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近く彩る恋模様  作者: 葵翠
【腐れ縁】
23/25

終息≪悶絶≫

楽しんでいただければと思います。

「そんな反応は一般的に異性の女性に対する――愛する人にするものです」


 そう言われて虚をつかれたようだった。

 幼馴染がなにを言っているのかよく分からない。

 だがその後の幼馴染の言葉を聞くうちに、アマリアと幼馴染の違いについてを語られ、ひょっとしたら俺の抱える感情は違ったものだったのかもしれないと思うようになった。


 アマリアが笑えば嬉しいし、可愛いと思う。可愛すぎてがん見するほどだ。

 だが幼馴染が笑えば気恥ずかしい。気恥ずかしくて視線を外すが、まだ見てたくてこっそり何度も見てしまう。


 アマリアの寝間着姿なんて見慣れすぎててどうとも思わない。

 けど幼馴染の寝間着姿は落ち着かない。勿論見慣れていないということも大きいが無防備すぎるのだ。無防備な姿をしているのは幼馴染なのに、こっちが気になってしょうがない。


 アマリアの結婚は相手を知らなかった時は断固反対だったが、トゥーレ騎士でありアマリアの趣味をまるごと理解した上で迎え入れてくれる点も大きくはあったが、黙って見送るべきだと。幸せになれ、と願った。

 ところが幼馴染はどうだ?結婚するかもしれないと言われてそわそわして、一瞬でも幼馴染が俺のことを好きなのかもしれないと思えば嬉しくなり、同時に結婚されるのが嫌でたまらなくなった。


「アマリアは(自分のもの)で、私は(自分のもの)じゃない。その事を心の奥底では理解してたはずですよ」


 そう言われて、静かに考える。


「俺はお前を、キラを好き、なのか……?」


 言葉に出して名前を呼んで気づく。

 そうだ。何より違っているのは、俺がこいつを『幼馴染』と思っていることだ。

 嫌味ばかりのこいつを名前で呼ぶのは癪に障ると「おい」とか「お前」とかで呼んでいた。そして関係を聞かれたら『妹の親友』とか『幼馴染の腐れ縁』とか答えていた。

 本当に妹と思っていたなら『妹みたいなもの』だとか言うんじゃないのか?

 俺は――


「結婚、してくれますね?」


 自分の心に手を当てて、そうして俺はキラのその言葉に頷いた。

 そうして、キラが身体を下ろして唇が重なった。

 今まで一度もしたことのなかったそれはものすごく柔らかくて、そしてそんなことキラからされていることに驚きに目を見開いた。

 が、悪い気はしない。というか、これ、すっごくいいのな。

 どこか満たされた思いで離れていくキラを見つめ、そして俺はあるものを見つけてしまった。

 ボタンの外されたままのシャツから覗く、白くて唇以上に柔らかそうなものを。


 瞬間的に視線を反らせたのは、咄嗟のことだった。

 とにかくそれを見ちゃいけない気がして服を着なおしてもらおうとどもりながらも伝えると、恥じらいがないのか経験豊富なのか、キラは取り乱すこともなくじっと自分の身体を見下ろした。

 早くそのやばそうなものを隠してくれ!

 そう思っているのにキラは動こうとしない。

 視線を反らせるだけでなく目すらもつぶって待っていると、ようやくキラが動き出したようだ。

 ごそごそと衣摺れの音が聞こえてほっと身体の力を抜く。


「すみません、服がシワになりましたね」


 そう言って俺の服も整えてくれたようだ。さらに体重の動きを感じて、上から退いてくれるのだろうと待って――そうしてベルトを引っ張られるような感覚を受けて目を開けた。


「おっ、おい!何してる!?」


 そこには四つん這いの状態で俺のベルトを外そうとしているキラの姿があった。


「何って、想いを交わしあって結婚の約束までした男女がその後にやることなんて一つしかないじゃないですか」


 言うと慌てた俺の上半身にキラがのしかかった。

 っつーかなんで俺のシャツがはだけられてるんだ!?


「待て待て待て待て!いろいろとおかしくないか!?」


 なんとかキラを押し返そうと試みるものの、激しい動揺からかうまく動けない。


「何処がおかしいんです?」


「俺はまだお前への想いを自覚したばかりだぞ!」


「でも結婚するほどの好き同士じゃないですか。ごく自然の流れでしょう」


 あくまで淡々と答えるキラは、ある意味いつも通りだった。


「けどこういうのは、逆だろ!?普通は男がのし掛かるものでだな」


「問題ありません」


「ある!ありまくりだ!」


 なんて抵抗していると、動きの激しさからかキラのシャツが肩からずり落ちた。

 思ったよりも断然華奢な白い肩と胸元がはっきりと晒されて思わず動きが止まる。

 キラはその隙にベルトを外し、再び攻防が始まる。

 本気の力づくで抵抗してキラをソファから振り落とすわけにもいかずに、心の中で助けを求める。


 誰か、誰か何とかしてくれ!


 ――と、そんな俺の声を聞き届けてくれたのか、なにやら外から物音がした。

 来客だろうか。早く来てくれと願い、そして。


「キラ、お兄ちゃん、ただい、ま……?」


 やってきたのはアマリアだった。

 ドアを開けた姿勢のまま俺達の姿に固まる。


「あま――」


「おかえり。悪いけどちょっと取り込み中」


 俺の声を遮ってキラが言うと、固まっていたアマリアがその頬を徐々に紅潮させていった。


「うん……うんっ!邪魔しないわ!」


 その目に浮かぶ熱に嫌なものが背中を伝う。

 兄が襲われててなぜ喜ぶ。


「やっぱりお兄ちゃんは受けよね!キラも格好良すぎだわ!すごい、すごいわ」


 鼻息荒く胸の前で手を組んで目を輝かせるアマリア。


「どうしよう、素敵過ぎる。あっ、えっと……邪魔しないからその……見てて、いい?」


「ダメに決まってんだろうが!見てないで助けろ!」


 最愛の妹にブチ切れたのは初めてだった。

 だがアマリアはそんな俺に怯えることもなく食い気味だった。


「でも、でもこんなシチュエーションが見られるなんて」


 ダメだ。腐った方に飛んでる。

 っつーかその発想は男女逆だろう!?

 ああああああもう!

 アマリアにもキラにも怒りが沸いてきたその時、ふとキラが身体を起こした。


「まぁ目的は果たせたし、これくらいにしとこうか」


 は、目的……?

 疑問符を浮かべるものの、追求する前にキラは一つ息を零してアマリアの元へと向かった。


「ごめんなさい、結局邪魔しちゃったわね」


 しゅんと肩を落とすアマリアにキラは首を振った。


「いや、いいよ。けどま、そういうことだから」


「えっと……キラとお兄ちゃんが恋人同士ってことよね?」


「そう。結婚の約束もした。明日おじさんとおばさんにも話すつもり」


 身体を起こして乱れた呼吸のままとりあえずベルトを締め直してボタンもつける。

 話をするにしてもとりあえず紙でも何でも防御は必要だ。

 そうして何とか服装を整える頃には、アマリアはキラに抱きついていた。


「どうしよう、嬉しい!キラがお姉ちゃんになるのね!」


「今までとそんな変わんないけどね」


 キラはそんなアマリアの頭を撫でていて、まぁ、今までよく見る光景ではあった。

 妹一番の俺はそれまでの状況も忘れて恨めしい気持ちで二人を見た。結婚してもアマリアは俺よりもキラの方がいいのか。

 そんな俺の視線を感じてか、ふとキラが首を巡らせて俺を振り返った。そして――ふ、と笑みを浮かべるとキラは俺の元へと戻ってきた。

 思わず身構えるが、キラは押し倒してくる事なく耳元で囁いた。


「これでやっぱり、なんて後戻りはできませんからね?」


 なっ――

 まさか俺が逃げるとでも思ったのか!?

 憤りに目を見開くが、俺の非難よりも先にキラは言葉を続けた。


「ベネディクトさん。私はこういうことを口にするタイプではないので、一度だけしか言いません」


 真面目な顔でまっすぐに俺を見据える様子に口を噤む。

 キラはそんな俺に一瞬視線を落とし、恥ずかしそうに目を合わせた。


「ずっと愛しています。今までも、これからも」


 瞬間、胸が鷲掴みされたかのような感覚に襲われた。


 くっ……そ!


 さっきまで俺の心を疑われ、嵌められた事に怒りを感じていたくせに、なんだってこんな鼓動が早くなるんだ!


「絶対、逃がしませんからね」


 咳払いし、明らかな照れ隠しで強気に言い放つキラを目の前に、俺はただ言葉を失い悶絶するのだった。

読んでいただきありがとうございます。

これにて本編終了となります。

残り番外編と数年後(?)は月内には更新しようと思っております。

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