夕陽に染まる君
「今度こそ君に」の勇者こと佐藤景視点です!
篠原せな視点の「今度こそ君に」を読んでからこちらを見ることをオススメします。
あ、強制ではないんで、好きな方からでも、片方だけでも、お好みで読んでくれて構いませんよ!
「今度こそ君に」の方は公開する前に完結まで二日で書き上げたものを二日でサッと公開しましたが、
佐藤景視点はまだ完結まで書いていないので、ゆっくり執筆しながらゆっくり更新していきたいと思います。
いつの間にか景色は橙色に照らされていた。
流れ落ちる汗は嫌いじゃないけど、気が散るから体操着で拭き取る。
蹴り飛ばすボールの手応えを感じる足がそろそろ疲れてきた。
弾むボールの音を掻き消すチャイムはいつなっただろう? 五分前? 十分前? 覚え出せないくらい夢中になっていた。
中学からやってきたサッカー。でも中学では功績は取れなくて推薦もなく、偏差値ギリギリのこの高校に入学した。創立五十周年だってさ。
顧問の許可を得て、練習をした。次の練習試合で絶対にゴール決めて選抜メンバーに入ることが目標。
サッカーが好きだ。楽しくてしょうがない。
ふと、校舎の方に人がいることに気付いた。もう生徒は帰ったはずなのに、そこに立ってオレを見てる。
───心臓が跳ねた。
クラスメートの子だ。今気になっている子。席が隣で課題をやり忘れる度、見せてと頼む相手だった。
真面目でちゃんとやらなきゃだめだと怒りつつも、見せてくれたり教えてくれたりしてくれる。クラスの中で大人びてて、お姉さんみたいな存在。
俺は思わず腕を振った。
橙色に照らされた彼女は、笑って振り返してくれた。その光景が、綺麗だった。
白いブラウスが橙色を跳ね返すから眩しい。肩につくおさげのあの子の笑顔も、眩しくて俺の心臓は暴れ出した。
今────二人っきりだ。
好きだと、伝えようか?
今がチャンスだけど、ドキドキと高鳴る胸が緊張を掻き立てて怖じ気づく。
でも、早くコクらなきゃ。
誰かに奪われる気がする。
彼女は可愛くて優しくて人気がある。彼氏いないって言ってたけど、絶対にすぐ彼氏が出来る。
そう思ってもチキンな俺は彼女の元に行けなかった。
足元のサッカーボールを見て、思い付く。
そうだ、入れたらコクる!
これでゴールが決まれば上手くいく!
ゴールを指差して、彼女に知らせる。遠いから声に出さない。今声出したら、絶対に裏返る。
親指を立てて見せて、ゴールを決めたらコクります! 宣言。
よし、決めるぞ! 決めたら告白!
足元のボールを置いて、三歩後ろに離れる。
プレッシャーでバクバクと心臓が跳ねまくる。爆発しそうだ。
足を踏み込んで助走で勢いをつけて蹴り飛ばした。
宙を舞ったサッカーボールは、中にはいることなくカコンッと白い枠に当たり跳ね返ると俺の元に転がって戻る。
は、ず、し、た、っ!!
よりにもよって! 大事な場面で!
プレッシャーに弱い男!
ガクッと項垂れる。宣言したのに外すなんて、カッコ悪すぎだ……。
笑う声が聴こえた気がして顔を上げると、彼女が笑っていた。笑われた……。
でもその笑顔で、もっと彼女が好きになった。
────橙色に照らされた彼女の笑顔が俺の中で強く刻み込まれる。好きだって気持ちも強く膨れた。
でもその気持ちを伝える前に────彼女は車に轢かれて死んだ。




