菫
(なんてきれいでかわいらしい!)
彼女をみたら、そう思わざるを得ない。
真っ白な肌、赤い頰、ちいさな唇、
真っ黒な髪を腰あたりまで伸ばし、清潔そうな大きな目をクリクリさせている。
少し大きなブレザー、真新しいローファー。
だれか、人を待っているようで、時々顔を上げて遠くを見ている。
その時に顔にかかった髪の毛を、手ですくう仕草が、また愛おしい。
右目の下にある泣きぼくろが色っぽいのが、どこか幼い顔つきの彼女には不律合いで。
大きくなったら、美しい少女となるだろう。
私は、鞄を置いた。
薄汚れたローファー、桜の花びらと蒲公英。
そして菫。
春風がが優しく後押しする。
私は幾らかの菫で、ちいさなちいさなブーケを作った。
ブーケを優しく右手で持った。
そして、一輪の蒲公英と綿毛になった蒲公英を左手に持った。
春風がまた、背中を撫ぜる。
私は彼女の元へ駆け寄る。
「貴女、新入生よね。」
私の言葉に、彼女は驚いたように目を見開く。愛おしい。
「これ、あげるわ。」
半ば押し付けるように、菫のブーケを渡した。
そして、ブレザーの胸ポケットに蒲公英を入れた。
彼女は嬉しそうに胸にブーケを抱きしめた。
「有難う御座います。」
鈴がなるような可憐で美しい声だ。
彼女の名を誰かが読んだ。待ち人が来たのだろう。可愛い名前。『スミレ』。
「では。」
小さく会釈をして、駆ける彼女の後ろ姿を見送った。
後に残るは綿毛と桜。
散る花弁は美しい。
恋も儚く散りますか?