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魔法使いさんと妖精さんと  作者: otsk
第1章:魔法使いさんと旅の方々
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出会い

 俺は至って普通の人間のはずだった。

 小さな村で生まれ、友人とバカやって、そんな中で仲のいい女の子と結婚して、子供を育てて、村で仕事して、ささやかな幸せを送るんだって、決して楽ではなかったけど、そんな幸せを築いてる両親を見て育ったから、自分も自然とそうなるのだろうと思っていた。

 なんの疑いもなく。

 だから、歯車がズレてしまった時には俺はどうなるのだろうなんて考えもしなかった。

 だって、自分は普通の人間なのだから。レールから大きく外れた人生を走ることもない。上流階級の人たちみたいな生活を送ることもない。

 それでよかったんだ。

 しかし、ある日俺の人生は狂ってしまった。

 前兆はなかったと思う。

 ある日、なんとなしにいわゆる魔法というものが使えてしまった。

 指から小さく炎が出たものだが。

 自分が出したものとは信じられなかった。

 だけど、とても自分がそんなことができるとは人には言えなかった。

 いっそ、悪い夢ならよかったんだ。

 また別の日。自分はもう18歳にでもなってたかな。

 どこかの家が火事になった。

 誰にも教えて……いや、一人教えてたか。しかし、そんな小さい子の口に蓋は出来ない。その子を責めるのはお門違いだろう。

 結果論としては俺はその村から追放された。

 その子があのお兄ちゃんは自分の手から火が出せると親に教えていたようだった。それが悪い方向に広まっていき、火事の原因が俺の放火だとまで言われるようになってしまった。

 さながら魔女狩りでもされるのかと思ったが、幸いなことに怪我人は誰も出なかったので、親との縁を切り、一人、旅に出ることにした。

 せめてもの誰かの救いになるために。

 世の中には自然の四大元素と呼ばれるものが存在する。

「空気」「火」「水」「土」の4つだ。

 はじめこそ火しか扱えなかったけど、気づけば4つは自然と使えるようになっていた。

 それ以外は使えないのだけど。

 使い方も脳がなく、ただかざした方向、触れたものに干渉する程度だ。

 かれこれ、火が使え始めてから2年は経つのだけど、これでは有効利用のへったくれもない。

 空気も水も土も。うまく使えれば、きっと役にはたつだろう。

 小さな村でしか育って来なかった俺としては、そんなことができる人を知らないし、残念ながら見聞も知識もない。

 追い出される形で村を出たが、これではすぐに飢え死んでしまうだろう。


「まあ、それでもいいか。どうせいようがいまいが、あんまり変わらんだろう。俺なんて」


 まだ暑くなる前に出されたのは幸いだったか。

 どこまでも続いてそうな青空と終わりの見えない草原の真ん中で大の字になって寝ることにした。

 いっそ、このままどこかへ消えてしまえればいいんだけども。

 けれども、まだやることがあると言わんがばかりに俺の目の前に謎の生物が現れた。


「……虫か」


 再び寝ることにした。


「起きてくださいー!」


「いてッ」


 蹴られたような感覚が鼻にあった。

 反射的に痛いと思ったが、言うほどでもなさそうだ。

 それにしても今、声が聞こえたか?


「うう……この人も私が見えないですか……そうですか……」


「あ?」


 ずいぶん近くから声が聞こえるが、認識ができない。


「ここです!ここです!私はここにいます!」


 着いていた手がなんとなくくすぐたかったので、そちらに目を向けたら、なんかぴょんぴょん跳ねてるのがいた。


「……夢でも見てるんだな。そろそろ覚めるだろう」


「違います!夢じゃないです!私を見てください!」


「こんな小せえ人間がいるか‼︎」


 自分の手のひら程度のサイズしかない人間?らしき生き物がいた。

 にわかには信じがたいが、いるのだから仕方ない。

 あと、自分がそれを虫だと思ったのはきっと背中にそれっぽい羽が生えているからだろう。


「人間じゃないですぅ」


「じゃあなんだよ。言葉を喋るのは人間以外いないはずだ」


「まったく、狭い見識ですね。もっと広く世界を見てください。人間以外にも喋る生き物は……むぎゅう」


「御託はいいからお前が何者か早く言えや」


「た、短気な人です……私は……そうですね、人間からは妖精と定義されるものです」


「妖精?」


 一口に妖精といってもいろんな言い伝えがあるが、まあ確かに1番好意的に見れば妖精と形容するのが正しいのかもしれない。


「で、その妖精さんが何の用だ」


「お一人様のようだったので声をかけさせていただきました」


「あっそ。じゃあな」


 付き合ってられん。


「どこ行くですかー!?」


 すぐさま俺の目の前に現れて、鼻っ柱に蹴りを入れてきた。


「いてーな!この野郎!」


「話ぐらい聞いてください!」


「こちとら家族に絶縁されて村から追い出されてきたんだよ!そんなやつにお前みたいな変な奴に構ってる余裕があると思うな!」


「え……えと……あの、その……それはすいませんでした……ごめんなさいです……」


 妖精の女の子?だかは力なく俺に背を向けてその背中の羽をパタパタとさせて去っていった。

 ……余裕がないのは確かだけど、さすがに女の子相手に大人気なかったか。

 行くあてもないのも確かだ。せっかく会ったのだから相手をしてみるか。


「なあ……えっと、妖精さん?」

 

「……どうかしましたか?」


 すごく元気がなくなっている。ここまで露骨にテンションが下がってるとこっちもなんか申し訳なくなってきた。


「怒鳴って悪かったよ。俺も行くところがないんだ。ちょっとの間付き合ってくれないか?」


「ほ、ほんとですか?」


「わざわざ嘘言ってどうするんだ」


「ありがとうございます!私、シオンっていいます!」


「俺は……」


 名乗るべきなんだろうか。いや……


「捨てたんだ。名前。縁を切ったのにその名前を名乗ってたら未練がましいだろ」


「そ、そうですか……」


「そう暗い顔するな。お前が俺の名前付けてくれないか?これからはそれで生きていくよ」


「いいんですか?」


「人に与えてもらった方が意味を持てる気がしてさ」


「それじゃあですね……あなたはアルスです!意味は……」


「それは後からでいいよ。よろしくなシオン」


 俺は妖精の女の子に名前をつけてもらった。

 そして、俺たちは二人で旅を始めることにした。

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