切掛≪苦節≫
新カップルです。
トゥーレの嫁、アマリアの兄と幼馴染です。
楽しんでいただけたらと思います。
それはアマリアの結婚式。
そっと妹の旅立ちに涙を拭う俺に、幼馴染が寄って来た。
女にしてはやや高めの身長に中性的な綺麗な顔立ちの女。
俺はこいつが嫌いだ。アマリアの無二の親友。涼しい顔で何でもこなし、アマリアの手助けをするこいつは常に俺にとっては腹立たしい存在であった。
「アマリア、綺麗ですね」
「ああ」
珍しく女の格好で着飾っている幼馴染に渋い顔で返答する。
こいつはいつも俺に嫌味を言ってきたりするからな、なにを言われるか分かったものではない。
「どうです?大切な大切な妹が結婚して離れて行く気分は」
――ほらな。
全く、せっかくの感動に水を差す奴だ。
自然と眉間にシワが寄っていく。
「別に」
ふん、と鼻を鳴らしながら顔ごと視線をそらす。
妹には幸せになってほしい。その反面、いつまでもそばにいてほしいと思う気持ちもあった。
とはいえ結婚に反対などするわけがない。何せ相手はあのトゥーレ騎士なのだ。将来が明るく、とてつもなく紳士で、見目も同性の俺ですら惚れ惚れしてしまうほどなのだ。
「トゥーレ騎士なら安心だろ。アマリアにはこれ以上ない相手だ」
同性、という言葉に最近下火になりつつあるトゥーレ騎士を主役にした同性愛の本を思い出す。
よくあんなものを書かれて平然としていられるよな。
「そうですかね。あの人、相当腹黒そうですよ」
と、再び俺への嫌がらせともとれる発言にイラッとする。
「お前じゃあるまいし、んなわけないだろ」
吐き捨てるように言うと、どういうわけか幼馴染の雰囲気が落ち込んだように感じた。
ふん、腹黒の性悪だからな、これくらい言ったって問題ないだろ。
嫌な気持ちを振り払う為に式場を眺めると、どうやらブーケトスが始まるらしい。教会のテラスからアマリアが背を向けてブーケを放った。それを参列者の一人が受け取り、周りから歓声が沸き起こる。
アマリアも満面の笑みで拍手し、その横にそっとトゥーレ騎士が寄り添った。
幸せいっぱいなアマリアを見て自然と顔が緩む。
ああ、癒される。
「――ところでお兄さん」
ブーケトスの間黙っていた幼馴染が気を取り直したのか、いつものトーンで再び話しかけてきた。
なんだよ、せっかく癒されてたのに邪魔すんなよ。
ため息とともに幼馴染を見ると、幼馴染はこれ以上ないほどの満面の笑みを向けた。
なっ、なんだ。
冷笑や嘲笑ばかり向けられていた俺はその笑顔に柄にもなくどきりとした。
その刹那――
「お兄さんは結婚しないんですか?」
不意打ちだった。
そして、渾身の一撃だった。
――余計なお世話だ!
思わず血を吐くのではと思うほどの息を吐き、俺は内心怒鳴るのだった。
+ + +
アマリアの幼い頃はそれはもう可愛かった。
にいたん、にいたんって俺の後をついてきて、きらきらした目で見上げてきて。
ああ、なんて可愛いんだ。天使だ。宝物だ。
そう思ってとにかく大事にした。
アマリアが菓子をもっと食べたいと泣いた時には自分のを分けてやり、転んだらすぐに手を出して助け起こしては宥めて。
だっこと言われれば抱き上げて、下ろせばもっととせがまれて、体力の限界に挑んだこともあった。
可愛い可愛い俺の妹。
ずっと二人で過ごしてきたのに、そんな幸せな日は一瞬で崩れ去った。
アイツが隣に引っ越してきたのだ。
アマリアと同い年の幼馴染はアマリアとはまるで違って静かにまわりをよく見るタイプだった。
引っ越したその日からすぐに一緒に過ごすことが増え、そうして一週間も経った頃――
『げぼく?』
幼馴染は俺を差してそう言って首を傾げたのだ。
雷を打たれたかのような衝撃だった。
アマリアに徹底的に尽くす俺を観察した結果、幼馴染は俺をそう評したのである。
『げぼくって、なぁに?』
純粋な疑問をそのまま口にしたアマリアになんでもないと誤魔化そうとする間もなく幼馴染は言った。
『なんでもいうこときいてくれるひと。つかいっぱしり』
無表情に近い顔で淡々と。
誰が使いっパシリだ。そう思ったが、目の前のアマリアは花のように笑った。
『そっかぁ。おにいちゃん、げぼくなんだね』
――違う。
そう言いたいのに、その笑顔に押し切られた俺は否定することができなかった。
それからというものアマリアは様々なことを学び、違いを知るようになった。
人間と動物、水と氷、父さんと母さん、そして、男の子と女の子。
『アーマリアっ、一緒に遊ぼうか』
いつものようにおもちゃを手ににこにこと庭で手招きをした俺だったが、
『やー。キラと遊ぶの』
なんとアマリアは人形を抱きしめてはっきりと拒絶したのだ。
『え――なんで、どうして!?』
驚きとショックに愕然と目を見開く俺に、アマリアは俺の手にするボールを指差した。
『アマリア女の子だもん。女の子のあそび、するの』
そうしてアマリアはにこにことしながら人形とその服をかきあつめて幼馴染の元へと遊びに行った。
あまりのショックで母さんが帰って来るまでのおよそ一時間ほど、その場で固まった。
アマリアが俺を拒絶するなんて。ずっと生まれた時から傍にいたのに。大切に大切にしてきたのに。なんで、どうして。俺より幼馴染の方がいいなんておかしい。あり得ない。何か他に理由が。理由、理由……。
――女の子の遊びするの。
そうか!俺はボールをもってたし、それが原因か!
よし、女の子の遊びならいいんだな。
そう閃いた翌日、翌々日も俺はさらなる衝撃を受けた。
『お兄ちゃんとお人形さんごっこしようか』
『お買いものごっこしようか』
『やー。キラとあそぶの。女の子は、女の子とあそぶんだよ』
越えられない性別の壁に、俺は屈するしかなかった。
そんな俺を――幼馴染はただ黙って見ているだけだった。
それがいつからだろうか。
アマリアに拒絶される俺を見ていただけだった幼馴染が、俺を嘲るようになったのは。
学校に入って、更にアマリアとの距離が離れて、アマリアはますます幼馴染にべったりになった。何をするでもキラ、キラと言って、それがまた悔しくて。
だがそれでも俺にだってアマリアにしてやれることはある筈だと自分を励ました。
そう、段々と色気づく同年代の男からのいじめだ。
学校内に目を光らせ、とにかくアマリアを守ろうと奔走した。
だが。
『くだらない。気を引きたいなら別の方法にしたら?』
元より淡々としていた幼馴染は心底冷めた目でアマリアをいじめる男共からアマリアを庇い、その手を差し伸べたのだ。――俺よりも早く。
そして一歩遅くに姿を現す俺を見て――悔しく歯ぎしりをさせる俺を見て――笑った。
嘲笑するように、優越感に浸るように。
くそっ、アイツめ!
その当時は気が付かなかったが俺より幼馴染の方が早いのは当たり前だった。なにしろアマリアのすぐ隣にいるのだから。
だが俺もまだ青くて気づくことはなく、すっかり対抗心を沸き上がらせ、アマリアに心血を注ぐのだった。
――結果は、どれもこれも惨敗だったが。
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