無題。
はじめて嫌悪を感じたのは、友人の反応でした。
友人は自分の傍につねに居て、何をするにも一緒でした。
そして『あんたはやっぱり優しいね』と言い、自分に嬉しそうな微笑を向けるのでした。
しかし自分は言われるたびに悲しくなるのです。
自分に『優しい』なんて言葉はちっとも合わないからです。
人が泣いているのを嘲笑い、涙を利用し他人を欺くのです。
それがバレ、友人達が離れて行ってしまうことが恐ろしく、他人を気遣う毎日を過ごすのです。
それゆえ自分は愛想を振りまき、友人達をもてなし、『優しい』人間を演じ続けるのです。
ある日、友人は自分に言いました。
『これすごくいいよね』
そう言いながら、いつもの嬉しそうな笑顔を自分に向けてくるのです。
しかし自分は良いとは思うことが出来ないのです。
友人達は口をそろえて『いい』と言いましたが、それでも自分はやはりそう思えないのでした。
その会話を聞いている間も、全く友人達を同じことを思えないのです。
自分は友人にそのことを打ち明けると、『それはいいと思えない。変っている』と周囲に同意を求め、友人達は同意をするのです。
それを聞いて、恥ずかしさがこみ上げ、『冗談だよ』と必死に愛想を振りまきながら言うのです。
自分は友人たちとの感じ方に違いがある思いは、成長するにつれ大きくなっていきました。
友人が綺麗と感じるものに共感できず、おもしろいと言う本は最後まで読むことが出来ないほど感じられないのです。
何故これをよいというのだろうか。
何故自分は友人達と同じことを感じられないのだろう。
何故こんなにも価値観の違いが大きいのだろう。
友人達が悲しんでいる時も、感傷に浸っているときも自分は同じ事を思うことが出来ないのです。
むしろ自分は友人達を影で嘲笑ってしまうのです。
同じことばかりをする友人達の行動に失笑してしまうのです。
そんな自分を嫌悪し続け、自らを傷つけておりました。
良いと思ったことを口にせず、嫌でも周囲に合わせるのだ。
友人達が涙を流す時は、悲しい顔を作るのだ。
自分は教師や家族、あげく名前も知らない他人に愛想を振りまき続けました。
自分は最低な人間です。
自分を自分で嫌悪する仮面を被った愚かな人間です。
中学に入り、価値観の違いを直そうと小説を書き始めました。
少しでも友人と同じことを思えるように、友人が考えることを想像して書くのです。
小説を書く中でも自分を『愚かな人間』と気付く者は誰一人いませんでした。
仮面を被った愚かな自分は『優しい人間』という完璧な子供を演じ続けます。
それを壊せる人に出逢うことが、これから先ずっとないからです。
二つ違いの兄は他人と同じことを感じられます。
他人と同じことが出来ます。
友人と同じ出来の悪い人間になりました。
そんな兄の尻拭いを、自分はしなければならないのです。
自分は『優しい人間』を演じ続けているからです。
両親は兄を『出来損ない』と言い捨て、自分に重い期待を託すのです。
見えない期待に答えようと、自分は他人と更に違うことを思うようになってしまったのです。
何故自分だけがこうなってしまう。
何故自分だけが違うことをしてしまう。
何故自分だけがこんなにも『完璧な人間』になれない。
それでも自分は演じ続けることしか出来ないのです。
自分は更に仮面を被ります。
同じになるために仮面を被るのです。
『優しい人間』と『完璧な人間』になれない自分を嫌悪していました。
我慢しなくていい、あの人は自分に言いました。
あの人は涙を浮かべて言ったのです。
ああ、泣かなければ。
いやここは泣くところではない。
これはどうすればいい。
わからない。
何をしていいか自分にはわからない。
あの人はわかってしまったのです。
自分の『優しい人間』という仮面を被っていることを。
あの人は誰よりも自分の理解者になり、親友となり同時に敵となりました。
友人達に仮面を被っていることをバラされてしまう恐怖と、自分の価値観の違いを更に見破ってしまうことに脅えていました。
だから自分はあの人を監視しました。
精一杯あの人に愛想を振りまき、常に一緒に居ました。
しかしあの人は居なくなりました。
遠いどこかに行ってしまったのです。
自分は深く安堵し、また仮面を被りなおします。
今度こそ誰もわからないようにと。
しかしある少女は自分を認めてくれました。
自分に嫌悪しか感じられない自分に言いました。
『次は自分の好きなところを見つけられますように』
自分は涙しました。
演じたのではなく初めて自分で涙を流しました。
仮面が割れてしまったのだと感じたとき、自分はホッとしたのです。
重々しい心が軽くなり、演じ続けることから解き放たれた気がしたのです。
その一言を自分は望んでいたのかもしれませんでした。
見えない期待と『優しい人間』という就縛され、価値観の違いを隠すために必死に愛想を振りまいていた自分。
それを嫌悪し続け、自らを傷つけていた自分を『好きになれ』と言ってくれました。
完璧になれない自分は、自分を好きになってもいいのですか。
だんだん書いているうちに文学少女に似てきてしまった気が、、、、、