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雪みーこ

作者: RIKO(リコ)

 日曜日。それまでふりつづいていた雨が、とつぜん、雪にかわりました。今年、はじめてつもった雪に、小学1年生のゆうとは小おどりしながら、あちこちの雪をかきあつめ、いっぴきの雪ねこを作りました。

「おまえの名前は雪みーこだぞ」

 頭につんとつきでた小さな耳。まるいしっぽ。鼻は少し大きく作りすぎましたが、どことなくかわいい感じがしたので、ゆうとは作りなおさずに、そのままにしておくことにしました。

 しばらくすると、

「ゆうと、お昼ごはんよ。お家に入りなさい」

 家の中からお母さんの声がしてきました。

「雪みーこ、ぼくがもどってくるまで、おとなしく待ってるんだぞ」

 ゆうとは、大いそぎで家の中にかけこみました。ところが、ほんの少しのあいだに、雪空の灰色はいっそうふかくなり、さすように冷たい風がびゅうびゅうとふいてきたのです。

「ちぇっ、これじゃあ外であそべないよ」

 ゆうとは、ベッドにごろんと横になりました。

 その時です。みーみーという、高い声が、ゆうとの耳にとどいてきました。

「何だろう?」

 ゆうとは、へやのまどから、庭をのぞいてみました。すると……

 ゆうとが作った雪ねこが、まどの下にちょこんとすわっているではありませんか。

「ゆうとくん、あなたは、あんなに寒いところに、いつまで、わたしをまたせておくつもりなんですか!」

 雪みーこは、つんっとふくれて、口をとんがらせました。

「だ、だって、雪みーこは雪ねこだろ? 寒くたって、いいじゃないか。それとも、お家の中で、こたつにでもはいりたいっていうの?」

「そ、そんなことをしたら、わたしは、とけてしまいますっ!」

 みーみーと、声をいちだんと高くしておこる雪みーこに、ゆうとは、あきれかえってしまいました。

「ゆうとくん、外であそびませんか」

「えっ、こんなに寒いのに?」

 ゆうとは、とまどいました。でも、雪ねことあそぶなんて、めったにできることではありません。ぼうしにマフラーに手ぶくろ。ありとあらゆる、寒さよけをみにつけると、ゆうとは、いそいで、外にとびだしてゆきました。


「ゆうとくん、むこうの木まで、きょうそうしませんか」

 雪道をなでるように歩きながら、雪みーこがいいました。

「き、きょうそう? だめだめ。ぼくはできないよ」

「どうして?」

「ぼく……、のろいんだ。なにをやっても……」

「アァハハハ!」

 それを聞いて、雪みーこは、手も足もしっぽも、体をぜんぶ、つかってわらいころげました。

(あんなにわらわなくたって、いいのに……)

 ゆうとは、雪みーこなんかつくるんじゃなかったと、ほっぺをふくらませました。

「ゆうとくん、やってみもしないで、あきらめちゃ、だめですよ」

「だって、ぼく、ほんとうに、のろいんだよ」

 雪みーこは、ゆうとのいうことなんて、ちっとも聞いてはくれません。

「いいですか。よーい、どんっ!」

 雪みーこの足のはやいこと! 雪の上をスキーでもすべるように、すいすいとかけぬけてゆくのです。

「まってよー。雪の上は歩くのだって、たいへんなんだからっ」

 ゆうとが、一歩、すすもうとするごとに、足がズボッと雪の中にめりこんでしまいます。

「がんばれ、ゆうとくん、あきらめたら、また、わらわれますよ」

 ゆうとはひっしに走りました。そして、なんとか木の下にたどついた時には、いきがきれて、しにそうな気分になりました。

「ゆうとくん、やればできるじゃないですか。すこしくらいおそくたって、へいき、へいき」

 雪みーこのことばに、ゆうとの心は、ぽかぽかとあたたまりました。けれども、それとははんたいに、体のほうはひえきって、ぶるぶるとふるえてくるのです。それもそのはず、ゆうとのズボンは上のほうまで、ぐっしょりとぬれていたのですから。

 そんな時です。通りのむこうから、やきいも屋さんの笛の音がひびいてきました。

「あ、やきいもだ!」

 ピョーとなる笛の音に、ゆうとのおなかがぐるるとなりました。すると、やきいも屋のおじさんが、ゆうとに声をかけてきました。

「ぼうや、さむいだろ。ほれ、食いな。一本、サービスだ」

「えっ、いいの?」

「ああ、雪もこんなに、ふっちゃあな、わざわざ、やきいもを買いにくる、おきゃくもいないよ。ほいっ、一番、大きいのをいれておいたよ」

 やきいもは、ゆうとの大こうぶつです。やきいもをうけとった、ゆうとは、さっそく、いもの皮をむきはじめました。寒い雪空に、ほっほと、やきいもの白いゆげがまいあがり、ゆうとのいぶくろは、みるみるうちに、ほかほかにあたたまりました。

 まんぞくした、ゆうとが、ふと、となりを見てみると、雪みーこが、目をまんまるくして、せめるように、ゆうとと、やきいもを見つめているではありませんか。

「雪みーこも食べたいの? やきいも?」

 ゆうとは、雪ねこがやきいもを食べるなんて、とても信じられませんでした。ところが、雪みーこは、ゆうとに、ちぎってもらった、やきいもを、ほくほくと平らげてしまったのです。

「世界じゅうさがしたって、やきいもを食べる雪ねこなんかいないぞ」

 ゆうとは、ゆかいでゆかいで、たまらなくなってしまいました。


* *

 たのしかった雪あそびでしたが、その夜、ゆうとは、高いねつを出して、ねこんでしまいました。ぬれたままで、あそんでいたのが、わるかったようです。

「ゆうとくん、いっしょに、あそべないんですか」

 雪みーこは、ベッドの中のゆうとを、かなしそうに見つめていましたが、いきなり、小さな頭を、ゆうとのねつのある、おでこに、くっつけてきました。

「あ……いい気持ち」

 雪みーこは、とてもつめたくて、ねつのある、ゆうとには、ちょうどぐあいがよかったのです。

「やきいものおれいですよ」

 ゆうとと、雪みーこは、しばらく、おでことおでこをくっつけて、じっとしていました。おたがいのあたたかさと、つめたさが、体にしみこんでくるようで、とても幸せな気分だったのです。やがて、ゆうとは、ねむくなり、いつの間にか、ぐっすりとねこんでしまいました。


* *


 次の日は、きのうの雪がうそのように、きれいに晴れあがりました。けれども、ゆうとは、さっぱり元気がありません。

 雪みーこのすがたが、かげもかたちも、なくなってしまったのです。

「きっと、夜のうちに、とけてしまったんだ」

 ゆうとは、きのうのうちに、雪みーこをれいぞうこに、入れてやるんだったと、こうかいしました。かなしくて、くやしくて、涙がかってにながれてとまりません。

 雪みーこは、さよならもいわずに、いってしまいました。ゆうとにとって、雪みーことあそんだことが、今では、ゆめのように、思われてなりませんでした。


* *


 それから何日かしての寒い日のことです。

 ゆうとは、町で、あの雪の日の、やきいも屋さんを見かけました。その時のゆうとのおどろいたことといったら!

「雪みーこじゃないか!」

 雪みーこが、やきいも屋のおじさんのよこで、いそいそと、はたらいていたのです。雪みーこは、ゆうとのすがたを見つけると、てれて、ひげをこすりました。

「へへ……、じつはわたし、ゆうとくんにもらった、やきいもがすっかり気に入ってしまいまして、やきいも屋さんに、しゅうしょくすることにしたんです」

 ゆうとは、ぽかんと口をあけたままでしたが、やきいも屋さんのおじさんも、

「雪みーこなら、雪の上でも、すいすいと歩けるし、何よりも、こどものおきゃくさんが、ふえてねぇ、わしもしごとが楽しいよ」

と、まんざらでもないようすです。

「ゆうとくん、春になったら、わたしはいったん、ほかの所へたびだちますけど、また、冬がきて、雪がつもったら、私をつくってくださいね。やきいも屋さんとは、冬の間だけ、お手伝いするっていう、けいやくなんです」

 

 こんなわけで、まいとし、雪がつもると、雪みーこを作るのが、ゆうとのしごとになりました。また、ゆうとは、雪みーこのほかにも、雪ねこを作りましたので、やきいも屋さんは、働きもので、ゆかいな雪ねこの店員でいっぱいになりました。


 ゆうとは、もう、じぶんのことをだめだなんて、かんがえなくなりました。それどころか、しょうらいは、おじさんと雪ねこたちと、ゆうととで、日本で一番大きなやきいも屋さんを、けいえいしようと、おもっているくらいです。


                     挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[一言] 雪でできた○○といえば、儚く終わることが多いように思いますが まさか、就職していたとは。 ゆうとくんと、雪みーこのやりとりもかわいらしくて良かったです。
[良い点] 個人的に文章の書き方がすごい好きです。 いい感じに過不足なくキッチリ描写できていると思います。 [一言] 最初から最後まで、心温まるいい童話でした!
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