先輩と雑貨屋さんデート
すっかり消沈したおれはハンカチに包んだ呪いのビーズを、じかに触るのがいやなので細い触手ちゃんが持つ。テーブルに触れさせるのも憚られるよな。
「お、俺から婚約解消するよう言おか?」
「いえ、どっちかっていうと友達が彼女できたの教えてくれなくて悲しいって気持ちなんで……っなんでだスタンリー!彼女できたらできたって言えよ、おれたち仲良かったじゃん!」
「仲良かったからちゃう……??」
ぐぐぐと悶てるのを先輩がテーブルの向かいから腕を伸ばして頭を撫でてくれた。
「なぁこんな雰囲気で言いにくいんやけど、見せたいもんあるんよ」
背中側に置いていた小さいバックから先輩が小箱を取り出した。木製で手のひらサイズ、なんか結婚指輪が入ってるやつみたいだ。それをテーブルの中央に置くと、おれに向けてパカッと開けてみせてくれた。
「白い……ウロコですか?」
箱に入ってたのは半透明な白蛇のウロコだった。3センチくらいで一枚だけ。これってまえにダンドワさんが言ってた女性の魔除けだか魅力を上げるだかのやつだよな。
「前回の湖の試験のとき、俺が蹴り倒した蛇から捕れたんよ。もしかしてと思って持ち帰ってみたんやけど、これもヒロインの魅力ステータスを上げるアイテムとしてゲームで登場したやつや」
「えっじゃあ効果があるってことですか!」
「これは後半に売られるような高いやつで、そのぶん買うとヒロインの魅力ステが爆上がりする」
「ば、ばく……っ」
一般的に売られてる魔法アイテムはそんな高い効果はでないし、あるとしたら王族やせいぜい高位貴族が買えるって値段だ。ダンドワさんのいってた白蛇の効果もおまじない程度っぽかったけど。
おれと同じ疑問を先輩ももっていたらしく、いろいろ検証したらしい。
「このウロコも珍しいけどそこまでチート能力はないし、外で試したりしたけど俺が持ってても劇的な変化はなかった。けどレクティータさんはちがう」
「魅力があがったんですか?」
「ああ、マナーの勉強してるときにたまたま持たせたんやけど……やばかった!聖魔法の影響は多少あるとは考えてたけどアレはやばすぎたっ!」
何を思い出したのか急に顔を手で覆う。
「ちゃうねん! 俺とのカップリングはちがうねん!」
聞いちゃいけないロクでもない事態になったんだろう。でも一応これだけは確かめなきゃいかん。
「……未遂ですか?」
「未遂やっ、俺のヘタレを褒めえ!!」
取り乱した先輩が落ち着いていつものしとやか令嬢の顔を取り戻したので、こんどは今日の本題である雑貨屋へ案内することになった。ポロンさんには「学校の先輩と遊びに行きます」って先に連絡しておいた。
「んん、外観からはピンとこないわ」
「ゲームで映像化してなかったんですか?」
「店内のグラフィックだけだったし、店主さんも“店主”って表記なの。アイテムのグラフィックはあったけれど」
先輩はこのポロンさんの雑貨屋がゲームででてきたアイテムショップじゃないかって思ってるらしい。
店のまえに衛兵をおき、おれたちはメイドさんを一人ずつつけて店内にはいった。
「カエノメルお嬢様、ようこそいらっしゃいました」
店には他に客らしい女性がひとりいたけど、ちょうど会計を済ませて出ていくところだったらしい。
ぽっちゃりでパッチリおめめのポロンさんが満面の笑みで出迎えてくれた。そして背後の先輩に素早く気づいて丁寧に礼をして自己紹介をしている。
「このような小さな店に伯爵家のお嬢様がいらっしゃるとは身に余る光栄です。本日はなにをお求めでしょうか、カエノメルお嬢様のご紹介ですもの、心をこめてご案内させていただきます」
「ありがとう。初めてだから最初はひとりで見て回っても良いかしら?」
「ええ、もちろんでございますわ」
いつも通りにみえて、なんかポロンさんの気合いがすごい。
疲れたときのためにお茶を用意しておくと言って、奥の高価なものがある部屋を整えはじめるポロンさんを見送った。
「どうです」
「驚いた……ゲームのままよ。あそこのポーションも、あのアクセサリーも、お菓子すら見覚えがあるわ」
「品揃えとしては値段ふくめて普通ですよね? さっきの女の人も庶民っぽかったですし、レアアイテムを扱ってはいないはずです」
「せやね、」
先輩が袋に包まれた焼き菓子を手に取る。うちの地元で作られる伝統的なやつだ。
「これ。これは食べると学力が少し上がるクッキーだったわ」
「……たしかにローズマリーが入ってます。地元では頭がスッキリするって言われてるけど気休めほどの効力です」
「おそらくその程度であっても聖魔法が作用すると現実にステータスが上がるのよ」
身を持って体験した人の言葉は重いなー。
「なにかしらその目」
「ふぎっ」
察しの良い先輩が鼻を摘んできた。息吸うとこだったから苦しいぜ。
「カエノメルさんの香油もここで売ってたのよね?」
「……はい」
「あの香油の効果は “好感度をあげる” だったわ。それをレクティータさんが使ってたとすると……」
おれのお小遣い稼ぎに暗雲がたちこめたのは理解できた。
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