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勇者絶対条件 一章 安価な命と再生 五話 「翳」

  0


 俺こと、三滝兼政みたき かねまさは『再生者リプレイヤー』の少女、小鳥遊華蓮たかなし かれんと出会い、『再生者による犯罪対策』の『一般人の代表意見発表者』としてその組織に入り、社会に溶け込もうと努力をする再生者の相談役となった。


  1


 初仕事の依頼者、南波双木なんば そうきがこの家に着て十分くらいだろうか。

 まずはと、世間話を振っているのだが、全くもって会話が続かなかった。

 別に話が通じていないわけではないのだが、尽く会話が途切れてしまう。

 俺が悪いのか、彼がそういう人なのか。

 途中でクナイさんがフォローを入れてくれたり、反田たんださんが気をまわして色々としてくれているのだが、どうにもこうにも、話が短いままだった。

 そのうち、俺も焦ってゆき、まともな会話が出来なくなり、クナイさんもソレ同様に陥った。

 そして今、沈黙が始まった。

 この十分間、またはそれ以上の時間、膝の上に座っている華蓮と言えば、俺たちの話をただ聞くだけで、口を出すことなく、この時間に飽き始めていた。

 反田さんは、相変わらず訳の分からない笑みを張り続けていた。

 おそらく、反田さんも俺同様に、どうにかしなければとは考えているのだろうが。

 南波さんの会話を続かなくさせる話術にその考えが通じるのか考えているらしい。

 その証拠に口をほんの小さくパクパクと動かしている。

 さて、俺もどうしたものなのだろうか。

 そう考え、ふと思う。

 どうして、俺はこうも世間話などの前座の話をすることにこだわっているのだろうかと。

 相談の内容を聞きソレについて話していけばなんとなくその人が自然に話し、そうなれば、臨機応変にやっていけば無問題ではないのかと。

 それに気付き、己を悲観しながら。南波さんに相談内容を伺うとにした。

 「南波さん、あの、こう何も話さないで終わるのは意味がないんで、その、相談の内容を伺ってもよろしいでしょうか…?」

 俺は少し、弱めの口調で南波さんに訊くと、

 「は、はい、そうですね。そうさせていただきます」

 と、答え、その内容を話し出した。


  2


 「この体でまたこの世界のものに触れたのは一年前の事です。それから、『再生者による犯罪対策課』に拾われ、いまの世界の事や、生活に必要な物、居ますんですアパートの一室を用意してくれました。そして、家賃は自分で払えという事で、バイトを探していたんですが、履歴書になにもかけないんです。なんせ、一度死んでから、八年もたっているんですよ?それに見た目も死んだときと全く変わってないんです。年齢を詐称する事もできなければ、事実を掻くこともできない。どうにかなりませんかねぇ…」

 南波さんは、さっきまでの黙り込む事はせず、饒舌に以来の理由を語ってくれた。

 それを聞き、俺はまず、

 「そうですか…」

 と、反応するしかなかった。

 生年月日を偽ったところで、亡くなった年代が古ければ古いほど、今のものに対しての違和感や適用の難易度が上がり、不自然に見えてしまうだろう。

 俺がどうこう言えるものではないだろう。

 そこで、俺はクナイさんに耳打ちで質問する。

 「…あの、俺みたいな学生にはかなり厳しい案件なのでは…」

 そう訊くと、クナイさんは小さく笑い、俺ではなく、南波さんに向かってこういった。

 「南波さん、『再生者優先雇用職業』というものはご存知でしょうか?」

 その単語に聞き覚えがなかった俺とそうらしき反応を見せる南波さんにクナイさんはその単語を説明する。

 「『再生者優先雇用職業』というのはですね、社会に出れる年齢、又は状態を持った再生者であれば、ほぼ優先されて雇用される職業んことです。一応雇用する側の企業は我々、政府側なんですけど、表向きでは生活困窮者乃支援の一環として作られたものなんですが、再生者が現れてから、そうなってはならないという理由で、この制度が半年ほど前に採用されました。ですが、ご存知のように再生者は国家秘密、いや、世界機密の存在なので、その採択された報告を堂々とできない状態にあります。ご存じない事も致し方無いでしょう」

 そういって、申し訳なさそうな顔で小さく頭を下げる。

 俺はソレを見て、このままでは話が途切れてしまう事を危惧して、こんなことを言ってみた。

 「…南波さん、簡単にこんなことを言うのは図々しいとは思うんですが、再生者の組合みたいのを作ってみたいと思いませんか?」

 南波さんは俺の顔を見て、ただただ、どういうことだと目で訴えてきた。

 それに俺は答えるように、その理由を明かす。

 「クナイさんの話を聞いて思ったんですが、情報網が薄いのが問題なんですよね。それなら、その情報網を確立させて、繋げればいいんです。

 途中で途切れさせるのではなくて、中心を作って、大量の枝をつくるんですよ。反田さん、僕が住むこの地域っを一区切りとして考えて、一地域につき何人の再生者がいますか?」

 そう反田さんに訊くと、

 「そうですねぇ、その区切りで行くと一地域につき、二人か一人くらいですかね。区切るとするならば一国に一人くらいではないでしょうか」

 と、すぐさま、俺の意見を汲み取り、アドバイスと共に情報を提供してくれた。

 「それなら、一国に一人でトップを決めて、そういう会議ではないですけど、法案の改定、協定の決議決定を行えばいいんじゃないでしょうか。そして、その下に地区のトップがいて、その地区のトップが任せられている地区の人々の意見を聞き、一つの案として、トップに報告、またはほかの地区のトップを集め、会議、集会選挙など様々なものを行う。簡単に言うと、『再生者の政府』ですよ。この考え、どう思います?」

 俺は南波さんに、いや、反田さんやクナイさんも含めた人達に向かっていった。

 最初は誰一人と反応しなかったが、南波さんは初めに口を開いて俺にこういった。

 「そ、その考え、いい、いいと思います。僕等の声がちゃんと届いて、僕らの耳にも届いてくれる声があるのなら」

 彼のその目には希望が見た。

 そして、俺は実感した。

 再生者の現状イマを。

 再生者の立ち位置を。

 こんな子供がかんがえた小さな案でもここまで反応するのだ。

 それが、再生者のそれを表しているのは、目に見えている。

 そして、俺はそんな考えを持ちながら、反田さんを見つめた。

 反田さんも俺に視線を合わし、小さく頷くと、

 「わかりました、上に掛け合ってみましょう。ですが、それが受け取られるとは関係ありませんよ」

 と、少々面倒臭そうに言った。

 そして、クナイさんも、

 「私も何とかしてみます」

 と、俺に参ったといった表情で視線を送ってきた。

 俺は一旦その視線には何も返さず、南波さんにこう伝えた。

 「とにかく、俺たちは上層部の方々に掛け合ってみます。一応、『一般人の代表意見発表者』なんで、発言力はなくはないと思います」

 そして、一度区切り、

 「少なくとも俺は再生者の諸問題には何とかやっていくつもりです。まだまだ、若輩者もいいところですが、善処に善処を貸せ寝させていただきます」

 そう、真っすぐ南波さんに向かっていった。


  3


 そこから一時間後の事、南波さんは相談が終ったという事で帰宅した。

 そして、話のいつからか寝てしまっていた華蓮を俺の部屋のベッドに寝かせ、俺と反田さんとクナイさんで反省会と今後の活動二ついての話をしていた。

 「…まぁ、今回は合格点でしたが、一発初回から、国に意見させようとするなんて、恐ろしいこと考えますよ」

 反田さんは溜息をつきながら、俺に注意というか、何というか、あまりよろしくないと説教をしていた。

 「ははは…、すみません…」

 俺はソレにただただ、苦笑いを浮かべ、謝るしかできなかった。

 「ですが、三滝君の意見は国に報告するレベルに値することは確かです。とはいえ、貴方がいったものをそのまま形にすると穴が出来るなんてものではありませんからね、そこは覚えておいてください」

 反田さんをそういうと立ち上がり荷物をまとめ出した。

 「あ、もう帰るんですか?」

 俺は普通にそう訊くと、反田さんはいつもの底のない笑顔で

 「えぇ。帰るといっても、職場、ですけど。相談の受付時間固定化と貴方の意見の報告書を出すのでね」

 と、俺の顔をじっと見て言った。

 俺は静かに頭を下げ、それを見た反田さんは、玄関へと向かい、職場へと帰っていった。


  4


 「人間に助けを求めたやつ?」

 三滝宅から自分の住まうアパートに帰ろうと暗くなり始めた人気のない道を歩いていた南波双木の前に一人の少女が立っていた。

 「あ、あなた、どちら様ですか?」

 南波はその少女の君の悪さに突き放すような言い方で問い掛ける。

 その少女は、、漆黒のローブから顔だけを出しており、ローブの下には何かがもぞもぞと動いていたからである。

 そして、南波の問いかけに対し少女は口を真横二転がした三日月のようににたりと広げ、笑う。

 そして、答える。

 「『蘇者教』って知ってる?」

 その答えは質問ではあったものの答えには十分だった。

 南波はその単語に震えあがり、体は動くことを諦めていた。

 なぜなら、その少女から『再生者の気配』が漂っていたからだ。

 「…あ、…あぁ………、うぅぁ………」

 南波の口からはただうめき声と生暖かい吐息だけが漏れ、その口、手、足、身体のすべてが震え、震え過ぎて、痛みを発していた。

 その理由は単純で、答えはそのその少女がわかっているのに告げてくれた。

 「神様なんだよ、再生者は?なのに人間に助けを求めるなんて駄目だよ。堕天したものは殺処分しなきゃ」

 少女がそう言った時、南波の目の前は真っ赤に染まっていた。

 そして、次第に視界が暗くなり、身を裂かれたような激痛と共に声など出す余裕もなく意識が途切れた。

 そして、身を裂くことによって、その痛みと、二度と意識を戻さなくさせるように心臓に突き刺した手刀を引き抜いた。

 おそらく、少女が南波に近づき、体を素手で引き裂き、手刀で心臓を突き刺した一連の動きを見切れる人間はいない。

 なぜなら、この間、○.八秒。

 人間ではとらえられない速度。

 残像の領域。

 それが、南波を殺した。

 南波の死体からは大量の血があふれ出し、彼の身体を抱え、傷口から抉りだすように同族の、人の『肉』を食べ始めた。

 「じゅる…、ん、酸っぱい。やっぱり、人間の肉は酸っぱいなぁ」

 そういって、彼の死体からだから口をゆっくりと離し、南波の死体を抱え直すと、その場から消滅した。

こんにちは、含水茶吹です。

今回も前後編で、両方とも理解できるかどうかわからない状況という、なかなかカオスな文面になっております。

では、さっそく今回のお話について。

四話「初仕事」では五話「翳」の起点と一章の視点の変化の対比を兼ねているお話でした。

正直言ってわかないという方は、一章終了後に投稿する予定の一章の纏め版「1-ALL」を楽しみにしていただけるとありがたいです。

一応それで訂正と変更、書き直しなどいろいろやるつもりです。

それは置いておいて、五話の解説です。

五話のタイトルである『翳』これは「かげ」と読むのですが、ただ『影』と書いてしまうと、再生者の立場のカゲや、やっと現れた敵のカゲのダブルミーニングというちょっとした遊びが出来ないので難しい『翳』という字にしました。

そんなこんなで、ここでペンを一旦置かせてもらいます。

ではまた次回。

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