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《万物名工(マテリアルクラフト)》〜両者の対面〜



「………お、お茶も出せずすいません。」


「………い、いや、突然訪ねたのは我々の方なのです、お気になさらず………ええと……。」


「秀吾です、吾妻秀吾。性が吾妻で、名の方が秀吾……って、さっき説明しましたっけ?……えっと、ファント・ガーフィールド………さん……で良いんですよね?」


「…………失敬、アヅマ殿。姓が名の前に着くと言うのは、我々スカイジアの人間には馴染みが薄いものでしてね………アヅマ殿と呼ばせて貰おう……宜しいだろうか。」


「はぁ………さいですか。まぁ呼び名は御自由にどうぞ。」



ーーーー現在、俺の目の前に銀色の甲冑を着込んだ20代後半位の若い男が胡座をかいて座っている。

そのすぐ後ろには部下の兵士だと思われる二人の男達が、同じ様なデザインの甲冑を纏って立っている。

違いといえばファント・ガーフィールドと名乗るこの男の武器だけ三つ叉の槍を背負っている、と言ったところだろうか、他の兵士はレイピアのような刺突武器を腰に装備していた。


ファント・ガーフィールドを観察してみると、背は高く俺より20cmは上だろう190cmくらいで、体つきは鎧も相まってかなりがっちりとしている。

冑を外したその顔は色白の肌に目鼻立ちが通った色男で、深い金色の髪を短く刈り上げていた。

瞳は髪の色と同じ深い金色で、その眼光はきりりと一本芯の通った名刀を思わせる鋭さを有していた。

多分話もせずにいきなりこの目で見られてたら俺は目を逸らしていたと思う。

だって怖いんだもん。


さて、話を戻すとこの男。

なんでも最近、この森から王都近くの宿場町にエサを求めて降りてくるようになった魔物達を討伐するために、スカイジア王国とかいう国から派遣されて来た騎士の隊長さんらしい。

と言うか、この近辺に人間の住む国があることすら知らなかった俺は内心驚いたし、いきなり家の前に厳つい甲冑の三人組が現れれば誰だってビビる、俺もビビる。


俺はお茶っ葉でも《万物名工》で作れたらなぁとか思いながら、ファント・ガーフィールドの前に同じように胡座をかいて座っていた。

俺の身嗜みは………まぁ学生服だし問題ないだろう。


そんな事を考えていると、ファント・ガーフィールドは俺をその金色の瞳でジッと見ながら口を開いた。




「アヅマ殿、貴殿はこのカズゥの大森林にいつから住み始めているのでしょうか?この森に人間が住んでいるという情報は我々は把握していなかったものでして……」


「?、えっと……三日前でしたっけね?」


『正解です。正確には2日と9時間12分15秒です。時間把握のアシストスキルを作成しますか?』



俺は心の中で自分のスキルに「(黙れ)」と釘を刺しておいた。



「…………………『三日前』ですか。」



「で……それがどうかしたんですか?もしかしてココに勝手に住んだりしてるのって不味かったですか………?」



もしかしたらこの森は彼らの国の土地で、ここに勝手に家とか建てるのは法律に違反しているのかも知れない。

異世界くんだりまで来て罪を犯すつもりはさらさら無い、目付きはともかくとして口調は穏やかで優しそうな人だし、誠心誠意謝れば許してもらえるかもしれん。

でもその場合俺は明日から何処で寝泊まりすればいいのだろうか。

野宿だけは嫌だしなぁ、虫嫌いだし、コカトリス出るし。


俺はそんな心情を込め、善意に訴え掛ける様な眼差しを目の前の騎士達に向けていると、ファント・ガーフィールドは慌てたように両手を前に出しながら首を横に振った。


「あぁ、いやいや。この森はどこの国の所有でもないですからね。家を建てることについて咎める意図は全くないから安心して欲しい。」


「………そうですか、良かったです。」



やっぱりこの人いい人っぽいな、眼光は鋭いけど。

まぁ俺も昔から目つき悪いって良く言われてたし人のこと言えないか。

俺はホッと胸を撫で下ろした。




ーーーーーーーーーー◯ーーーーーーーーーー





「………お茶も出せずすいません。」


ーーーーーカズゥの大森林のど真ん中に不自然なくらい開けた土地、その中央にポツンと建つ一軒の小屋を兵の一人が見つけ、私を含む《三又槍(トライデント)》の小隊の中でも特に腕利きの三人で偵察に赴いた。

まさか、此方の様子を伺っているのではないかという疑いを込めて、声を掛けて反応を見るつもりだったのだが…………こんなにもあっさり中に入れてもらえるとは我々は思っても見なかった。



「………い、いや、突然訪ねたのは我々の方なのです、お気になさらず………ええと……。」


「秀吾です、吾妻秀吾。性が吾妻で、名の方が秀吾……って、さっき説明しましたっけ?……えっと、ファント・ガーフィールド………さん……で良いんですよね?」


彼は我々がこの小屋に入るなり、自分の名を『アヅマ・シューゴ』と名乗っていた。

彼の国では姓は名の前につける決まりがあるのだそうだ。

私は軽く動揺していたとはいえ、相手の名を詰まらせるのは失礼だと思い、素直に謝罪の言葉を述べた。


「…………失敬、アヅマ殿。姓が名の前に着くと言うのは、我々スカイジアの人間には馴染みが薄いものでしてね………アヅマ殿と呼ばせて貰おう……宜しいだろうか。」


「はぁ………さいですか。…………まぁ呼び名は御自由にどうぞ。」


アヅマ・シューゴは興味無さげに私の謝罪の言葉を受け入れた。

ここで漸く動揺から立ち直った私は、アヅマ・シューゴの全貌を詳しく観察することが出来た。


この近隣では珍しい黒髪黒目の三白眼の青年だった。

髪は襟足の少し上くらいまで伸ばしていて、その深い闇のような色の瞳は、私をまるで逆に観察しているかの様な錯覚を覚えさせる。

身長は私より大分と小柄だが、我々の様な戦いに生きる者にとって見た目の体格差など個人を特定する要素の一つでしか無い。

この世界の戦闘には『魔法』が存在し、『異能(スキル)』が潜んでいる、私は決して油断などしない。


さらに観察を続けていると、アヅマ・シューゴがまるで燻しがるような目線を私に送っていることに気づいた。

悟られてはならぬと、私は用意していた幾つかのパターンの中から一つを切り出した。



「アヅマ殿、貴殿はこのカズゥの大森林にいつから住み始めているのでしょうか?この森に人間が住んでいるという情報は我々は把握していなかったものでして……。」


「えっと…………………。」


彼は一拍置くように言葉を置き、そしてーーーーーーー



「…………『三日前』……………でしたっけね?」




彼の闇のように暗い三白眼は、私をまっすぐに見据えていた。




「(……………っ!?やはりこの青年が………………ミルシィ様が仰られていた『正体不明の異物(アンノウン)』……!?」



「で……『それがどうか』したんですか?」



「(……………っ!)」



アヅマ・シューゴは、我々にぞっとする様な視線を飛ばして来る。




「…………もしかして………………ココに勝手に住んだりしてるのって不味かったですか………?」



そう発した彼の瞳に、段々と光が失われていくのを感じ、背後にいる私の部下達にも緊張が走るのを背中で感じ取った。


まるで、我々にもう話を続ける価値を見出せないとしたような視線。

我々の命すら、彼にとっては取るに足らない事のような視線……………。



私は、慌てて取り繕うように言葉を選ぶ。

過去、 『魔王』を含む『正体不明の異物』によって引き起こされた災厄の数々を思い返しながら、今暴れられたらカズゥの大森林どころか、スカイジアの民にも被害が及ぶかもしれない、そう判断して。




「あ、あぁ、いやいや!この森はどこの国の所有でもないですからね。家を建てることについて咎める意図は全くないから安心して欲しい。」


「………そうですか、良かったです。」




彼の冷たい視線はどうやら収まった様で、私は内心で安堵の溜息をつく。



私の勘が言っている。

やはりこの男は危険だ、と。






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