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世界の運命のちから

ウィステリア先輩が足を組んで優雅に紅茶を飲んでる。黒いワンピースが清楚で、そこから覗く白い脚がまっすぐでキレイだ。


「……なるほどな」

「なんかわかりますか?」


おれと刃丞が一通りの説明をし終えると、先輩はティーカップを静かにおいておれたちを見た。キリッとした表情を美人がするとかっこいい。


「もしかしたら【運命】なのかもしれない」

「運命?」

「人間には決して抗えないこの世界の運命。もしくは強制力というてもいいかもしれん」


急にスピリチュアルなこと言ってきたからおれたちは首を傾げた。この世界はそりゃ女神信仰とかあるけど、とつぜん運命っていわれても。でも先輩の説明を聞いたら納得してきた。


きのう起きたイベント『試験勉強でクラクラ!たちくらみ』は試験日前に一定の確率で起きるサブイベントで、ヒーローの好感度と知力ステータスが一定以上のある場合のご褒美としてのものらしい。


「ここで重要なのは男の攻略にはそんなに影響しないってことや。起こさんと攻略が進まないメインと違てサブはオマケやな」

「起こしても好感度あがらないんですか?」


先輩からもらったゲームの“資料”にはサブイベントは書いてないから詳細がわからない。イベントなのに影響しないことなんてあるんだ。


「ほんの少しならあがる。でも微々たるもんやからその後にほぼ影響ない。ほかにも登下校で一緒になるのがあるけど、これもかなり回数を重ねなければ意味がない程度の好感度の増加や」


しかもランダム発生。ゲームならリセットして起こせるが現実ではほぼ無理ってことか。乙女ゲームって女性向けだからやさしい作りなんかと思ってたら、意外とシビアなとこあんだね。


「立ちくらみって言っているのだから、レクティータさんが自分で倒れるのよね?」

「せやで。そこを王子に抱きとめられて、寝不足をたしなめられるやつ」


寝なきゃダメだぞ☆コツン!みたいな?


「……倒れる前にわたくしが寝かせてしまったのだけれど、影響ないかしら」


レクティータさんがぴくりとも動かなかったのは刃丞のせいだった。王子が興奮してたのを見かけた刃丞がレクティータさんを助けようと慌てて聖魔法をぶつけに行ったら間違えてレクティータさんを眠らせちゃったんだって。


「さいきん王子ったら素早さが凄くあがってるみたいなのよ」


頬に手をあてて可愛く困ったわ、とか言ってるけど王子を鍛えたのお前だけどな。ふたりで運動部みたいに放課後も休みも体を鍛えてたの知ってるぞ。


先輩によるとヒロインへの好感度が上がってる可能性は低そうということだった。イベント不発ってことだもんね。


「その【運命】ってものが本当にあるのなら面倒ね」

「無意識にヒロインのために動くってこわいよなぁ。なんとか自覚できないのかな、王子ルートだけは阻止したんだけど」

「んー対処としては、とにかく男側の好感度をあげないことやろな。今回のは好感度あがってたでって目印と思おう」


そうだな。サブイベントを知れたし、あれは王子のメインイベントじゃないと判ったからひとまずは安心しよう。




「じゃあ、王子たちに今回のことをどう説明するか決めようぜ」

「そうね、本題だわ。……聖魔法使ったことはヒミツにしたほうがいいわよね」

「あと香油の効果のこともヒミツで頼む」

「なんや?香油って。……まあ、それならそうやなぁ。偶然居合わせたからようわからん、レクティータさんが急に倒れて、王子は体調が悪そうやったで!てことで押し通すのが穏便やないかな」

「すっとぼけるのね」


うむうむと刃丞が頷く。まあ確かに良くわかりませんっていうのが一番良いよな。

方針もあっさり決まったので、午後は登校できたけどおれたちは休むことに。三人で集まれることってなかなか無いから、これまでの経過報告をすることにした。


おれは二人の話はふだんよく聞いてたのから、先輩と刃丞が中心になってた。先輩のレクティータさんのマナー講習に関してはうまいこといってるらしい。


「伯爵家のホールで歩き方から言葉使いその他もろもろ教えてるんやけど、あそこのメイドはダメやな。レクティータさんに関心がなさそうや」

「貴族のマナーを知らなかったのはそのせいかしら」

「そうやろな。教えられてなかったと思う。で、本人はええこでなぁ、おれもう、可哀想で抱きしめたくなったわ」


先輩が涙を拭うふりをしてため息をついた。

そんなにか。メイドさん、お供で学校まで来てんのにな。


あ、待てよ。そういえば先輩ってこのまえの“聖女選択”のときレクティータさん側に立ってたのを聞かなきゃいかん。裏切りとは思わないけど、どういう立場なのかとか詳しく。


「わたくしは裏切ったなって思ったけれど。空鉄先輩も貴族だし」

「ひどい!? かわいい後輩たちを裏切るわけないやろが、かわいいな!」


刃丞がイタズラっこみたいに笑ってるのを見た先輩が鼻血をだしてた。隣にいたおれがハンカチで鼻を拭いてやると幸せそうな顔してもたれてきた。重い。


レクティータさん側にいたのは先輩も予想外だったらしい。

おれたちを心配して一応王城にいったものの門番に止められ、聖女との関係を確認するのに待たされることに。

おとなしく待ってたらレクティータさんの馬車が城に入っていくのを目撃して、しばらくすると騎士が「聖女様の関係者ですね」って迎えにきたんだって。そのまま付いていったらあそこに立たされ、おれたちと気まずく目が合うことになったと。


「いま思えばチャービル伯爵に嵌めれたんやな」

「レクティータさんには侍女候補がいないものね」

 

恐らく馬車から伯爵が先輩をみつけて、侍女候補のいない娘の隣にたたせたろ!ってなったんだろうって。

なるほどなぁ。知らないうちそうされるなんて嫌だろうに、先輩も刃丞も気にやんだ感じはない。高位の貴族って陰謀に巻き込まれ慣れてんだな。メンタル鍛えられそうだ……。




ひととおり打ち合わせが終わって解散になった。

刃丞はいまから王子にアポイントをとって放課後会うことにした。早速「わからないけど、ご無事ですか?」っていう微妙な説明をしにいくらしい。


先輩はおれの香油の説明を聞いてむずかしい顔をしてた なにかあるのかな。確かめたい事があるっていうから後日いっしょに雑貨屋につれてく約束をした。


さて。まだ午後も早い時間だから、家に帰ったら触手ちゃんの強化訓練しておこうかな。

ブクマ、評価ありがとうございます(^ν^)誤字脱字あったらすみません!

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