宣言[挑発]
楽しんでいただけたらご思います。
「こんにちは」
「あら、キラちゃんいらっしゃい」
アマリアの結婚から数日後、私は大皿に盛ったおかずを手にプルック家を訪ねた。
「いつもありがとうございます。これつくったんでどうぞ」
「こちらこそ、ありがとうね」
プルック家から大量にもらう野菜のお裾分けを、私はいつもおかずを作って返しているのだ。
「ちょうどよかったわ。キラちゃん、うちでご飯食べていって?」
と、アマリアのお母さんがそう言ってお皿を受け取ると私を家の中に促した。
「今日もいないんでしょう?」
うちは父親も母親も同じ職場で、しかもいま忙しいからって帰ってこない。私だけ違う職場だから一人なのだ。
「ご馳走になります」
同様の理由で幼い頃はよくよくプルック家にお邪魔していて、すでにお互い慣れたものである。
「何かお手伝いするものありますか?」
「キラちゃんが持ってきてくれたから十分よ。今日はゆっくりしてて」
そうして居間に入ればアマリアのお父さんとベネディクトさんが寛いでいた。
「お邪魔します」
「いらっしゃい」
アマリアのお父さんは笑顔で迎え入れてくれて、ベネディクトさんはと言うと少し仏頂面である。だけどそれでも座る場所を譲ってくれているのだから、本当に優しい。
こんなんでいろんな人につけ込まれてやないか心配になる。
というか、こんなんだからアマリアの妄想のネタにされるんだ。
なんてことを考えていると、壁に掛けられた絵画が目に入った。
レースやオーガンジーなどの布で描かれた絵画は、アマリアが結婚式の時に自身の両親に贈った渾身の力作だ。
「アマリア、綺麗でしたね」
その絵画を見て無意識に零す。
「そうだなぁ。もう嫁に行ってしまったんだと思うと寂しいものだ」
私の言葉を受けてお父さんが息をついた。
絵画に向ける目は遠く、言葉の通り浮かんだ笑みも寂しげだ。
「つってもキラちゃんも娘みたいなもんだしな。アマリアがいなくなってもうちに来てくれるのは嬉しいよ」
「そりゃあ来ますよ。アマリアも大事ですけど、私はお父さんもお母さんも、みんなが好きなんですから」
淡々とした口調ではあるけど、これは本心だ。
うちの両親はさばさばとしていてあまり私には関心がない。その分プルック家は温かくて優しくて、すでに私にとっては第二の家族なのだ。
「嬉しいことを言ってくれるが、そんなことを言ってたら嫁に行く時にはオレが相手の男を殴るかもしれんぞ?」
なんて笑うお父さんに、ベネディクトさんは顔を顰めた。
「男装してるような奴が結婚なんかできるかよ」
女の子にはもててるけど男にそういう目で見られたことはないだろ、とベネディクトさん。
対する私は余裕の笑みである。
「残念ながらそうでもないんですよ」
「は?」
何言ってるこいつ、という目を向けるベネディクトさんに人差し指を立てて私は説明を始めた。
「第一に、これは厳密には男装ではありません」
私の今の格好はカフスボタンのついたストライプのシャツに、茶色のスラックスである。
だけども男性の服をそのまま着ているわけではなく、紳士服のデザインを女性の型で作ったというのが正解だ。私としては動きやすい上にスマートなデザインで非常に気に入っている。
ちなみにこの服装を仕立てたのはアマリアである。動きやすい服装がいい私と、そんな私を格好良くさせたいアマリアとの意見が合致したのだ。
「この通りシャツの合わせも女性用ですし、体の線に沿って作られているのでジャケットを羽織らなければ私が女であることは一目瞭然ですしね」
意外なことにこの服装は男らしさが増すどころか逆に女らしさが浮き立つらしい。
立ち上がって目の前で強調してみせるように胸を張り、ついでに腰のくびれを意識してひねって見せれば、ベネディクトさんは少しだけ頬を赤らめて視線を逸らせた。
うん、いい感じに意識してくれたな。
「キラちゃんはスタイルがいいからなぁ」
と、お父さんはすっかり私の成長が嬉しいとばかりにしきりに頷いている。流石はおしどり夫婦の片割れである。
「スタイルがいいったって、男みたいな恰好する奇抜な女が結婚相手に選ばれるとは思えない」
腕を組んでそう苦し紛れに言ってるベネディクトさんは大変可愛らしいとも言える。
なんて思っていたら……
「ほとんど表情を動かさないわ、淡々としすぎて可愛げはないわ、そんなんで結婚して嫁入り?」
言っている間に勢いづいてきたベネディクトさんは、どんどん私の悪口を言い始めた。
これは面白くない。
「お前が嫁入りとか、想像できなさすぎだろ」
最終的にはあり得ない、とばかりに言われて目を細める。
そこまで言われて黙っているわけがない。逆襲するのは当然のこと。
「ではその想像できない姿を見せてあげますよ」
「――は?」
思わず聞き返すベネディクトさんを一瞥する。
「そうですね、半年。半年で見せてあげますよ。アマリアは私にドレスを仕立てると言っていましたが、式はごく一般的な宣誓式でしょうからドレスではなくワンピースになるだろうし、他に準備するようなものもありませんしね」
招待客を招いての結婚式は貴族や豪商なんかがするだけで、一般家庭ではごく近い身内だけを呼んでのものになる。服装も新しくて綺麗なものを用意はするけどドレスではないわけで、となると準備期間などかかる筈もないのだ。
「っまさか、将来を見据えた相手がいるのか!?」
そう食いついて来たのはお父さんである。
その顔は愕然としていて、ものすごく衝撃を受けているようだ。
「はい、少なくとも私は見据えてますよ」
「そんな……キラちゃんまで……」
というお父さんも全くの予想外だったんだろう。ベネディクトさんに言われては面白くないけど、確かに嫁に入るよりも迎える方がどちらかというと想像しやすいかもしれない。その上、恋人などという存在を仄めかしたこともないのだから当然といえば当然か。
そんなお父さんからゆっくりと視線を外してベネディクトさんを見ると、こちらはぽかんと口をあけていた。
「楽しみにしててくださいね」
にっこりと微笑んで見せると、ベネディクトさんは途端にむっとした顔をした。
それが大変満足のいく顔だったものだから、私は更に笑みを深くするのだった。
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