はと18
「糸井君は学校にたくさんの友達がいるんだね」
課題を終わらせるのに疲れて一休みしていると、俺の隣の椅子に三樹が座ってきた。
「何だ、急に」
「糸井君、学校に行ってるんでしょ?」
そうだけどさ。三樹も生きていた頃はたくさん友達がいたのかな。
三樹が課題のテキストを羨ましそうに見ている。課題をこんな目で見ている人には今まで会ったことがなかった。
「でも僕には糸井君がいるから、それで十分なんだけどね」
三樹が微笑む。
一緒に生活してから、いままでどこか二人を隔てていた壁がなくなり、互いの距離がぐっと近くなった気がした。
けれども、どんなに距離が近くなったって、いずれ三樹は消えてしまう。よく「死んでもその人を思い続ける」という風な恋愛映画やドラマがある。三樹は陽子ちゃんに対して、まさにそうだ。
俺は……どうなのだろう。
そう考えたと同時に、どうして俺がそんなことを考えているのかと疑問が浮かんだ。
俺は三樹のことを、どんな目で見ているのだろう。どんな感情を抱いて、見ているのだろう。
ちらり、と隣を見てみると、三樹は顔をうつ伏せにして眠っていた。窓から漏れる陽光が、三樹の金色の髪を光らせている。その髪はとても質量が軽く、ふわり、と雪のように溶けていきそうな手触りだった。
三樹を担ぎこみ、寝室まで連れてゆく。ベッドに寝かせ、掛け布団を痩せた体に被せた。
……最近の三樹は、眠ることが多くなった。いつも以上に疲れが生じるのだろうか。そうでないにしろ、三樹といられる時間が刻々と減ってきていることは、俺にも分かった。
――生き物もそうなのかな。生まれて死んで、見えないものになっても、また生まれ変わることができるのかな……。
三樹と始めて山の中を散策した時、川の流れを見つめながら呟いていた言葉。今ならその発言の意味が分かる気がする。
実際、俺は前世は陽子ちゃんとして生き、それから生まれ変わってきたのか分からないけれど、もし本当に命が循環しているのなら、俺は未来に希望が持てる。例え姿が違っても、三樹に会うことができるのだから。
けれども俺にとってそれは神秘で、広大すぎて……。ただ今を見つめることしかできない。
三樹が消えるのを、見守ることしかできないのだ。
ちっぽけな自分が、ものすごく悔しいと思った。
ふとカーテンを開けると、満天の星空が広がっていた。黒い海を泳ぐ、銀のウロコを纏った魚を思い起こさせる。
「うわ、すごいな」
俺の住んでいる場所が田舎だからといって、ここまで雄大な星空を今まで見たことがなかった。
「星、外へ見に行こうよ」
突然後ろから三樹の声がした。夕食を食べ終わり、再びソファーで寝ていると思っていたのに。
「でも三樹、疲れているだろ?」
「心配しなくてもいいよ。僕が見に行きたいんだ」
三樹の願いは、なるべく叶えさせてやりたい。二人で外へ出て、生ぬるい夜風に当たりながら空を見上げる。
「あ、そうだ。座る場所要るよな。何かレジャーシートになりそうな物持ってくるから」
そのまま地面に座ると、服が汚れてしまう。一旦家に戻ろうとしたら、三樹に呼び止められた。
「糸井君、座る場所なら、用意しておいたよ……」
振り返ると、地面にベージュのビニールシートが置かれていた。三樹の息は荒く、足元がおぼつかない状態になっている。
「三樹、まさか……!!」
ふら、と三樹の両足が崩れそうになる。急いで三樹の元まで走り、倒れる寸前に両手で身体を受け止めた。
「なんで、何で能力で物出してるんだよ!」
たくさん眠っていたのに、三樹は激しい運動でもして疲れ果てたかのように、俺の両腕の中に崩れ落ちていた。
「……ごめんね。僕、最近眠ってばかりで、糸井君に迷惑ばかり掛けていたから……糸井君の為に何かしたかったんだ」
「どうして……どうして」
三樹の様子を見て、心臓が止まるかと思った。そして、能力を使った途端、三樹の体力が失われてゆくのだと今日初めて知った。特に今は三樹の体が弱っているから、少しでも体力が減ることは致命傷なのに……。
なのにどうして、俺の為に自分を犠牲にするんだよ……!
「三樹、俺は迷惑なんて思っていない。それよりも……俺にとっては、三樹が……」
続きを言おうとしたが、三樹が寒そうに身体を震えさせているのに気が付き、言うのを止めた。
「……何か、毛布でも持ってくるから、待ってろ」
三樹をシートの上に寝かせてから、三樹の家へ戻った。
次回、9日午前8時投稿です。
読んでくださりありがとうございました。




