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鳩飼いの少年  作者: らりなな
四章 大切な人の傍で
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はと16

 背中に大きめのリュックサックを担ぎ、眩しすぎる光に目を細めながらも、山に向かって自転車を漕いで行く。

 ついに、夏休みが来た。




「糸井君、いらっしゃい」


 ドアをノックすると、三樹が満面の笑みで迎え入れてくれた。部屋の中は涼しく、外の暑さで弱った体を次第に癒してくれた。

 荷物は二階の寝室に置き、いつものように椅子に座って話したり、本を読んだりと穏やかな時間を過ごす。ただ一つ違うのは、しばらくの間、ずっと三樹の傍に居られることだ。何だか心がぽかぽかする。




 夜は、共にご飯を作る。食材は俺が、近くの古ぼけたスーパーで買ってきた。

 三樹の能力? で食材を出すことが出来るのかもしれないけれど、そのせいで薬の副作用の様に三樹の体が消えやすくなるだとか、三樹が出したものはあくまで「仮の存在」だから、その食材を食べても本当は栄養が摂れないとなっても困る。三樹は大丈夫だよと言っていたが、頑固に意思を貫き通すと、仕方がないといった様子で了承してくれた。


「なあ、人参ってどう切るんだ?」

「あ、これはね……」


 三樹が丁寧に、俺の横で切り方を教えてくれる。乱切り、だったけか。中学生の時、家庭科で習った気がする。

 それにしても、三樹は器用だなと思った。そんな弱々しい手で包丁を扱う姿は、まるで女子みたいだ。




 無事にシチューが出来上がり、お互いに向かい合って机を囲み、木のスプーンで熱々のものを頂いた。


「うわ、うまいなこれ」

「そうだね。二人で作ったからかな」


 初めてシチューを作った。料理に慣れない俺にとっては未知なる挑戦だったけれど……料理って、案外楽しいのな。


「そういえばさ、三樹はどうやって料理の仕方を知ったんだ?」


 だって、三樹が生きてた頃って……小屋に住んでたみたいだし、本だってそんなに見る機会ないんじゃ……。


「実はね、料理に慣れたのは、死んでからなんだ」

「え?」

「僕が死んでからしばらくは浮幽霊としてそこら辺を廻ってたんだけど、その時に本屋をのぞいたり、料理しているところをこっそり見たり、闇市の屋台とか廻ってたから、自然と覚えたんだ」

「へえ、元々料理の才能あったんじゃないか?」

「そう言ってもらえると、嬉しいなぁ。やっぱり陽子ちゃんを迎え……」


 一瞬にして、しまった、という顔つきをされる。

 俺は慌てて修正する。


「あ、陽子ちゃんの名前が出てきても気にしないし。嫌じゃないから」


 ……少しだけ嘘をついた。全く気にならない訳ではない。何だろうか、名前が出てきた途端、胸の奥がもやっとした感じになるのは事実だ。


 胸から湧き出る感情が嫉妬であることは、あまり認めたくはなかった。三樹に変な気遣いをさせたくないんだ。陽子ちゃんが大切ならそれで良い。





 寝室にはベッドが一つしかない。三樹に促され、俺と三樹は隣り合わせに同じベッドで眠った。


 朝目を覚ますと、三樹は隣に居なかった。カーテンを開けると、三樹が外で鳩に餌を撒いているのが見えた。

 直ぐに着替えと歯磨きを済ませ、階段を勢いよく降りて外へ飛び出す。


「あれ、糸井君おはよう。まだ寝ていてもいいのに」


 三樹が、餌の入った袋を片手に持ち、餌をやり続けている。


「こらこら。ご飯あげるからそんなに袋をひっつかないの」


 この光景は……そうだ、動物園の飼育員の周りを群がるペンギンのようだ。


「俺も手伝うよ」

「いいの? ありがとう」


 麦の様なものを少しつかみ取り、投げる。すると、投げた方向に鳩がわらわらと集まっていった。


「この位で良いかな。後は自分たちで食べ物を探すだろうし」


 もしかしてこの麦らしきものは、三樹が出した物ではなく、本物なのかなと思いつつ袋を手渡すと、急に話を持ちかけられた。


「陽子ちゃんはね、鳥が大好きだったんだ」


 三樹がどこか遠くを見つめるような目で、雲ひとつない空を見上げている。


 昨日と同じように、胸の中で変な違和感を感じたが、気が付かなかったことにする。


「二人で、とても、とても青い空を見上げた時、陽子ちゃんが言ったんだ。『私、鳥になりたい。だって、鳥は情報屋だから。飛んでいる最中にふと下を見れば、人も動物の行動も、何もかも知ることができるから』って。……今まで、鳩を見る度に安心してたんだ。いつでも陽子ちゃんのことを思い出すことができるから」


 俺もそうだった。彼女と別れてすぐの頃、いつも来ていた思い出の場所……。夕日のキレイな展望台に行っては、彼女のことを思い出していた。

 当時あんなに忘れなくてはと思っていた気持ちと正反対の行為は、今思えば心の安らぎとなっていたのかもしれない。彼女との別れによって生まれた心の穴の様な物を、唯一埋めることのできる手段だったのかもしれない。


 三樹も、きっと、俺と同じような心境だったのだろう。好きな人の死によって生まれた心の穴を、鳩に囲まれて生活することによって、埋めようとしていたのだろう。


「僕は、鳥の中でも特に鳩にこだわったんだ」

「何でだ?」

「僕が死んだあと、鳩を伝書鳩として育てる人を見かけてね。その人が鳩を隔てて想いを伝えようとするのと同じで、自分も陽子ちゃんに想いを届けたいって思ったから。死んだ後も、貴方を思っていることが伝わったら良いななんて、夢みたいのことを考えていたから」


 三樹が俺を捉える目が、なぜだかとても優しく感じた。





 机の上に、ふっくらご飯と味噌汁、ムニエルを並べて、共に食べる。


「なあ、三樹」

「ん?」

「何かしたいことがあれば、いつでも言えよ? 協力するし」


 三樹がありがとう、と軽く返事をする。軽くあしらわれた様な気がして、つい、しっかりとした重い口調で「本当に、遠慮するなよ?」ともう一度言った。


 三樹はふと箸を置くと、何か考え始めた。やっぱり、遠慮していたのか。


「それじゃあ……。僕、また買い物したいなーなんて」

「買い物?」


 買い物……か。といっても、街じゃ危険だよな。三樹が急に透けたりなんかしたら、周りの人が驚くし。


「やっぱり無理だよね。ごめんね」


 諦め付いたように三樹が、再び箸を取る。

 その曇った表情に、どうにかしないと、と情報の乏しい頭でひたすら案を考えてみる。


「駄菓子屋とかどうだ?」



 山のふもとに、古ぼけた小さな駄菓子屋があることを思い出した。近所の子供が買いに来る程度の場所。店長であるおじいさんはかなり高齢だから……こんなことを思っては何だけど、仮に三樹が目の前で透けたとしても、きっとあっさりと忘れるだろう。

 この前買いに行った時のおじいさんはちょっとボケ気味で、こんなので経営が成り立つのかと疑問に思ったことがある。


 三樹は一瞬動きを止めた後、すかさず目を輝かせた。


「うん! 行こう!」


 よっぽど嬉しいようだ。小躍りするように身体を左右に倒し、食べ物を口に運んでいる。

 その光景が微笑ましくて、二人で作ったご飯がよりおいしく感じられる。もちろん俺にとっても、三樹が喜んでくれるのなら、例え小さな駄菓子屋でも構わないと思った。

次回、7日午前8時投稿です。

読んでくださりありがとうございました。

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