上下関係
二年旅をしてきて、旅のお供が増えるとは思わなかった。
これ以上は増えないでほしい。なぜならば、食費がヤバイのだ。主にアホ妖精のせいで。
「あんまりアホアホ言わないでください。アホになっちゃいます」
「もうすでにアホだから気にすんなアホ」
「語尾に使ってまで私を貶しにかかる気ですか!受けて立ちますよ!」
「……お前たちは仲が良いのか悪いのかなんなんだ……」
新しい旅のお供、ルピナスさんに呆れられてしまった。
あの国からほぼ脱獄のような形で出てきてしまったから、あの国に再び入ろうものなら指名手配犯としてすぐ捕まりそう。
エリカちゃんが党首にでもなったらまた行こう。……永遠に入れないような気もする。
それはともかく、旅立ってから一週間は経過しようとしてるところだ。
ルピナスも俺たちの関係を理解し始めてきたところだろう。
「仲はいいぞ。多分な」
「アルスさんは自分が立場が下だということを弁えてないのですよ」
「衣食住、すべて俺が世話してるの忘れてるだろ。俺はお前のお母さんか」
「受講料で自分が引き受けたんじゃないですか」
「……とまあ、そんな感じで二年ぐらい一緖に旅してる」
「……こいつとはもう旅したくないとか思わないのか?」
「どっちもどっちで少しずつストレス解消してるからな。さっきの貶し合いは一例だ」
「それを見てるこっちの方がストレス溜まりそうだ……もっとマシな方法はないのか」
「まあ、俺なんかは掃除、炊事、洗濯とやるからそれで気は紛れるけどな」
「私は先生の時にアルスさんをしごけるのでストレス解消になってますよ〜」
「……この旅は終わりはあるのか?」
「俺が賢者にでもなったらでいいか?」
「私、その前に死んでそうです」
「妖精の寿命ってなんだよ」
「人間と大差ないんじゃないですかね?」
「……頭がいたい……きっと、私が1番寿命が短いだろう。それまでに何かしら答えを出してほしいものだ」
「……そういや大型犬はそう長生きじゃないって聞いたことあるな。知ってるか?」
「長くても15年が精々みたいだな。……エリカが大人になった姿を見てからせめて全うしたいものだ」
「完全に思考がおじいちゃんじゃねえか」
「実際、人間換算だとジジイだからな。長くてもあと5年といったところだろう」
「なんか病気とかしたことあるか?」
「今のところないが、今後しないとも限らんな」
「そういや、犬の世話ってしたことないな。定期的にしておいた方がいいことってあるのか?」
「散歩はこうして歩いてるから不要だが……毛づくろいぐらいはしてもらえると助かる。私は少々毛が長いからな」
「エリカちゃんからもらってこればよかったな」
まあ、さすがにあんなバタバタしてたうえにコソコソ逃げてきたわけだからそんな暇なかったけども。
「一応、エリカちゃんは飼い主だったわけだからお前より立場が上ってことだよな?じゃあ、飼い主変わったらどうなるんだ?」
「……エリカが1番上なのは変わりはない。もし、例えばあの家が火事になったとして私が一番最初に助け出そうと思うのはエリカだろうな」
「忠誠心の高いこと」
「貴様は多分足蹴にして行くだろうな」
「もう少し優しくして。蹴ってもいいからせめて外に出そうとするとかさ」
「まあ、そんなことがないのが一番いいのだが」
「でも、当分飼い主俺だよな?もっと敬って」
「屋敷の中のような暮らしを提供してくれるのであれば考えよう」
せっかく助けてやったのに偉そうですね。まあ、噛み付いたりしてこないのは年をとって落ち着きがあるのか、そこまでする体力がないのかは分からない。
元々そういうことはしないタイプなのかもしれない。
しかし、屋敷の中で飼われてたわけだし、いわゆる上流階級で暮らしてたわけだ。
いきなりこんな路上やら野原やらで生活を余儀なくされたわけだが、ストレス溜まらねえかな?
いや、賢いやつだ。すべて、受け入れて今こうしているのだろう。
ただ、自分の言葉を全て理解する人間が近くにいるってどんな感覚だろうか。
「なあ、ルピナス」
「なんだ」
「本来さ、犬と人間なんて完全な意思疎通はできないだろ?今は俺が完全に理解出来るわけだけど、どんな感じだ?」
「……都合が良くなったといえばそうだが、悪くなったといえば悪くもなった」
「例えば?」
「理解できないのであれば私が罵詈雑言吐いてても分からないだろう?そういう点では理解されない方がストレス発散になった」
「お前もいい性格してんな……エリカちゃんにはしてないよな?」
「する必要がないことをなぜしなければならない?」
「はい、そうですね」
ものすごくまっすぐに言われてしまったので、本当にエリカちゃんだけには懐いてたんだなあと思うと同時になんとなく屋敷自体には愛着ないんじゃねえなかなと思ったりもする。
「犬だから理解できないだろうと人間の大人の汚い部分もよく見てきた。下手な人間より修羅場を見てるかもしれないな」
「俺、そんな経験したくねえよ」
「ちょうど修羅場に出来る環境はあるだろう」
「そもそも対象外だからそんなもんには発展しない」
「何が対象外ですか!」
「ようやく入ってきたか」
「私を悪くいうレーダーが反応したので。いいんですか?アルスさんそんなこと言って」
「お前も俺が対象外だし、俺もお前が対象外。これでいいだろ」
「知ってるんですよ。夜な夜なアルスさんがほにょほにょしてることを」
なんで妖精が人間の生態知ってるんですかね。妖精も近いもんなの?
しかし、知られてるからと言ってそこで動揺してしまってはこちらの立つ瀬がなくなる。
「残念ながらお前は一切対象になってないがな」
「……やろうと思えば私も人間の大きさになれるとしてもですか?」
「出来るのか?」
「さあ?」
ちょっと期待してしまった俺の心はどこに置けばいいんだ。
「ふむ……」
「どうかされました?残念でした?」
「なんでもねえよ。明日にはどっか着きたいし、早く移動するから早く起きろよ」
「なんで私も移動速度をアルスさんに合わせないといけないんですかね……」
こいつはこいつで何か目的があるのか、二年も一緒にいるが、特に明かそうとしない。
別に追求する気もさらさらないけども。
俺は死に場所を探してる。
どこか永住できるところがあればそれでいい。
生まれたところは帰れなくなってしまったから。
「シオンさ」
「はい?」
「お前は帰る場所とか、最終的に戻れるところってあるのか?」
「……どうでしょうね。私がそう思っていても向こうはそう思ってないかもしれないです」
「なんかやらかしたのか?」
「まあ、普通にやらかしてなかったら一人でフラフラ飛んでなかったわけですけど」
「……帰れるといいな」
「そうですね」
正直あんまり帰る気もないみたいな雰囲気だったが、突きすぎるとやぶ蛇になりかねないからそこで打ち切った。
少なくとも、シオンには戻れる場所はあるんだ。
それでいいだろう。
「…………」
「何か、まだ言いたいことあるんですか?」
「一応年上だよな?」
「まあ、妖精と人間の年齢が犬と違って比例するのであれば、ですけどね。最初に言ったことですし、今更でしょう?」
「シオン、アルスはきっとお前が敬語であるから違和感を感じてるんだろう。年上を敬え、ニンゲンの社会はそうだ。しかしながら、自分たちの立場があやふやなものだからどっちが上かというのを考えているのだろう」
「年上なのですし、私が教鞭を振るっているのですから私の方が上です」
「だとさ」
「いや……まあ、別に気にしないのであればいいが」
便宜上年上だし、教師だから立場的にはまあ、上なのだろうとそういうことにしておいている。
まあ、ルピナスは自分でそう言ってるぶんには何か違うんじゃないかと言いたいのだろうけど、歳をとってることもあり口には出さない。
それでうまくやってるのだからそれでいいだろう。別にどっちも文句は言ってないし。
「……多分、どっちが上ってわけじゃないんじゃないか?」
「まあ、その方がいいだろう。下手に上下を作るとつけあがるのがいるかならな」
なんか実体験のような話に聞こえてきてシャレになってなってないので、やっぱり……
「シオン。俺とお前は一体なんだろうな?」
「うーん?そうですねー……なんでしょうね?」
友達かと思ったら別にそうでもないような気もするし、恋愛関係があるわけでもないし、主従関係に収まってるわけでもない。
「まあ、枠に収めるものでもない。……だが、いつかそれに名前がつくといいな」
「…………」
二年も一緒に居てそんなもんだと、俺たちはなんなんだという感じだ。
いつか本当に名前がつくんだろうか。
今はなんとなく隣で一緒にいるって感じだからな。
「まあ、アルスさん。私が先生、アルスさんは生徒。これでいいでしょう」
「正直、これを先生を認めたくない俺がいる……」
「そんなこと言ってると教えませんよ!」
先生らしくもないし、年上っぽくもないからかもしれない。
でも、助け、助けられているのかもしれない。
上だ、下だ、なんてものはいらないだろう。
でも、いつか俺の死に場所を見つけるまでにはシオンが俺のなんだったのかを説明できるようにはしておこう。




