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第6話 しつけは大切なコミュニケーション

「おはよう母さん、美咲」

「お兄ちゃんおはよ」


昨日はわりと早く寝たので、今朝の目覚めはバッチリだった。


「おはよ、昨日綾人たち動物病院の子猫に会いに行ったのよね」


母さんは吉住さんちが動物病院であることは知ってたらしい。

美咲が言ったのかな。


「うん、子猫は寝てたけどね」

「そうそうそれでね母さん、お兄ちゃんさ、将来は獣医さんになるんだって」


美咲のやつ、昨日の話マジで真に受けてんのか。


「あらあら、まあまあ、そうなの?」


母さんが今まで見たことないような妙な笑みを浮かべる。なにそれ怖い。


「ま、まあ、これからだけどね」


僕は否定しなかった。なぜだろう。


「ふふ、じゃあ綾人も勉強頑張らないとね、相当難しいって話よ。あの動物病院の今の院長もかなり苦労したみたいだし」

「……………」


吉住さんのお父さんの、目が笑ってない笑顔を思い出して朝から変な気持ちになってしまった。

母さん何か知ってるのかな。


「母さんはあの動物病院の人たちと知り合いなの?」

「そう言うんじゃないんだけどね。以前あなた達が生まれる前、うちで猫を飼ってて、そのとき色々お世話になったの」


そうだったのですね。


「そのときはまだおじいちゃんの人が動物病院の院長をやってて、かなり優秀な人だったみたい。処置も上手だったし」

「ふうん」

「今の院長も、悪い話は聞かないんだけどね、でも前の院長と比べると」


え?比べると何?


「で、獣医になりたいと言ってる息子の背中を押してあげるわけですよ」

「ぅお!」


バシッと母さんに背中を叩かれた。


なんか話が繋がってるようで繋がってないし。

それに、その場限りの思いつきを押されても困るんですけど。

あと、笑って、僕の思い出の中の吉住さんのお父さん、笑って!


「できるところまで頑張ってみるよ」


それでも僕は否定しなかった。


「おー」

「ね、母さん言った通りでしょ」


美咲、お前母さんに何を言った?


12月13日 金曜日

遠藤が学校に来なくなって4日目。

その日、僕が異変に気付いたのは、

朝のホームルームが始まったときだった。


「起立、気を付け、礼、着席」

「!?」


「どうした藤原、座れ」

「…………………これは?」


担任に注意されても尚、僕は立ったままだった。


なんというか見渡す限り、僕以外のクラス全員、

男子はズボン、女子はスカートを穿いてなかった。


「えーーーーーーー!?」


声に出てた。

そりゃ出るわ。


おかげで出かける前に美咲と母さんにからかわれた出来事が全部頭からふっ飛んでしまった。


何これ何これ?みんないつ脱いだの?

ついさっきまでフツーだったよね。


「どうしたの藤原君」

「ぅお!吉住………さん………も、ですか!?」

「?」


訝しげな面持ちの吉住さんの下着は純白だった。

あらわになった太ももと可愛い下着が見え隠れしている。


見たくなくても見てしまう。

いや、決して見たくなくはない。

むしろウェルカムだった。


なんだなんだ、これはどういうことだ。


「藤原どうしたよ」


パンツ丸出しのケンヤが心配そうな顔でこっちを見ている。

お前ブリーフ派だったんだな。

いらない情報を得た。


僕の目がおかしくなったのかな?

は!もしや昨日、玉に豆乳をかけ過ぎたのが原因? 

そう思ったとき、


『違う』

「!?」


誰かの声が聞こえた。そんな気がした。


『別の子』


べっ、別の子?

頭の中に誰かの声が流れ込んでくる。


『どうするかはあなたに任せる』

「いや、こんなの急に任されても困るんですけど!」


声に出てた。

クラス中の視線が僕に集まる。


「藤原君?」


吉住さんの太ももが眩しい。

ついに耐えきれなくなって、


「先生!すみません!ちょっと僕トイレに行ってきます!」


僕は叫びながら教室を飛び出した。


おかしい!絶対おかしい!


廊下ですれ違う数少ない生徒達、

他の教室でホームルーム中の生徒達、

先生達、

なんなら中庭で掃除している用務員の人まで、


みんなみんなズボンやスカートを穿いてない。


むしろズボンを穿いてる自分がおかしく思えるほど、みんなパンツ丸出しだった。


どうしてこうなった。

僕のせいなのかな?


誰かの声は違うと言ってくれた。

任せるとも言っていた。


気持ちだけが焦ってしまう。


内心このままでもいいんじゃね?という思いが頭をもたげたが、

いやいや、吉住さんにあんな恥ずかしい格好させたらダメでしょ。

と強く自分を諌めた。


頭の中に誰かの声が響く。


『別の子はこっち』


聞こえてるんだか、そうでないんだか、

よくわからない道標に従って足を急がせた。


「体育館?」


僕が体育館の扉を開けると、


「誰だ!」


中から叫び声が聞こえた。

見ると体育館の隅っこに何人か集まっていた。


集まってるほとんどが女の子だった。

女の子たちは各々服がはだけており、

女の子たちの中には、若い女の先生の姿もあった。


そして女の子たちの中心にいたのは、

同じクラスだった山岸君。


こいつ学校で何やってんの………


山岸翔太やまぎししょうた

入学してからずっと遠藤にいびられてた山岸君。

僕の記憶では2学期のはじめくらいから不登校になってたはずだ。


「ひれ伏せ!俺は王様だぞ!」

「は?王様?」

「ひれ伏せって言ってんだろ!俺のチカラを思い知れ!」


山岸君がポケットから何かを取り出して握りしめている。

もしや。


「ひゃーははは!俺はチカラを得たんだ!選ばれた奇跡のチカラ!俺はこのチカラを使って世界を掌握するんだ!」


山岸君が持っていたのは、あのビー玉だった。

玉の色は黒だった。


「手始めにこの学校を手中に収めてやるんだ!そしてあのクソ遠藤に血の裁きを与えてやる!」


「ねえ、ひょっとして学校中パンツ丸出しにしたのって、君の仕業だったの?」

「ひれ伏せって言ってるだろ!」


山岸君は僕の質問には答えず、手に掴んだ黒い玉をこっちに向けた。


「もうやめとこうよ、こういうの良くないよ」


僕は山岸君の説得を試みてみた。


「あ、あれ?変だな、効かないぞ?そ、そうか、もう水分が切れたのか?」


そう言って山岸君は近くに置いてあったバケツの中に手を突っ込んだ。


「これならどうだ!ひざまずけ!土下座しろ!」


水に濡らした玉が透明になっていた。

それは知ってるんだ。


「山岸君?」


「お、おかしい!おかしい!絶対おかしい!何度も試したんだ!効かないはずがないんだ!」


「あの山岸君?」


「俺はこのチカラを使って神になるんだ!そう決めたんだ」


山岸君が言い放った神という言葉に、

僕はなぜか夢の記憶を思い出した。

粉々に吹き飛んだ街の姿。


「山岸君、その玉はとても危ないシロモノなんだ。やっぱりそういうのやめたほうがいいよ」


「うるさい!俺に指図するな!俺は世界の支配者になるんだ!なんで効かないんだよ!おかしいだろ!」


山岸君はまるで人の話を聞こうとしない。

困ったな。無理にでも取り上げたほうがいいのかな。


僕がそう思った矢先、


僕の制服の上着のポケットから、ぴょーんと細長いムチのようなものが飛び出した。


「!?」


飛び出たムチはしゅるしゅるとすごい速さで山岸君のほうに延びていって、

お互い声を発する間もなく玉を絡めとり、ひゅんと戻ってきたムチが、僕の手の中に玉を預けてきた。


「あ、あれ?」


「な!?か、返せ!それは俺のだ!俺のチカラだ!」


「山岸君もうやめよう。ね?」


「いやだ!返せ!返せよ!」


やっぱり山岸君はまるで人の話を聞いてくれない。

そうだ。


僕はポケットの中に入れておいた。玉を取り出した。

玉はピンク色のままだった。

うまく行けば良いけど。


「返せ!」


叫びながら飛びかかってくる山岸君を無視して、


「ねえお願いがあるんだけど、元に戻せる?」


僕が玉に向かってそう呟くと 拳銃の発射音のようなバカでかい音があたりに響き渡った。


発射音とともに山岸君がピクリとも動かなくなった。


「なになになに!ここどこ」

「なんで私こんなところに」

「やだ私こんな格好で」


そうこうしてるうちに体育館の隅に集まっていた女の子たちの声が聞こえてきた。

よかったどうやら正気に戻ったみたいだ。


「ねえ!あなたたち!」


女の子の集団の中から先生の声が聞こえた。

僕らを呼んでる?

悪いけど、この状況で絶対関わり合いになりたくなかった。

やっべ、逃げよう。


僕は反射的に放心状態の山岸君の首根っこをつかんで体育館から無理やり引きずり出した。


「あなたたち待ちなさい!」


いやです、絶対に待ちません!


体育館から逃げ出した僕は、物陰に隠れると、

ピンク色の玉を山岸君の前にかざした。


「いいね山岸君、君は玉のことは一切合切忘れるんだ」


「玉……………忘れる……………」


「そして、……そうだ!これから山岸君は数学が好きで好きでたまらなくなるんだ」


「数学……………大好き……………」


「朝も昼も夜も、数学がないと生きていけなくなるくらい大好きになるんだ」


「朝も昼も夜も…………」


「だから今日はもうお家に帰ろう。そしてもう二度と人に迷惑をかけたらダメだよ」


「人に迷惑を………かけない…………」


玉が一瞬、ブンと音を立ててピンク色に輝くと、

山岸君はノロノロと動き出した。


山岸君、もう人に迷惑をかけないといいけど。

神とか言っちゃってたもんな。漫画の見過ぎだよ山岸君。


数学、好きになってくれるといいな。


ちなみに僕は数学があんまり好きじゃなかった。


校舎に戻ったとき、学校中から悲鳴が聞こえた。


「あ…………」


よかったみんな正気に戻ったみたいだ。

よかった。のかな?


どうしよう。教室に戻ったほうがいいのかな。

やだなあ戻りたくないなぁ、怖いなあぁ。

そうだ。今日はもう早退しよう。

カバンは教室に置きっぱなしだけどたまにはいいよね。


願わくばこれ以上厄介事に巻き込まれませんように。

(1/6)物語内の曜日設定が曖昧になっていたので訂正して加筆致します。大変失礼致しました。

(8/7)行間を訂正

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