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第5話 ご飯は適量が大事

12月12日 木曜日

遠藤が学校に来なくなって3日が過ぎた。

特に何事もなく学校生活は平和過ぎるくらい平和だった。


遠藤、今どこで何してるんだろう。

気にはなったが、これ以上関わり合いになりたくなかったので、誰に何を聞かれても、わからないで通すことにした。


だってホントにわけがわからないし、

玉のことをうまく説明する自信もない。


北海道の宗谷岬。………まさか、いやひょっとして。


ともかく遠藤の無事を祈ることしかできないし。

アレはもうしょうがないよね、うん。

あと、どうかもう面倒な人に絡まれませんように。


ホームルームが終わって今日の学校も終わり。


「美咲ちゃん、今日もうちに来るんだって。今ね連絡があったの」

「ほぼ毎日だよね。ホントごめん」

「いいの、楽しいし。おばあちゃんもね、孫が増えたみたいだって」


吉住さんは以前より、よく笑うようになっていた。


「それにね、美咲ちゃん、私のことお姉ちゃんって呼んでくれるの。私一人っ子だし、その、すごく嬉しくて」

「あの、なんというか、本当に、いろいろごめんなさい」


あいつコミュ力無駄にたけーな。羨まし過ぎる。


「それで藤原君、その、藤原君も今日うちに来るんだっけ」

「うん、僕も子猫のこと気になるし、お邪魔じゃなければ」

「ううん、そんなことないし」


僕は吉住さんと一緒に教室を出た。


「藤原お前いつの間に……」


ケンヤが寂しそうな顔でこっちを見ていたが言い訳もめんどくさいので見なかったことにした。



吉住さんのうちには「吉住動物病院」という看板がつけてあった。


そうだったのですね。今、知りました。

僕は知らないことが多過ぎる。

僕たちは正面の玄関から入った。


「ただいま」

「やあおかえり香穂」


優しそうなエプロン姿のおっさんが奥から出てきた。

この動物病院のお医者さんだろうか。


「あの、はじめまして藤原といいます。このたびは子猫を引き取っていただいてありがとございました。お礼が遅くなってすみません。これはつまらないものですが」


僕はあらかじめ用意しておいたセリフを口にして、ここに来る途中で買ったお菓子の折り詰めを差し出した。


「いらっしゃい、君が美咲ちゃんのお兄さん?」


優しそうだったおっさんの顔が急に険しくなった。なんで?


「お兄ちゃん来たんだ」


おっさんの後ろからひょいと美咲が顔を出した。


「あっ、美咲ちゃんいらっしゃい」

「うん、来たよ!お姉ちゃんも、お帰りなさい」


美咲がブンブンと手を振っている。

あのヤロウ、聞いてた以上に馴染んでやがる。僕はお前がここに入り浸ってると言うからお菓子の折り詰めまで用意したというのに。


「お父さん、たまは?」


正体が分かった。おっさんは吉住さんのお父さんだった。おっさんだなんて思ってごめんなさい。


「大丈夫容態は安定してるよ、今は寝てるから見るだけにしとこうね」

「了解であります」


そう言うと吉住さんは、お菓子の折り詰めを持ってる僕の手を取って、


「こっちに来て藤原君」


今までで一番楽しそうな笑顔で僕の手を引いた。


吉住さんのお父さんが、より一層険しい顔になった。だから何で?


それにしても吉住さん、了解であります なんて言うんだ。



3 

子猫は保育器の中で眠っていた。

改めて実感する。こんなに小さかったんだ。

でも、ほんの少し大きくなってるかも。


ひいふうみい……

数えてみると、この子猫を保護して、

今日でちょうど8日目だったと思う。


「この子ね、こっちに来た日、ほんのちょっぴりだったけど胎盤の一部が体にくっついたままだったの」

「え?そうだったの」

ちゃんと拭いたつもりだったのに、どこにくっついてたんだろ。


「多分だけど、この子が生まれたのって、この子がうちに来た前の日だと思う」

「前の日……」


あの日生まれたのか、お前。


子猫がビクビクっと動く。

猫も夢をみるのだろうか。


夢………、夢か。


「おや香穂帰ってたのかい」

「おばあちゃん、ただいま」

「おばあちゃんおっすー」


写真で見たおばあちゃんが勝手口から入ってきた。

美咲、あいさつはそれでいいのか?


「なんだい今日は千客万来だね」

「すみませんお邪魔してます」

「あらあらまあまあ、若い男の子だよ」

おばあちゃんが僕を見て、ものすごいニコニコしている。

「えーと」

「いやー、そうかいそうかい、こりゃめでたい、おじいさん!おじいさんもちょっと来て!」

「もー!おばあちゃん!藤原君ごめんね」

「…………………………」

「藤原君?」



『たまとおばあちゃんが崩れたうちの下敷きに……』

「……はっ!!!???」



「どしたのお兄ちゃん?」

「いや、なんでもないよ」


ほんの一瞬、あの夢の出来事が思い出された。

そして今僕が体験していることは、ホントは全部夢なんじゃないかって、

説明できない不安を感じてしまった。



時計を見ると午後5時を過ぎていた。

外はもう真っ暗だ。


「すみません遅くなりました。僕たちはそろそろおいとまします、ほら美咲も」

「えー」

「ごめんね藤原君、お父さんがお仕事手伝わせちゃって」

「大丈夫気にしないで」


溢れ出そうになった不安をかき消すには都合が良かったので

僕は吉住さんのお父さんの手伝いを買って出た。

動物病院を出るとき、


「あら」


美人のお姉さんと玄関で鉢合わせになった。


「あっ、お母さんおかえりなさい」


どうやら吉住さんのお母さんだったようだ。

美人さんでなによりです。


「ただいま香穂、こちらの方は?」

「藤原綾人君、香穂のクラスメートで、たまの元の飼い主さんだよ」


吉住さんのお父さんが僕に代わって自己紹介をしてくれた。


吉住さんのお父さん、顔は笑ってるけど目が全然笑ってないんですけど。


「そっか、あなたがあの子の命をつなぎとめてくれたのね、はじめまして香穂の母です」


僕そこまでのことやったかな?

言ってることが物騒で少し怖い。


「いろいろ手伝ってくれてね。なかなか筋がいいよ、綾人君」


だから吉住さんのお父さん目が全く笑ってないんですけど。


「じゃあ僕たちはこれで」

「またいらっしゃい」


僕と美咲は動物病院を後にした。


振り返ると、玄関先で吉住さんが手を小さく振ってバイバイしているのが見えたので、僕も手を振った。


なんだかよくわからないけど、ものすごく疲れた。


家に帰る途中、美咲がいきなり背中に飛びついてきた。危うくひっくり返りそうになった。


「危ないだろ」

「子猫見たよね」

「ああ元気そうでよかったよ」

「ねえお兄ちゃん」

「なに?」

「お兄ちゃんは獣医さんになるの?」


美咲がどうしてこんなことを聞いてきたのかイマイチ意図が掴めなかった。


獣医になるのは相当難しいって聞いたことはある。

僕の学力でなれるかどうかは置いといて、


「そうだな。それも悪くないかもな」


僕はそう答えていた。


「おー」

「なんだよ」

「そーなんだ!そーなんだ!」

「だから何なんだよ」


美咲はこれ以上ないくらい楽しそうだった。



よーし、それじゃあいっちょ、試してみるか。


家に帰って美咲と2人で晩ごはんを食べたあと、僕は自分の部屋に戻った。

母さんは今日は帰るのが遅くなるって言ってたし、

美咲は見たいテレビがあるからリビングに残った。


やるなら今だ。


いつかやろうと思ってはいたが、なかなか踏ん切りがつかなかった。

でも今日、吉住さんの家に行って決心がついた。


夢にビビるのはもう勘弁。


僕は部屋のカーテンが閉まっていることを確認したあと、ポケットから取り出した味海苔の外蓋と豆乳パックを机に置いた。


ホントはシャーレとかがあったら良かったんだけど、他にいい代用品が見つからず、

結局中身のなくなった味海苔の入れ物の外蓋だけを持ってきた。

まあ使えればなんだっていいさ。


僕は味海苔の外蓋をひっくり返して机に置いて、その中にあのビー玉を置いた。


「食事の時間だよ」


なんとなくそう言いながら、僕はビー玉に豆乳をかけた。

端からみたら絶対変な人だよな。


ビー玉に豆乳をかけるとか、あきらかに頭が可哀想な人の所業だし…………


どうか爆発しないでくれよ。


僕の心配を余所に、玉はゆっくりと虹色の光を発し始めた。


よーし、よしよしよし。

今度はちゃんと見届けてやるぞ。


眩しかった光は次第に安定して、やがて指向性をもった光の筒になり、天井の一角をまるで万華鏡のように明るく照らす感じになっていた。


それから1分くらいは経っただろうか、虹色の光がだんだん弱くなってきているのがわかった。

味海苔の蓋を見ると、入れたはずの豆乳がすっかりなくなっていた。


「吸ってる?」


マジか。

冗談半分で食事とか言ったけど、

まさかホントに食事だった?


もう一回玉に豆乳をかけてみた。


すると発している光が再び強くなり、今度は指向性を持った万華鏡の光が、天井に8の字を描くように、うにょうにょ動いていた。


これは……………



豆乳パックが3つほどカラになった頃、

玉が今まで見たことのない色になった。


ピンク色………だと!?


玉はもう光ってなかったが、玉の色がピンク色で固定されてしまった感じだった。

この変化は予想外だった。


「なんか、ごめん」


なんとなく謝ってみた。

玉は何も答えない。そりゃそうだ。


最初見つけたときは虹色で、

拾い上げたら黒色で、

水に浸すと透明になり、

叩くと大爆発。…………ただしこれは夢かも。

豆乳をかけると色々おかしな現象が発生して、

豆乳やり過ぎたらついにピンク色になりました。


まとめてみてもわけわからん。


続きは明日にしよう。

今日はもう疲れたので寝ることにした。


明日はいいことがありますように。

(1/6)物語内の曜日設定が曖昧になっていたので訂正して加筆致します。大変失礼致しました。

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