二年時、冬季試験
冬季試験がはじまった。
午前中の筆記試験は大丈夫だったけど、問題は午後の実技。
今季の課題は『魔力の持続』
どんな手を使っても良いから、決められた時間だけ魔力を放出し続けられたら良判定がもらえる。感覚としてはBクラス限定マラソン大会ってかんじだ。
(お腹いたい)
ストレスで胃が痛い。原因はおのれのせいなんだけど。
瞬発力でもって攻撃や防御をするような魔力の使い方なら試験をパスできそうだけど、よりによって魔力を継続的に消費させるのがテーマって。魔力の疲労は内臓に疲労がたまるからタイミングが悪いとしかいえない。
「カエノメルさん、もしかして体調がよろしくないのでは……」
腹をさするおれに気づいたレゴちゃんが近寄ってきて、心配気に背中を撫でてくれてた。
「大丈夫ですわ。ご心配ありが」
「んまあ! いなかの貴族は体調管理もろくにできませんのねぇ! ンホーッホッホッホ!」
「「 できませんのねー! 」」
ラレールさんと取り巻きの女の子ふたりが現れた。
が、構えるほどの元気がない。すまんな。
レゴちゃんはラレールさんをチラッと見て「カエノメルさんは体調がお悪いのです。お静かになさって」と注意したあと、すぐまたおれの介抱に集中してくれる。
倒れるほどの不調じゃないがここぞとばかりに甘えちゃうおれ。だってちょっと凭れると抱き締めるようにして支えてくれるんだぞ!
「んまー! 無視とはいい度胸ですわね! せいぜい試験で恥をおかきにならないようにお気をつけあそばせ!」
「「 お気をつけあそばせっ 」
試験は呼ばれた数人がならんで受けるしくみで、最初のグループが水を出したり石を浮かせたりして各々評価を先生から伝えられていた。
つぎはラレールさんたちのグループが呼ばれて、三人並んで魔力の使用が始まった。ラレールさんは得意の風魔法でちいさな竜巻を起こしていて端から見ても安定してる。たいして周りの取り巻きの女子は操作が危なっかしく、出力が強くなったり弱くなったりだ。
「あっ!」
風魔法を使ってた人が慌てた声をあげたかと思ったら、急激に大きな風がまき起こりラレールさんの竜巻にぶつかりあたり一面に突風が吹いてしまった。
(この流れは……!)
恒例になってる気配があるレゴちゃんのスカート捲りが今年もおきてしまう!
「レゴさまっ」
「水の檻よ」
支えていてくれたレゴちゃんの体を咄嗟に抱き締めると同時に、冷静な声が耳元で聞こえた。
来るべき突風がこなくて、ギュッと閉じてた目を開けたら水の壁がおれとレゴちゃんを囲むようにして発動してた。
頭まですっぽりと覆う水のドームみたいとポカンとしてたら、
「ふふっ。わたくしも成長してますの」
レゴちゃんがにこりと微笑んだ。か、かっこいい……。
「みなさん、無事ですか」
「無事ですわ!」
先生の呼びかけにレゴちゃんをはじめ生徒たちの返事があり、ラレールさんたちの試験は終わった。ラレールさんは良判定だけど取り巻きの人はつぎまでの課題になったっぽい。
「レゴさま、ありがとうございました」
「いいえ。じつはわたくしのスカートよりも、カエノメルさんのスカートを守りたくて密かに練習してたのです」
照れながら言ってくるレゴちゃんが可愛すぎる!
感動したのと諸々の感情をまとめて、レゴちゃんを抱きしめちゃった。
「ではつぎ、さいごですね。ビルン嬢、カエノメル嬢……」
名前を呼ばれて先生の前まで行く。一列にならんだのはパーティメンバーだ。
「各自、やりやすい魔力で良いのでわたくしが止めと言うまで魔力を出し続けてくださいね。……では、はじめ!」
「水の輪!」
「石よ揺れろ」
「消えます……」
「いでよ触手ちゃん!」
レゴちゃん、ロベール、トミカちゃんがそれぞれ魔力を練りつつ発現させる。となりにいるトミカちゃんがスゥっと消えたのはちょっとびっくりした。もう消せるのが気配どころじゃないんだね!
おれも出しやすくてローコストな触手ちゃんを地面から出した。
ウニョウニョ〜って動かしそうになるのを堪えて、なるべく長持ちするようにぐったりさせておく。
「…………」
集中してるからみんな無言。先生も真剣に各魔法を見定めている。
おれの触手ちゃんも最初はおとなしく地面に伏していたが、徐々に震えたり、ピクッと動いたりしてきた。魔力が安定してないせいだ。
「く……っ」
集中!って思うんだけど、そのたび吐き気が……というかやっぱりお腹の痛みが強くなってきた。無意識に前かがみになってうつむいてしまう。
「カエノメル嬢、」
不審に思ったらしい先生が声をかけてくるけど、よく聞こえない。周りの音もザーッて雑音みたいだし、目の前が霞んできたような……
(あーやばいかも)
あたらめて触手ちゃんに集中しようとしたあたりでおれの意識は途絶えた。
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