お姫様の扱い方(3)
「お前は何なの?俺をベビーシッターか何かと勘違いしてねえか?」
「まあうちの娘が人見知りをしないようにと思いまして」
「一応今店開けてるんだが?」
「開店休業ですし、少しぐらい気の置けない状況の方が暇しないかと」
「お気遣いありがとなあ!?」
「ふえ、あああああ!!」
「あ〜あ、マスターが大声出すからびっくりしてカエデが泣いちゃったじゃないですか。よしよし、怖い顔のおじさんからパパが守ってあげるからな」
「あとで一発殴ってもいいか?」
「一発と言わず十発ぐらいでも構いませんよ?あと、すみませんけど、ミルク作ってもいいですか?」
「ああ、それぐらいならキッチンを好きに使ってくれ。困ったことがあったら遠慮せずに言ってくれ。一応1人は子供育てたからな」
「途中で強制的に別れさせられたのでは?」
「セラさん、あなたの旦那性格が終わってないか?」
「隣人がアルスさんを煽るのが好きらしくて、そのせいですね。煽ることでしか会話を始められないという」
「……どうやってアレと会話成立してるんです?」
「傾向的にその人に対して何か嫌なことがあった時にそうなるようなので、私には特にそういうことはないですね」
「態度が露骨すぎんだろ……」
「マスターさんも少しばかり心当たりがあるのでは?」
「まあ、あいつがいた時はヒナちゃんばかりに構ってたなあ」
「……そうですか。分かりやすい人ですね昔から」
「でかい声出したことは謝るから何とか挽回のチャンスくれないか?」
「いや、別にカエデが嫌がらなければ全然大丈夫ですけど。あの人が性格悪いだけなので」
「……まあ、俺が言うことでもないが、あまり蝶よ花よと育てない方が自分のためだぞ」
「うっせー。分かってるよ」
「アルスさんよりもっと過保護にしてる人が隣人にいるんですけどね」
「普通そういうには親の役割なんじゃ……」
「まあその人はお姫様のお世話係の人なんですけどね。見ての通り姫様であるティオラちゃんが手がかからなくなり始めているので、少しばかり暇を持て余しているらしく、よくカエデの様子を見に見ているのです」
「今日その人は?」
「王子の世話係も兼ねてまして、今日は王子は来てないのでそちらの役回りですね」
隣人であるがばかりにうちの娘が姫様と同じ待遇になっているのはどうなんだろうか。
いや、あくまでお世話という話であって暮らしてる場所とか使えるものとか権力だとかそう言ったものは全然雲泥の差なのだけど。
なんというかもっと慎ましやかでいいのだけど。
「ひっく……ひっく……」
「そういや、あの人はカエデが泣いた時はどうしてるんだろうな」
私は泣かせるような事態を起こしません、とか言ってきそうだけど。
結局、1番慌ただしい時期はセラとナナカさんに任せっきりだったからな。
ただ赤ちゃんというのは一回泣き始めるとなかなか泣き止まない。元気でいいことだ。
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「え、えーそれでは、ちょっとの時間だけど散歩でもしよっか」
ヒナとティオラお姉ちゃんとリーシャお姉ちゃんとプラスシオン。リーシャお姉ちゃんには見えないけど。
というより1番年上(シオンは除く)なのにガチガチ。
「大丈夫?」
「私の不手際で何かあった場合にどうなるか考えるだけで動悸がすごいよ」
「ティオラお姉ちゃんよりリーシャお姉ちゃんの方が見てて心配だよ」
「1番年下に労わられる年長者。でも、これはこれでいいかもしれない」
この人は何を言ってるんだろう。
「ティオラお姉ちゃんは行きたいところ……って言っても、ここに何があるか分からないよね」
「そうだね。徒歩以外の移動手段もないからみんなについてくしかできないけど」
「やっぱりリーシャお姉ちゃんが頑張るしかないよ。ティオラお姉ちゃんのこと考えすぎないで。ヒナと同じ感じで大丈夫だから」
「いやぁ、ヒナちゃんも何かあったらアルスさんから何言われるか分かったもんじゃないけど」
たぶん擦り傷作ったぐらいならまた転んだのか、とか、壁にでも突っ込んだのか、とかその程度で私は済まされそうだけど。こういう時に日頃の行いが出ると思う。心配されるのラインが変わってくる。
自分の体が丈夫な方でよかった。あと、最近は転ばなくなりました。ティオラお姉ちゃんを守るために自分が転んでる場合じゃありません。
「ん〜あ、そうだ。2人ともお金は持ってる?」
「ナナカさんに少しだけ待たせてもらいました」
「パパがこの旅行に使っていい分だけ持たせてくれた」
パパはなんかすごい額のお金を持ってるらしいけど、使い方に関しては結構シビア。……でもないかも。
自分のことにはほとんど使わないで、私が欲しいって言ったものはすぐに買ってくれる。
たぶん、そういう時にすぐに使えるように自分は無駄遣いをしないんだろう。
でも、そんな節制をしないでも大丈夫なぐらいなお金はあるってツバキお姉ちゃんから聞いたような気がするけど。
「聞いたはいいものの、お姫様に似つかわしいお店なんて私知らないよ!そんなハイソな暮らししてないし!」
「はいそ?」
「ハイソサエティの略語ですよ、ヒナちゃん。上流社会という意味です。もっと簡単に言ってしまえば、ティオラちゃんがちゃんとお姫様として暮らしていた場合のお話になります」
「リーシャお姉ちゃん。あんまり心配しなくていいよ。ティオラお姉ちゃん、城にはたまに帰る程度で、普段はヒナとあまり変わらない生活してるし」
「私レベルだと目ん玉飛び出るようなお値段のお店でなくても大丈夫?」
「そもそも案内してもらってる立場ですし、私いまだに社交界とかそういうのも一回も出れてないですし、なんならお父様やお母様にそういった教育は受けてきてないので……」
「ヒナちゃん。ティオラちゃん徐々にトーンダウンしてるよ。大丈夫?」
「ティオラお姉ちゃん、だいぶ自己評価が低いというか、自分自身が後ろめたいから卑屈になりやすくて。そもそも外にすらほとんど出たことなかったから、物の高い安いもあまり知らないの」
「着てる服とかは?」
「旅先で浮かないようにヒナたちに合わせたぐれーどにしてるとかそんなようなことをパパが言ってた」
「そうすると逆にハイソなところに入ろうとするとUターンくらってしまいそうだね。じゃあ、私の行きつけをと思ったけど、あの喫茶店がそうだし」
「あの時計塔は?」
「残念ながら今は完全に立ち入り禁止なのよ」
「やらかしたの?」
「完全工事中だから工事関係者以外は立ち入らないように言われてるだけだから……ティオラちゃんはまた今度来た時に案内してあげるね。決してやらかしてはいないので」
「時計塔?」
「ちょっと歩いたところにあるの。前は古ぼけてて誰も来ないようなところだったから私が勝手に出入りしてたんだけど、まあ、最近の情勢がなんとかでテーマパークだか、シンボルだかにするとかで工事の手が入っちゃってね。完成まで5年はかかるとかで」
「5年後ですか……」
「さすがにそんな後だとティオラちゃんもここには来ないか」
「いえ、そんなことないですよ。私がもっと胸を張ってここに来られるようになってます」
「それはそれで恐れ多いな。今いくつでしたかね」
「11歳です」
「私10歳だよ」
「いつのまにヒナちゃんそんなに大きくなったの」
「リーシャお姉ちゃん。時間だけは平等に流れるんだよ」
「はい、そうですね。……ティオラちゃんは、年下のヒナちゃんが付き人なのは大丈夫なの?」
「元より選択肢がないというか……選択肢がないのが幸いしたといいますか……」
「パパが無理やりねじ込んだ」
「言い方よ。というのもマスターから少し話は聞いてるんだけどね。いや、本当に実在する人物なのか、だとか、アルスさんがなんかホラ吹いてるだけじゃないかとか」
「パパ、信用ないね」
「マスターが基本的には疑り深い人だから自分の目で見たものしか信用しないんだよね。しっかし、まあ、アルスさんは次から次へと人たらしというか」
「それには概ね同意します」
「あの人は自分のため、自分のためって言うけど、人のために頑張ってくれちゃうんだから。ただ大体その対象が子供の女の子というのがあの人大丈夫なのかと思う次第でもあるけど」
「それは基本的にシオンの趣味って言ってた」
「妖精さんでしたっけ?本当は自分の趣味を妖精さんに押し付けたりしてないですかね」
「だって、シオン」
「ヒナちゃん。リーシャさんには見えないんですから、あまり私に構わなくてもいいですよ。まあ、リーシャさんの意見には同意します」
「シオンもリーシャお姉ちゃんと同じ意見だって」
「ただ良識はあるみたいですけど」
「でも、パパ、年齢さえクリアしてればツバキお姉ちゃん(当時12歳)と本気で結婚しようと思ってたとかそんなこと言ってた」
「それはネタなのかガチで言ってるのか」
「ヒナと会う前の話って言ってたから、たぶん本気だったと思う」
「ツバキさんの場合は、お金に屈してる部分も少なからずあるんじゃないかと」
そう言えば大量のお金は持ち主自体はパパだけど、管理してるのはツバキお姉ちゃんとも言ってた。
「そのツバキちゃんって確か、なんだっけ、砂漠の国のお姫様だったっけ」
「国王代理かつ実務は彼女がやってるので実質国王です」
「12歳で?」
「当時の話なので現在は15歳か16歳かと」
「やっぱり男の人も権力に弱いのでは?」
「逆らったら自分が暮らせるかが怪しくなるので妥当といえば妥当じゃないかなと」
「それもごもっとも」
「……パパ大丈夫かな」
「どうしたの?」
「確か、ツバキお姉ちゃんに一年に一回会いに行かないと資産が凍結するとか言ってたの。一年ぐらいカエデのためにどこにも行ってなかったと思うんだけど、そのお金ってどうなってるのかな……」
「た、たぶんアルスさんのことですから上手くやってるよ。ツバキさんだってそんなに鬼じゃないと思うし」
「いや、ツバキお姉ちゃんはこれをネタに強請ってくると思う」
「ヒナちゃん、どこでそんな言葉覚えてくるの」
上空をふわふわと漂ってる妖精に目を向ける。
無言で見つめても彼女は知らんぷり。
パパは私の言葉で何か違和感を持つようならだいたいシオンのせいだと諦めてるらしい。
ただ、どうにもリーシャお姉ちゃんぐらいより年上の人が私を見ると、もっと純粋な子供であって欲しいようだ。
きっと、シオンはそれとは真逆なんだろう。
なんというか、世間との感覚から天邪鬼のように生きてる。それがシオン。
「ヒナは言葉選びができるほど知らないから」
「ヒナちゃんが変な言葉使ってたら大体は妖精さんのせいです。セラさんやアルスさんより一緒にいることが多いぐらいですし」
「お目付役?」
「アルスさんは相互的な話をしてましたけど。まあ、言葉遣いというか言葉選びについては悪影響ですね……。知識は人と比べようにないぐらいにあるみたいですけど」
「私は見えないんだよね〜。残念なことに」
「パパが言ってたけど、見えないなら見えないままのほうがいいらしいよ」
「なんだっけ。妖精さんが見えることはすなわち魔法が使えると同義なんだっけ?」
「……リーシャさんは魔法については抵抗ないんですか?」
「まあ、お兄ちゃんが魔法使いだからね。へっぽこ弱虫の。だから天誅下されて、今は細々とあそこでバイトしてるの」
「天誅……?あの顔の火傷のことですか?」
「顔どころか、左半身ね。自業自得なんだけどね。……あれ、アルスさんがやったんだ」
「アルスさんが……!?」
「後で話すって言ってたけど、遅かれ早かれだからね。先に話しておいた方が、もう少し冷静に聞けるかなって。……こんな人通りの多いところで話すことでもないから、公園とかに行こっか。と言っても、お姫様に公園とかにエスコートとして大丈夫か?私」
「い、行き先についてはそんなに気にしなくていいですから」
「ヒナ、ピクニックシート持ってるよ」
「なぜ持参してるの」
「パパが必要になるだろうから持っておけって」
「あの人は子供の行動に理解がありすぎるのでは?」
たぶん変にお店に入るよりは少し開放感のあるところの方がいいだろうという、きっと私では見えないし、分からない視点から色々考えてくれているんだと思う。
パパがいつからそういうふうに考えるようになったのかまでは分からないけど。
私では道順は覚えてないし、案内役はリーシャお姉ちゃんに任せたので私たちはその後ろをついていくだけである。
こういう道順を事前に覚えておくことも必要なことなのかな。
……とりあえず、今は私にできる付き人としての仕事をしよう。




