《万物名工(マテリアルクラフト)》~吾妻秀吾の視点②~
「いやぁ……思い付きで作ったスキルとはいえ、我ながら中々に優秀なスキルだなぁコレ」
俺ーーー吾妻秀悟は香ばしく焼かれたバジリスクの焼き鳥を頬張りつつ余った左手で手のひらサイズの木片を玩ぶ。
「…………《万物名工》!」
俺がそう呟いて木片をガシッと掴むと、握られた木片は瞬く間に、精巧に彫刻されたバジリスクの木工フィギュアに姿を変えた。
ーーーーーアシストスキル《万物名工》
素材(生きている動物は不可)さえ有れば、ありとあらゆるモノを、製造行程や技術を無視し『加工』して作り出せるスキル。
素材に間接的にでも触っていないと発動しないデメリットはあるが、工作はおろか食材の解体から調理まで一瞬でこなせるメリットに比べたら、
そんなの誤差の範囲と思える位に便利なスキルだ。
と言うか、マトモに扱えるスキルがコレとさっきから執拗にスキル作成を迫る《異界読本》しかないのだ。
有るものを使いこなすしかない。
《万物名工》で罠を張り、捕まえた獲物を《異界読本》で食べられるか見分ける。
現代っ子の俺は、そうやってこの三日間どうにかこの異世界サバイバル生活を乗り切ってきたのだ。
住めば都とは言わないが、我ながら中々に図太い精神をしていると思わざるを得ない。
「でもそろそろ風呂にも入りたいし布団で寝たいんだよなぁ」
いまのところ、体を洗うのは近くを流れてた小川だし、寝るときなんか床にごろ寝している始末だ。
服の汚れは《万物名工》で『汚れのない服』を指定すれば一瞬で洗濯できるものの、何日も同じ服を着ているのもどうかとは思っている。
流石の《万物名工》先生でも材料がないと風呂も布団も作れない。
「これならバジリスクの皮や羽根も捨てずに取っておけば良かったかなぁ」
でも爬虫類みたいな臭いすんだよなぁあの皮、なんて事を寝転がりながら考えてるとーーーーー
ーーーーー「済まない!何方か居られるか!?」
と、玄関の方で、男の声が聞こえてきた。