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近く彩る恋模様  作者: 葵翠
【腐れ縁】
24/25

後日談

ベネディクト視点の後日談になります。

楽しんでいただけたらと思います。

 その後、俺とキラの結婚話は流れるように進んでいった。

 俺とキラが好き同士だったということがわかったその日にアマリアには説明をし、その翌日には両親にも結婚の意を伝えた。

 親父は目を剥くほどに驚いたが、キラが嫁に行くどころか嫁に来ることがわかると持ち前の馬鹿力で「よくやった!」と俺の背を何度も叩いて喜んだ。あれには息がつまって死ぬかと思った。

 そんな親父を止めたのは「何言ってるのよ。よくやったのはキラちゃんの方よ」というお袋の言葉だった。詳細は伝えなかったが、どうやらお袋は元からキラの想いを知っていたらしい。というかひょっとしたらキラと結託していたのかもしれない。


 で、それからキラの両親にも挨拶をすると二つ返事で了承された。むしろ勝手知ったる隣同士な間柄だし特別なものはなにもいらないだろうと速攻で籍を入れることを提案された。

 流石に互いの気持ちを理解して一週間も経ってないのに婚姻はと慌てたわけだが、これに待ったをかけたのはアマリアだった。


「わたし、キラにドレスを作るって約束してるんです!」


 という主張からである。アマリアが自分の結婚式の時にそう言っていたのはみんなが知っていることでもあった。

 ごく普通の一般家庭同士の結婚では少しだけ見た目のいい服を着て身内のみで宣誓式を行うわけであり、ドレスなんか必要ないわけだが、そのアマリアの言葉に発破をかけられたのが親父である。

 アマリアのドレス姿を思い出し、キラで想像し、花が咲いたかのように大いにアマリアに同意した。親父は本気でキラのこと気に言ってるからな。

 で、そうなるとうちのお袋は「確かに見てみたいけど」となり、キラの両親はキラに任せるとなった。

 肝心のキラはそこまでドレスには関心がなかったようだが、アマリアたっての願いともなれば頷かないはずもない。


 そうしてアマリアは嬉々としてキラのドレスを仕立て初め――今日、仕上がったものに袖を通しての最終調整をすることになった。


「どうかな?」


 アマリアの新居へ行くと通された部屋には二着の衣装がトルソーに着せられていた。

 一着は白とグレーの燕尾服。

 もう一着は純白に細かな花柄が刺繍されたドレス。

 トルソーが並んでいるのを見るとなかなか良さそうだが、これを自分達が着るのかと思うと若干気後れしてしまうのは庶民だからだろうか。

 一応予算に合わせて作ってもらってはいるものの、それでもアマリアの伝手で良いものをかなり安く入手しているし、そもそもこんなものを着る機会なんか一生に一度だってないはずなのだ。


「うん、良いんじゃないかな」


 感想を言い淀む俺の横でキラはドレスを見て頷いた。

 ドレスは俺の知るふわふわしたものではなく、むしろすらりとしたものだった。体の線に沿ったものであり、尻からは一度狭まるものの足元で再び広がりを見せている。

 これをキラが着ると思うと……まぁ似合うだろう。細身で背が高いのにスタイルはいいからな。


「流石アマリア。私の好みをよく分かってる」


「えへへ」


 褒められたアマリアは嬉しそうに頬を緩めた。アマリアはキラに懐きすぎだよな。その半分でも俺に向けてくれたら――


「じゃあお兄ちゃんは隣の部屋で待っててね」


「……ああ」


 だよな。

 ため息をつくとキラがそっと俺の肩を叩いた。


「試着、楽しみにしてて下さいね」


 そのキラの顔があまりにも幸せそうな笑みを浮かべてたもんだから、俺もつい笑みを浮かべてしまった。


「ああ」


 不思議なものであれほどアマリアを奪った幼馴染が疎ましかったというのに、今はキラが俺に笑いかけてくれるならいいか、と思ってしまう。

 あんなに楽しそうに、嬉しそうに俺に笑いかけてくれるなら、と。


 そうして俺は隣の部屋へと移った。

 アマリアの新居は広くて大きい。居間に寝室にアマリアの作業部屋、その他にもいくつかあるらしく流石は伴侶が騎士なだけはある。

 さっきいたのがアマリアの作業部屋で、ここは客間になるらしい。

 すでに用意してもらっていたコーヒーを飲みながら、俺は持参していた本を広げた。

 女のドレスってやつは着るのも時間がかかるし、最終調整も事細かになるらしく、時間を潰すものを持って来た方がいいかもしれないと聞いていたのだ。


 栞を挟んだ部分を開いて早速目を走らせ始めると、程なくして隣から歓声のようなものが上がった。

 アマリアのその声は内容まではわからないものの相当興奮した様子であり、かなり良いドレスの出来具合だったんだろうと口元を綻ばせる。

 ドレスで着飾ったキラを想像して、心が浮いていく。


「お兄ちゃん、凄いの!見に来て!」


 と、かなり早い――というか早すぎる――段階でアマリアがドアを開けてやって来た。

 本から顔を上げるとそこには紅潮したアマリアしかおらず、作業部屋に入るように手招きされた。

 一ページも読み切ることのなかった短時間のことに違和感を覚えたものの、キラの姿を見たいという気持ちの方が強かった俺は弾む気持ちで作業部屋へと足を踏み入れ――目を見開いた。


「……は……、え、ん……!?」


 そこにいのは当然キラだった。

 細身で女にしては長身な、間違いなくキラだった。

 だが、なんで、どうして――


 どうして男装してるんだ!?


「凄いでしょう?やっぱりキラは王子様よね!」


 立ち尽くす俺の横でアマリアが手を握りながら鼻息荒く同意を求めてくるが、それどころではなかった。

 キラの全身を上から下まで見て、ただただ呆然とする。


「ベネディクトさんよりも似合ってるんじゃない?」


 などと飄々と言ってのけるキラは、ドレスではなくその横のトルソーの着ていた燕尾服に身を包んでいた。

 長さのある髪は後ろで一本に括られ、ご丁寧に白い手袋までつけている。


「……待て、なんでお前がそれを着てるんだ」


 しばらくなんの反応もできず、ようやく動いた頭で問いかけた。


「なんでって、私がこれを着るのなんて決まってるじゃないですか」


 なんでだ。

 普通女はドレスだろう。

 っつーか、キラがそれを着るんだったら俺は何を着るんだ?


「……まさか」


 脱がされたトルソーの隣のドレスが目に入り、嫌な汗が伝う。


「楽しみにしてて下さいと言ったじゃないですか」


 極上の笑みを浮かべるキラに知らず後退る。

 すごく良い笑みなのに、顔が痙攣らずにはいられない。


「ほら、ベネディクトさんも試着してみましょう」


 なんてドレスをトルソーごと押し出され、首を振る。

 おかしい。あり得ない。あり得るわけがないのに笑い飛ばせないこの恐怖感。

 しかもアマリアもどことなく期待に満ちた目をしている。


「ま、待て。落ち着け。俺がそんなもの着て誰が得するんだ」


 極力刺激しないようにと静かに両手の平を二人に向ける。

 なんでこんな展開になってるんだ。

 百歩譲ってキラが燕尾服を着るのはいいとしよう。だが俺がドレスを着る意味がわからない。そんなもの着るのは変態だ。ただの犯罪者だ。


「別に損得の話ではありませんよ。ただ単に男女の立ち位置としてこうなっただけで」


「普通に俺が男でキラが女だろ!?」


 何故そうなる。

 二人の気迫にやや涙目になりそうになるのをこらえて首を振る。


「ですが結婚を迫ったのは私で、それを受けたのはベネディクトさんですよ?」


 だからなんだっていうんだ。

 そう言いたいのに何故か言葉が出てこない俺は、ただ一歩、また一歩と後ずさることしか出来ない。


「いや、頼むからやめてくれ。俺がそんなもの着るとか、本気でやめてくれ」


「ダメですよ。ちゃんとアマリアがベネディクトさんの体に合わせて作ってくれたんですから」


「俺がドレス着た姿なんて誰が喜ぶんだよ!?親父もお袋も見たがってるのはキラのドレス姿だろ!?」


「アマリアは喜んでますよ?」


「あああ、アマリアっ、頼むからその思考をなんとかしてくれっ」


 なんて会話をしつつ後退し、やがて壁に背が行き当たった。

 まずい。逃げ場がない。

 つ、と背中に汗が垂れるのを感じたその時、キラが真剣な表情で俺を見た。


「どうしてもドレスを着るのは嫌ですか?」


「嫌に決まってるだろうがっ」


 瞬間的に応じれば、キラは仕方ないとばかりに首を振った。


「でしたら――男性としてやるべきことをしてください」


「は……?」


 言われた言葉の意味がわからずに瞬きする。

 男としてやるべきことをする?

 暫く考えて、さっきも男女の立ち位置がと言っていたことを思い出すが、それでも原因が見当たらずにいるとキラが少しだけむっとしたように口を曲げた。

 どこか面白くないような、つまらないようなその様子にらしからぬものを感じてぽかんと口を開ける。

 するとその間に駆け寄ってきたアマリアが小さな声で言った。


「あのね、お兄ちゃん。旦那様が言ってたの」


 潜めた声でアマリアはそっと俺に耳打ちした。


「求婚は古来より男の人からするものだって」


 言われてさらに口を大きく開く。

 つまりなんだ?

 キラは自分から求婚して、俺が受けたから服装を逆にするといってるのか?

 そんな部分にこだわってるなんて露にも思っていなかったが、未だにへの字口のキラを見るとどことなく拗ねているように見えなくもなかった。


 ……ひょっとして、俺に求婚されたかったのか?


「キラ?」


 思わず名前を呼べば、キラは顔を背けたままに告げた。


「別に私はベネディクトさんがドレスを着て私が燕尾服を着てもいいんですよ?でも――どうしても嫌だというのなら、仕切り直ししてください」


 つんとすました様子のキラに、俺は強張っていた力が全身から抜けた。

 俺がドレスを嫌がるのなんてわかりきったことだ。にもかかわらずそんなことを言う理由は一つしかない。

 つまるところ、求婚して欲しいってことだ。

 素直に言わないところがなんともキラらしく――不覚にも可愛いと思ってしまった。


「アマリア、ちょっと部屋出てろ」


「うんっ」


 にこにこ顔のアマリアがドアの向こうへと姿を消したのを音で確認して、俺はキラへと歩み寄るのだった――。

読んでいただきありがとうございます。

明日も更新予定です。

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