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俺が魔王になったわけ

作者: 郁島 瑞貴

これは電撃チャンピオンロード第一回「魔王」に落選したものです。

 「なあ、魔王よ」

 正面に向かう男が言う。

 「どうしてお前は魔王になったんだ?」

 そう言いつつ腰を下ろす男。

 おい、なんでこんな最終局面で落ち着きだしているんだ。

 でもそのおかげでいつもの張りつめた空気から解放され、ほっとしてしまう。

 「だって、今のお前は僕を倒したりしないだろう?顔がゆるんでいるし」

 男はニヤリと笑う。

 とっくにバレバレだと言うわけか。

 まあ、たまにはあの日を思い返してみるのもいいのかもしれない。

 そう、あれは――……



 あれは、俺が魔王になる前のこと。

 役割を演じなければ世界に存在する者として認められない世界、RPG世界で俺はアイドルを目指して日々奮闘していた。

 なんでアイドル、とかは突っ込まないでほしい。とにかく俺は役割にするならアイドルがいいと思っていたのだ。

 だが、日々受け続けるオーディションにはことごとく落ち、自分が認められないことにイラついて、最近は紹介されたオーディションをただ受けるだけの日々が続いていた。

 この間なんかは村人I(Iは勿論アイドルのI)ですら落ちてしまった。

 内容の確認すらしていなかったのだから、当然かもしれないが。

 そんな中舞い込んできた一つのオーディション。紹介されたというだけで俺はそれを受けに行った。

 それがすべての始まりだったなどとは、つゆ知らず。


 会場には、いつもと雰囲気の違うヤツらばかりが揃っていた。

 「ふひひ、オレの左手がうずくぜぇ……」とか「ふふっ、私の右目がうずきますわ……」とか言っているヤツら、オーラのどす黒いヤツ、やけに煌びやかな衣装に身を包み「今日も僕は美しい、完璧だ!」とか言っているヤツ、プラス黄色い声を張り上げる取り巻き数十名。

 会場間違えたかなとか思ったが、俺の名前を呼ぶ声が聞こえたので少しがっかりしながら席に着いた。

 一次審査は使い魔の披露。

 蛇、蝙蝠、虫、竜と続き、俺は何か違うと感じつつも海亀を召還。

 途端、俺の海亀を指差しながらざわつく取り巻き達。うるせえよ。

 俺は海亀の甲羅をなでながら審査員へのアピールへと移る。

こいつは俺が小さい頃、海で他の奴らに虐められていたのを助

 「結構です」

 海亀はだめだったらしい。うーん、アイドルって難しい。

 二次審査は対戦形式の特技披露。

 初戦、厨二組は言っていたことそのまま左腕バズーカ対右目ビーム。

 相打ちとなって二人はどこかへと搬送された。

 審査員達は皆「見事な相打ちだった」と評していた。他にはないのかよ。

 次戦、俺対ナルシ。

 特技披露であるこの対決で、特技を披露する前に倒されてしまっては意味がない。

 そう思った俺はナルシがなんか言っている隙に先手必勝とばかりに、両手をナルシの金ぴか衣装に勢いよく張り付け、その我ながら見事な手捌きに目を閉じ、酔いしれながら審査員へとアピール。

 俺の特技、手汗アタック。俺の手汗は超強力な粘着性を持

キャーッという甲高い悲鳴に打ち切られる。

なんだと思って見てみれば、対象であるナルシが白目を剥いて気絶していた。

 審査員も苦い顔をしているし、根暗君には「それはないよ」と言われる始末。

 俺、間違えたのか、また。ナルシは取り巻きと共に退場していった。

 最終審査は笑顔披露。やっぱりアイドルは笑顔が大事なようだ。

 その頃には厨二組も復活しており、根暗君と共にさっきまで想像もできなかったような笑顔を振りまいている。彼らにいったい何があったんだ……審査か。

 だが、笑顔は俺の苦手としていることの一つであった。アイドル志望なのに、だ。

 名前を呼ばれ、笑うことを急かされる。

 だから、俺は――……



 フハハハハ、と毒々しい笑い声が辺りに響き渡り、空気がビリビリと震えた。

 突然の大声に正面の男も驚いたらしく、目を見開いている。

 「とまあ、こんな風に笑ってやったのだよ。そしたら見事合格、だがそのオーディションは魔王を選出するものだった、という訳だ」

 笑うとそうなってしまうことを悩んでいた俺にとってはとんだ皮肉だよなあ、と呟く。

 合格、の後に続いていた「笑い声が特に魅力的でした」という講評を思い出し、苦笑した。

 そんな俺を見てか、落ち着いたらしい男は「手汗魔王……」とか呟きながら腰を上げ、剣を構えた。

 「さて、じゃあお仕事といきますか。ありがとよ、魔王さん。あんたの生い立ち、なかなか面白かったぜ。『だが、僕は世界の平和の為に貴様を討つことを誓うぞ!』」

 台詞を言い出した勇者に、すっかり弛んでいた空気は再び張りつめたものとなり、俺は元の調子を取り戻す。

 『フハハハハ! 貴様ごときがこの俺を討つ? 笑わせるな! 貴様は今ここで終わりを迎えるのだ!』

 この台詞も随分と言い慣れてきた。要するに俺はノリノリなのだ。

 俺の『かかってくるがよい!』の台詞で、勇者がこちらに向かって剣を振り上げてくる。それをいとも簡単に撥ねかえす。それにもめげず勇者は再び剣を振り上げる。

 俺はより一層高らかに笑うと、今日も魔王という役割を演じるのだった。

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