。ただの通りすがりかな。
「がんばっているようだな!」
聞き覚えのありまくる声に振り返ったら王子がいた。
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