[進む計画]
楽しんでいただけたらと思います。
キラ視点になります。
「ってことで、気になるような返事しといたぞ」
「それはありがとうございます」
就業時間になったところで主任がやってきて今日のベネディクトさんとの会話を教えてくれた。
最近のベネディクトさんは笑ってしまいそうになるほど私を見ては落ち着かない様子で、私が半年と宣言したことに相当な動揺をしていることが窺えた。
その上で今日の主任との会話を聞いて、これは思った以上に意識させられていると満足する。
「しっかし、ベネディクトも鈍感だな」
「まぁ私の愛情表現が歪んでるので」
ちなみにうちの工房では私がベネディクトさんを好きなことは公然の秘密のようなものになっている。
知らぬは本人ばかり、というやつである。
「そうか?随分可愛らしいと思うがな」
と肩を竦める主任に私も肩を竦め返す。
「そう言ってくれるのは人生経験豊富な年上の人達くらいのものですよ」
「おい。何気に俺のこと年寄り扱いしただろ」
「ああ、バレましたか」
軽く睨まれるも流せば、主任はやれやれと小さくため息をついた。
「あの屋台の飴、思い出の飴なんだろ?」
気を取り直すかのように尋ねられて、素直に頷く。
あの屋台でかつてベネディクトさんはアマリアのと共に私にも飴を買ってくれたのだ。
どれがいい、と聞かれて驚く私にさっさと選べと言ったベネディクトさんの横顔は今でもよく覚えている。少し照れたような、それを押し隠すような仏頂面が夕日に照らされていて、胸が高まったものだ。
それからと言うものあの屋台の飴は私の大好物となったのは言うまでもない。
「よくわかりましたね」
「そりゃ受け取った時にあんな嬉しそうな顔してたらわかるだろ」
最近高齢の為かあの屋台はやっていないことが多くて、久しぶりの飴に喜んでしまったのは否めない。
子供のようだったかと少し居心地が悪くなって、私は会話を変えることにした。
「ご協力ありがとうございます。上手くいったらちゃんと紹介しますんで引き続きお願いします」
「頼むぞ?若くて純粋な活きのいい奴な」
「分かってますって」
もうお分かりかと思うが私と主任は結託している。
本格的にベネディクトさんを追い込むために協力を仰ぎ、成功の暁には主任好みの人を紹介するのだ。
「で、次はどうするつもりなんだ?」
そう問われて口の端を上げる。
「近々ベネディクトさんの両親が旅行に出るんですが、その間の家事を私がやることになってまして」
「ほう」
以前アマリアの事で相談を受けていたのを利用してトゥーレさんに協力を仰ぎ、トゥーレさんはアマリアが結婚したことを機に一度ゆっくりと羽を伸ばしてはどうかとベネディクトさんのお父さんとお母さんに旅行を勧めたのだ。
結果お父さんとお母さんは一週間の旅行をすることとなり、その間のベネディクトさんの世話は私が見ることになった。
「着々と計画は進んでるってことか」
「ええ。そこで主任にお願いがあります」
「言ってみろ」
「しばらくの間適当な理由をつけてベネディクトさんを外食に誘いまくってください」
ないとは思うものの、一週間の間ずっと外食で逃げられてはかなわない。念の為にベネディクトさんには金欠になってもらおうという魂胆である。
「徹底的だな」
くく、と笑う主任はすぐに分かったと手を振った。
「やるからには確実に徹底的に、がモットーなので」
「時々お前が男だったらと思うよ」
「残念ながら女に生まれましたので」
男だったら狙われてるんだろうなと思いつつ、さらりと返して鞄を手に立ち上がる。
「ではすみませんが、よろしくお願いします」
「任せとけ」
「お先に失礼します」
工房のほかの人達にも挨拶をして、工房を出て市場へと向かう。
今日も両親は帰ってこないが、自分の夜と朝、そして弁当を作らなければならないのだ。
家に残っている野菜を思い浮かべながら進んでいくと、見慣れた姿が目に入った。
「あらキラちゃんも買い物?」
「はい」
ベネディクトさんのお母さんである。
お母さんはすでに買い物籠にたくさんの食材を乗せていて、帰りなんだろう事が窺える。
「ちょうどよかったわ。今日はキラちゃんの大好物にする予定だから、夜ごはん食べに来てね」
言われて見せられたのはチーズの塊と白ワインである。
「チーズフォンデュですか」
「そう。一週間もベネディクトのことを頼むんだもの、ちょっとはごま擦っておかないとね」
なんて笑うお母さんにつられて笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ。嫌いなものづくしの料理は出さないつもりですし」
「ベネディクトは昔っから好き嫌いが多くて困るのよね」
セロリにレタスにニンジンにきのこ類。
嫌いな食材の入った料理を心底嫌そうにしながらもがんばって食べるベネディクトさんの姿もまた、結構好きだ。
「でも好き嫌いはよくないからね。バランス良く何でも食べさせてね」
「もちろんです。むしろ残したら口に突っ込んであげます」
嫌いなものづくしにはしないが甘やかしはしない。
はっきりと言い放つ私にお母さんはしみじみと呟いた。
「本当にキラちゃんとベネディクトはいいコンビよねぇ。早くお嫁に来てくれないかしら」
思わず息を飲みそうになって、あえてゆっくりと呼吸する。
「私が、ですか?」
それは他でもない私が何よりも望んでいることだけど、お互いの両親はどう思っているのかなんて考えたことはなかった。
「ええ。キラちゃん、ベネディクトのこと好きでしょう?」
はっきりと断定されて思わず見つめると、お母さんは楽しそうに笑った。
「ちゃーんとわかってるわよ。うちの人もアマリアもベネディクトも、どうして気づかないのかしらね」
ベネディクトさんとアマリアが鈍いのはお父さん譲りだろうとは思っていたけど、どうやらお母さんにはバレていたらしい。
「わたしはキラちゃんなら大歓迎よ」
なんて言われて、心の奥があったかくなる。
「ベネディクトだってキラちゃんのこと嫌そうにしてるけど、絶対に目を放さないのよ。いろんなところでちょっとずつ気にしててね、他の子相手だったら見放すのにキラちゃんには文句言いながらもいろんなことを譲ってあげたりしてて、結構特別扱いしてるのよね」
本人は意識してないんだろうけど、なんて言われて余計に胸に込み上げてくる。
マイナスからのスタートだと覚悟していたけど、実の親が言うんだったら意外とマイナスではないのかもしれない。
「だから旅行中の一週間、頑張ってね?」
言われて鞄を握る手に力が入る。
お母さんに応援されているというのは、とても力強い。
「明日のご飯の買い物が終わったらすぐに行きます」
「待ってるわ」
そう微笑むお母さんに会釈をして、足早に食料品を買いに行く。
ここまでくればもう後は付き進むだけだと、心に決めながら。
読んでいただきありがとうございます。




