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近く彩る恋模様  作者: 葵翠
【腐れ縁】
22/25

終息[強引]

楽しんでいただければと思います。

 しばらく見つめていると、やがてベネディクトさんは力なく肩を落としたようだった。


「わかってるよ……」


 一つ息をつくとベネディクトさんは傷つきながらもしっかりと目を合わせてこう言った。


「俺にとってお前はもう一人の妹だってことだ」


「は……あぁぁ!?」


 勝算が、期待が、全て吹き飛んだ。

 目の前でこぼされた言葉が信じられずに目を見開く。


「けど、わかってる。嫌だなんだって言ったってお前の幸せを俺がぶち壊すのは間違ってる」


 一体この人はなにを言ってるんだ。

 眉間にしわを寄せて、悔しそうにため息を零して、そうして何を宣ってるんだ。

 あまりの事に言葉が出ずにいると、ベネディクトさんはシャツを掴む私の手を外して無理やりに笑った。


「好きな男がいるのに、それを引き離して責任とって俺が一生お前を幸せにしてやるなんて馬鹿げたことを言うつもりはない」


 その瞬間、私の中で何かが切れた。

 怒りのままに再びベネディクトさんの胸ぐらを引き寄せると同時に勢いよく頭突きをかます。


「ぐっ」


 思いもよらない攻撃に星を散らすベネディクトさんを後ろのソファに押し倒して、馬乗りになる。


「おい、な――」


「ふざけないでください」


 抗議を低い声で遮って胸元をぎりぎりと締め上げる。

 アマリアも相当鈍くトゥーレさんが舌を巻いたほどではあるけど、なるほど。その兄ともなればもっと酷いものなのかもしれない。

 そんなことを考えながらも怒りを露わにぶつける。


「何がもう一人の妹ですか。俺が一生お前を幸せにするなんて馬鹿げたことを言うつもりがない?」


 そんなの、本当に。


「ふざけないで」


「おい……?」


 そんな私の真剣な怒りにベネディクトさんは痛みを堪えつつも心配そうに見上げた。

 なんで。なんでそこで怒り返さないの。そんな心優しいところも好きだ。

 好きだが、この鈍感さは腹がたつ。


「――好きです」


 険呑とした雰囲気で、言葉を落とす。


「お兄さんのことが好きです。ずっと、子供の時から好きでした」


 真っ直ぐに瞳を見つめると、ベネディクトさんは静かに息を飲んだ。


「けどお兄さんはアマリアしか見てなくて、眼中にないのもわかってました」


 だからずっと見ているだけだった。

 ベネディクトさんにとって一番近い席はアマリアのものだったから。それ以外は席すらなかったから。

 でも愛しい人から愛を受ける為に立ち向かうトゥーレさんを見て思ったのだ。私も、やろうと。

 だから。


「そのアマリアは結婚しました。もう、お兄さんでも私でもない他の男の人が守ってくれます。だからお兄さんも、もう少しまわりを見てください。気づいてください」


 私の想いを。

 瞠目するベネディクトさんの目の前で目頭が熱くなってくるのを感じる。この怒りは、もう直接ぶつけるしかないのだ。


「結婚してください」


 ベネディクトさんは息を飲み、しばらく呆然と私を見上げていた。


「でも」


 ベネディクトさんが口を開いたのは、私の告白からどれくらい経った後でのことか。

 未だベネディクトさんは戸惑いを見せていた。


「だって主任と結婚するんじゃ」


「違います」


 速攻で否定する。

 何を隠そう主任はアマリアの妄想を現実にしている人なのだ。私なんて論外である。


「主任にはいろいろと協力してもらってただけです」


「半年で結婚って」


「半年以内にお兄さんを落とすという意気込みです」


「……本当に俺なのか?」


「アマリアのお兄さんで、妹狂いでちょっとヘタレで、でもアマリアの為なら何だって立ち向かえるベネディクトさんです」


 いいところも悪いところも、全部好き。

 この究極なまでの鈍感さには流石に苛立ったけど。


「俺……なのか」


 まだ釈然としないらしいベネディクトさんに、口早に告げる。


「仕事の時はすごく真剣で精悍で恰好良くて、でも妹を取られると途端に悔しがって、親友である私と張り合おうとして負け続けて枕を涙で濡らし続けた果てに報われることなく次元すら越えるほどのいい男にアマリアを取られて張り合うことすらできずに燃え尽きたベネディクトさんです」


「言い逃れできねぇほど確実に俺だな!?」


 やけくそ気味のベネディクトさんに思わずくすりと笑う。


「そうです。そんなお兄さん……いえ、ベネディクトさんのことが丸ごと好きなんです」


 私が笑ったと途端に、ベネディクトさんはどこか恥ずかしげにして、それから気まずそうに視線を反らせた。


「けど、俺はお前のこと」


「本気で妹だとでも思ってるんですか?ベネディクトさんはアマリアのなんの色気もないただの寝間着姿に気まずくなったり、ほんの少し笑うだけで照れたりしましたか?そんな反応は一般的に異性の女性に対する――愛する人にするものです」


「は――異性?……愛する人?」


 全くの寝耳に水、といった表情にこの鈍感さは随分と強固だなと思う。


「結婚についてだってそうです。アマリアが嫁に行くとわかった当初、どう思いました?」


「許さないと思った。俺の可愛妹を奪うのはどこのどいつだと」


「私が結婚するかもと思った時は?」


「嫌だと思った。だが俺には止める権利はないって」


「違い、わかります?」


 許さない、奪うと嫌、権利がない。

 僅かな差かもしれないけど、かなり重要な差だ。


「アマリアは(自分のもの)で、私は(自分のもの)じゃない。その事を心の奥底では理解してたはずですよ」


 するとベネディクトさんは静かに思案して、そうして一度しっかりと目を閉じて息をついた。

 しばらく目を開けずに深呼吸を繰り返しているのが、ベネディクトさんの胸についていた手から感じる。


「俺はお前を、キラを好き、なのか……?」


 まるで自分に言い聞かせるかのように言った言葉はまだ不確定なもので、少し残念に思いながらも私は続けた。


「そうです。私の自惚れなんかじゃありません。ベネディクトさんのお母さんも気づいてます。ベネディクトさんの後輩も、主任だってそうです。全員言ってましたよ。『鈍い』って」


「俺が鈍い?」


 ちょっと面白くなさそうに顔をしかめるベネディクトさんに思わずくすりと笑みを漏らした。


「鈍いですよ。アマリアもですが、ベネディクトさんは相当に」


 すると私の自然な笑みに少しだけ照れるのが見てとれた。

 この一週間で気づいたこと。私が自然と笑うと、ベネディクトさんが照れる。そして視線を外すけど、すぐちらちら見てたりする。だから私もつい笑うことが多くなってしまった。

 そんな一週間のことを思い出して、そうして口を開く。


「結婚してくれますね?」


 するとベネディクトさんは悶えるかのように視線をあちこちに動かし、そうして大きく息をついた。


「ああ。キラがそれでいいなら、結婚させてくれ」


「決定ですね」


 半ば強引に勝ち取った結婚の約束だけど、それでも嬉しくなってしまうのはどうしようもない。

 真っ直ぐに私を見てくれるベネディクトさんにほんの少しばかり涙が滲む。


「これからもよろしくお願いしますね」


「ああ」


 そうして素早く身を屈めて唇を重ねるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

明日の更新で本編完結となります。

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