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第8話 迷子見つかりました

12月16日 月曜日

遠藤が学校に来なくなって5日目。

朝のホームルームで、担任から事務的な口調で連絡があった。


「えー、行方が分からなくなっていた遠藤だが所在がわかった」


少し遅れて、クラスにどよめきが起こった。

え?遠藤、行方が分からなくなってたの?


「一応言っておくか。宮城の気仙沼で警察に保護されたと、今朝親御さんから連絡があった」


担任が連絡を続ける。

マジかー、遠藤は北に向かってたってか。

やっべ。


「今日親御さんが宮城まで遠藤を迎えに行くことになった。お前らは家族に心配をかけるなよー」


担任の連絡にクラスのガヤガヤが止まらない。


「………………」


宮城県ってここから何キロ離れてたっけ。


「そんなわけで担任として俺もこれから親御さんと合流して宮城まで遠藤を迎えに行くことになった。ので国語は代行の先生が来るからお前ら騒ぐなよー」


「……は、はは」


いやなんか、ホントごめんなさい。

変な空気のままホームルームが終わった。


「藤原、遠藤戻って来るってよ」


ケンヤがこっちを向いて、何とも言えない表情で小声で言ってきた。


「…………うーん」


僕もコメントがしづらい。


無事がわかって安心が半分。

あんな奴だし戻ってこなくていいやが半分。

いや、ぶっちゃけ7割か8割?


僕ってわりと薄情なのかも。

だって仕方ないよね。

いなくなる直前の奴の態度があんなだったもんな。 


「藤原君、大丈夫?」


吉住さんも心配そうに言ってくれた。


「だ、大丈夫だよ。多分」


実はあんまり大丈夫じゃなかった。



遠藤が見つかって、あれからどうなったかわからないまま、帰りのホームルームが終わった。


予告通り、担任はあれ以降学校からいなくなっていたみたいで、帰りのホームルームも代行の先生が来ていた。


ちなみに代行の先生は、パンツ丸出し騒ぎで体育館に山岸君と一緒にいた、あの若い女の先生だった。


野崎聡美のざきさとみ先生。

野崎先生は、あの時あそこにいたのが僕だったと気付いてないようだった。

よかった。本当によかった。


今日は動物病院に寄って行くことを吉住さんと約束してたので、一緒に教室を出ようと思っていたら、気がついたら吉住さんの姿がなかった。


「先に行ったのかな?」


カバンも机にないし、校門あたりで待ってるのかなと思っていたら、


「吉住さんなら、木下きのしたさん達と一緒に帰ったよ、藤原君」

「え?」


あんまり話したことがない、同じクラスの女の子から話しかけられた。


真鍋祐来まなべゆうきさん。

同じクラス以外の接点がほとんどない、名前が地味に覚えにくい漢字の子だった。


ケンヤに言わせると、クラスイチ胸が大きい子らしい。

真鍋さんは、こちらを見ないまま、両手を胸に置いて、何度も深呼吸をしていた。

確かにかなり大きい胸だった。


「吉住さん、木下さんと一緒に帰ったって?」

「え?う、うん、そうそう。吉住さん、用事があるって言ってたし」

「用事?」


うーん、そんなの聞いてなかったけどな。


「あ、あの、それでね、藤原君、私ね、藤原君に、その、すごく大事な話があるんだけどね……」

「ごめん真鍋さん。僕急ぐから。それじゃ」

「あ………」


僕が教室を出ると、後ろのほうから、

あちゃー とか、ダメじゃん とか、サイテー とか、

クラスの女の子たちの落胆する声が聞こえてきた。


なんなの?



僕は奥の手を使ってみることにした。

初手より奥義にてつかまつる。なんてな。


「ねえ、吉住さんの居場所ってわかる?」


まあ奥の手と言っても、玉に聞くだけだけど。


『スキャン完了。この建屋の音楽室と呼称される空間に対象の生命反応を検知しました』


少ししてピンク色の玉が答えてくれた。

どうやら玉はピンク色形態じゃないと喋ってくれないらしい。

あと内容がいちいち怖い。


変だな音楽室って校舎の最上階の一番隅っこだし。


「一緒に帰る。ねえ」


僕は今朝のこともあって、遠藤の「一緒にかえろーぜ」を思い出してしまっていた。

あー、やだやだ。


他に行くアテもなかったし、僕は音楽室に行ってみることにした。


音楽室の前に到着すると、中から賑やかな楽器の音が聞こえてきた。


「入りまーす」


特に何も考えず、僕がガラッと音楽室の扉を開けると、幾人かの吹奏楽部の人たちが楽器の試し吹きをやっており、ファーとかプーとか音を鳴らしていた。


「藤原君?」


あれはコントラバスっていうんだっけ。それともチェロ?とにかくバカでかいバイオリンみたいな楽器が置いてあるところに吉住さんの姿があった。


「あれー?話違くない?」

「違うよね」


吉住さんと一緒にいた女の子たちが、僕を見るなり何やらヒソヒソ話を始めた。

どうやら険悪なムードではなさそうだったけど、なにがなんだかさっぱりわからない。


「吉住さん迎えに来たよ」


他の言い訳も思いつかないし、僕は正直に言ってみた。


「なんで……」

「いや、一緒に帰るって言ってたし」

「あ、そ、そうだった、ね。あの、その、ごめんなさい。じゃなくてっ、あのっ、えと、そ、そういうんじゃなくて、その…………」

「?」


吉住さんがいつになくモゴモゴしている。


「なんだか聞いてた話といろいろ違うね。ねえ藤原君、祐来が何か言ってなかった?」


訝しげな面持ちで、木下さんが聞いてきた。

ゆうきって真鍋さん?


「真鍋さん?そういえば大事な話があるって言ってた。ような」

「そこ!詳しく!」


「いや、聞かずに来たから、何が何だかさっぱりなんだけど」

「えー」

「ダメじゃんー」


僕が答えると、吉住さんの周りにいた女の子たちが次々と落胆の声を上げていた。


「アホかー!」


いきなり木下さんから罵倒されてしまった。

さっきからなんなんですか、これは。


吉住さんはうつむいたまま、ずっとモゴモゴしていた。

ホントわけがわからない。ともかく雰囲気的に遠藤みたいないじめではなさそうだったので、僕は内心ちょっとホッとしていた。


「で、なぜに君らは音楽室に集合してたの?」

「ん?私が吹奏楽部だったからに決まってんじゃん」


木下さんが、さも当然のように答えた。

つまりどういうことだってばよ。


「ねえ吉住さん、祐来には私から言っとくから、今日は藤原君と一緒に帰ったほうがいいよ」


木下さんがそう言うと、吉住さんはコクンと小さくうなずいた。



「それじゃお邪魔しました」


いろいろあったけど、僕と吉住さんは一緒に音楽室をあとにした。

吉住さんは音楽室を出るとき、木下さんたちに何度も深々とお辞儀をしていた。


「あれはダメだ。無理」

「ねえ吉住さん、違うって言ってなかった?」

「はっきりしないよねー、どっちなんだろ」

「もうほっといてあげようよ。あれはなんというか不沈艦空母だね」

「なにそれー」


木下さん達の会話は僕には聞こえてなかった。


「あ、あの、あのね藤原君」


動物病院に行く道すがら、吉住さんがおもむろに口を開いた。

音楽室の一件があってから吉住さんの様子がかなりおかしい。


「なあに吉住さん」

「藤原君は……………………………」

「僕が?」


「あ、あの、その、つまり、ですね」

「?」


パンパン!


「!?」


突然吉住さんが自分の頬を両手でパンパンと叩く。


「ふーふー」


しかもやたら息が荒い。


「よ、吉住さん?」


いつもの物静かな吉住さんはどこに?


「ううん、なんでもないの、今日は待たせてごめんね」


いや、なんでもなくないでしょ。

頬がすごく赤くなってるし。

吉住さん、木下さん達と何があったんだろ。

怖くて聞けないし。


「あ、お兄ちゃん!お姉ちゃん!」 


大通りに出たところで美咲とばったり会った。


「よう美咲今帰りか?」

「うん、お姉ちゃんちに行くところ」

「み……」

「お姉ちゃん?」

「美咲ちゃーん!」


会うやいなや吉住さんが美咲に抱きついた。


「お、お姉ちゃん?どうしたの?」

「どうしよ、私どうしたらいいかな?」


吉住さんが美咲に抱きついて、今にも泣き出しそうな声を出している。

初めて見る吉住さんの姿だった。

なんだこの可愛い生き物は。



「なに?お兄ちゃんがなんかしたの?」


美咲にものすごい勢いで睨まれた。

えー、僕なんにもしてないんですけど。


「違うの、藤原君は悪くないの」


美咲は僕と吉住さんを交互に見たあと


「お兄ちゃんはあっち行って」


美咲にシッシッと追い払う仕草をされた。


「えー、今日はこのあと僕も動物病院に行こうかと」

「ダメ!お兄ちゃんはもう家に帰って!ハウス!」


ハウスて。


結局美咲の勢いに負けて僕はそのまま家に帰ることになった。


「じゃ、じゃあね吉住さん」

「…………」

「さっさと行けバカ」


美咲にバカまで言われた。


何がなんだかさっぱりわけがわからない。

なんて日だ。


家に帰って晩ごはんを作っていると


「ただいまー」


美咲が帰ってきた。


「おかえり美咲、晩ごはんもうちょっとでできるから美咲は手を洗ってうがいしておいで」

「お兄ちゃん……………」

「な、なに?」


一瞬の沈黙の後、


バンバン!


「ぅお!?」


いきなり美咲に背中をバンバンと叩かれた。


「なになに?いったい何!?」

「いやー!なんというか、流石お兄ちゃんですなー!」


だから何ですか?


「ぷーっ!わははははははははは!」


え?何笑ってんの?笑う要素あった?


「美咲は吉住さんと何の話してたのかな?なんて」

「絶対教えない」


美咲はにんまりと言い切った。


えー。

いやホント、わけがわからないんですけど。



12月17日 火曜日

遠藤が学校に来なくなって6日目。

そう、遠藤は今日も学校に来ていない。


朝のホームルームでひどく疲れた顔の担任から連絡があった。


「えー、宮城で保護されてた遠藤だが、遠藤たっての希望でしばらく休学することになった」

また少し遅れて、クラスにどよめきが起こった。


「聞くと遠藤は、ここから宮城まで歩いて行ったらしくて、そのまま北海道の宗谷岬まで徒歩の旅行をしたがっててな」


えー。


「今しかできないから学校は休学すると話をまるで聞かなくてな」


マジかー。


「遠藤を連れて警察を出たあと、親御さんと俺とで無理にでも連れ帰ろうとしたんだが、書き置きを残して逃げられてしまってな」


遠藤何やってんの!


「書き置きには、定期的に連絡は入れる。小石は必ず持って帰る。そう書いてあった。俺も見た。警察とも相談したんだが遠藤のことはしばらく様子をみることになった」


こ、小石!?


「小石がなんのことだか全くわかってなくてな、すまんがお前らも遠藤のことで何かわかったら俺にも教えてくれないか」


わからなくて当然です。

そもそも、意味なんてないし。


担任は教えてほしいと言っていたが、関わり合いになりたくなかったので、僕は全力で知らんぷりすることにした。


やっべ、どうしよう。

(1/6)物語内の曜日設定が曖昧になっていたので訂正して加筆致します。大変失礼致しました。

(10/6)改行の訂正をしました。

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