《万物名工(マテリアルクラフト)》〜吾妻秀吾の視点①〜
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ーーーーーーーーー拝啓、お袋様 。
異世界に転生して3日が経ちましたがいかがお過ごしでしょうか?
俺は死にそうです。
「ゴゲゲゲゲゲッ!ゴゲゲゲゲゲッ!」
「いやあああああああああああ乱暴しないでええええええええん!」
現在もニワトリのような胴体に蛇の尻尾を持つ魔物に(コカトリスというらしい)森の中を追われています。
《異界読本》いわく、現在の俺のレベル(全ての生命が所持する強さの基準値)だと、あのコカトリスの尻尾にかするだけで皮膚が爛れて即死するらしいです。
というかこの森に生息してる生物の大抵はそんな感じです。
なにこの森、修羅の国か何かなの?
ともかく俺は現在、『ある場所』に向かって森の中をひた走っています。
走り過ぎて脇腹が死にそうです。
『まもなく罠の領域に入ります。カウント10秒前……8……7……』
「うひいいいいいいいいいいいい!」
俺の悲痛な叫びを他所に、なんの前振りもなく俺に語りかけてきた謎の声。
この声の主こそ、俺がこの異世界に転生して初めて『作成』した『異能』、アシストスキル《異界読本》である(本人(?)がそう言っていた)。
《異界読本》が淡々とカウントを読み進める中、俺は最後の力を振り絞って駆ける足に力を込める。
背後には血走った目で俺を追うニワトリの怪物。
『……………3…………2…………1…………0』
「うぉりああああああああああああ!」
俺はカウントの消失と同時に、視界に入った木にぶら下がっているロープを引っ張った。
すると……………
「ギェエエエエエエエエエエエッ!」
「ぬわあああああああああああ!」
………俺の背後で断末魔めいた悲鳴を上げ、コカトリスは木の上から落下してきた大量の丸太に押し潰されていた。
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「い……………生命がいくつあっても足りん……………」
『アシストスキル《樹形公式》を使用して、アタックスキル又はディフェンススキルを作成しますか?』
「うるせえーー!何かにつけてスキル作ろうとすんな!」
俺は綺麗に血抜きと皮剥ぎを終えたコカトリスの肉をよろよろと背負いながら、森の中にポッカリと開いた小高い丘にやって来た。
さっきから落下式の罠を張ったり、コカトリスの血抜きをしたりと、おおよそ一般高校生が持ち得ないような技術を披露しているが、これはもちろん俺が元々持っていた技術なのでは無い。
ーーーーーーーーアシストスキル《万物名工》というスキルの効果だ。
俺は初めて異世界に降り立ち絶望したあの後、このやたらスキル作れとせがむ《異界読本》に色んな事を答えさせた。
話が長くなるので纏めると、要するに
この世界には『異能』と呼ばれる才能に似た超能力が存在する。
本来は、たゆまぬ努力や生まれ持った才能、特別なアイテムや環境などにより発現するらしいのだが、俺が今際の際に手に入れたアシストスキル《樹形公式》の効果により、俺は自身の存在力を消費することで、その過程を無視して好きなスキルを身に付けることができるのだそうだ。
「なら何個でも便利なスキルを作ればいいじゃん」と最初はそう思ったのだが、人生そうなんでも都合の良いようには行かないようで。
さっきも話した通り、俺の《樹形公式》は自身の『存在力』、つまりは俺の『この世界に存在し続ける為の力』を消費する事でその効果を発揮する。
つまり、スキルポイントが無くなると………
………俺自身の存在が魂も残らず消えて無くなってしまうのだ。
しかもその事を《異界読本》から聞かされたのは、俺が寝床を確保するために《万物名工》を獲得した後だと言うのだから余計にタチが悪い。
俺の現在の残り『存在値』は、初期値の18ポイント(18歳だから18ポイントなのだそうだ)から、《異界逃避》で8ポイント、《異界読本》で3ポイント、《万物名工》で3ポイント消費して合計14ポイント。
つまり残り4ポイント消費したら俺はこの世からさよならバイバイしてしまうのである。
ふざけんな、悪質な詐欺にあった気分だ。
なんて文句が頭の中をぐるぐると駆け巡りつつも、俺は丘の上に建てた木造の小屋 (もちろん《万物名工》の力である)の扉を開け、精肉したコカトリスをどっかりと石造りのかまどの横に転がした。
「いつまで続くのかねぇ……………こんな生活」
『アシストスキルを作成しますか?』
「うるせーーーーーーーー!バーーーーーカ!」
俺は空気の読めない自分のスキルに悪態を付いた。
吾妻秀吾の作成スキル
アシストスキル
《樹形公式》
《異界読本》
《万物名工》
ディフェンススキル
《異界逃避》