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第3話 豆乳は無調整のものに限る

12月6日 金曜日

夜が明けて昨晩の被害の全貌が分かってきた。


『こちら爆発事故現場上空です!見渡す限りぐるっと放射状に数多くの住宅が崩れているのが見えます!あちこちで黒煙が上がっています!炎も見えます!』


「え?え?なにこれ?近所?」

「なんじゃこりゃ」


地元がへリコプターからの映像でテレビのニュースになるのはすごい奇妙な気分だった。

美咲も母さんもテレビのニュースに釘付けになってた。


「うわうわ!見てあの家、すぐそこじゃん、うっそ!屋根が全部なくなってる!?」

「マジか」


思った以上にひどいことになっていた。

まるで現実味がない。いったい何人犠牲者が出たのか見当もつかない。


僕はなんとなくポケットの中を確かめると玉の感触があった。


……これじゃない。これのせいじゃない。はず。


さっきトイレに行ったとき、あのYoutuberがやってたことをそれとなく真似てみた。

玉を水道の水に浸したら、黒かった玉が見る間に無色透明に変化した。間違いなかった。


玉を透明にする方法が分かったからなんだというのか。


そ、そうだ!リチウムイオン電池だって衝撃を加えると火を吹くらしいし、衝撃には気を付けようってことかな。は、ははは。


笑う気は全くないのに、乾いた笑いが勝手に出てきて止まらない。


僕のせいなのか

僕に何かできたのか

僕に止められたのか


できるわけがない。

厨二病か!

たまたま似たような玉を僕が持っていただけだ。

思い上がるにもほどがある。


『あれは学校でしょうか、バラバラになってます』


ええ!?あれうちの高校じゃん。

テレビには粉々に砕け散った校舎が映っていた。


『ご覧頂いているのが、昨晩ガス爆発があった現場の映像です。広範囲に渡って火災が発生しており、懸命な救助活動が行われています……』


このとき僕は、今日は学校はお休みなのかな? とか、うちは停電や断水になってなくて良かった。とか、そんなことを考えていたような気がする。



僕は喉が渇いたので、台所に行って冷蔵庫を開けた。豆乳以外飲めそうなものがなかったのでそれを選ぶ。

そろそろ食材のストックが少ない。買い物に行かなきゃ。


あ、でもいつも行ってるスーパーもバラバラに吹っ飛んだったんだっけ。

なんかもう目茶苦茶。

まるで現実味がない。


コップに豆乳を注ぐ手がブルブルと震える。

そのときスマホに着信があった。


びっくりして豆乳を落としてしまい、床が豆乳まみれになってしまった。最悪だ。


家のすぐ外が紛争地帯みたいになってるのに床が豆乳まみれになったくらいで最悪?

もう何がなんだかわからない。


着信は吉住さんからだった。

こんな状況でもケータイって繋がるのな。たいしたもんだ。


「もしもし」

「あ、藤原君………」

「どうしたの?」


「たまとおばあちゃんが……」

「吉住さん?」

「たまとおばあちゃんが崩れたうちの下敷きに……」

「え?」

「どうしよ、どうしたらいいかな」


そんなの警察か消防にする話じゃ……。

頭がぐるぐるする。

なんだよ、なんでそんな話、僕にするんだよ。


コン


何の音かと思ったらポケットから玉が床に落ちた音だった。

あれ?たしか衝撃ってマズいんじゃなかったっけ。


玉はこぼれた豆乳の中に落ちていた。


そのとき僕が見ている世界が虹色に包まれた。



はっとして目を覚ますとあたりは真っ暗になっていた。

何がなんだかわからない。


でも豆乳まみれの床に落ちた玉が虹色に光ったのはちゃんと覚えている。


何だ、何が起こった?

胸がざわざわする。


夢?夢だってか。どこまでが夢?


スマホの時計を確認すると


12月5日(木) 午後10時 だった。


これは……………

僕は部屋を飛び出した。


「あ、お兄ちゃんおそよ……」

「美咲!」

「なによ」

「ちょっとスマホ貸して!」

「いやよ」

「いいから貸して!」

「いやだってば!どうしたの?」


美咲はYouTube画面をみていた。

見ていたタイトルは


『光る玉を発見!これより実験LIVE実況します!』


「コメント!」

「コメント?」

「コメントして!早く!」

「自分のでやればいいじゃん」

「時間がないんだよ」


「なんて書くの?」

「爆発するから絶対に叩くな」

「……………え!?」

「頼んだからね!」


それだけ言うと僕は家を飛び出した。

テレビの映像から爆発の中心地は分かっていた。


何ができるかわからないけど、じっとしてなんていられない。

人から叩くなと言われて叩かない人ってどのくらいいるんだろ。


鈍感な僕にもわかる。何か超常なことが起こってる。でもそんなの知るか!

考えてる時間はない。そんな気がしてならない。


急げ。あとどのくらい時間があるのかわからないけど急げ。



ついたここだ!

僕の記憶が正しければ爆発の中心はこの家のはず!

感覚的なことだけど、爆発した時刻は過ぎてる気がした。

美咲がコメントしてくれたのかな。


さてどうする?

考えるより先に体が動いていた。


僕は窓に向かってさっき拾った工事用ブロックを思い切り投げ込んだ。

ガシャンと音がして家の中から悲鳴が聞こえた。

僕は物陰に隠れた。


胸がドキドキする。

当たってたら謝ります!ごめんなさい!


割れた窓からYouTube画面で見た奴の顔が見えた。

よかった、まだ生きてる。


「誰だ!危ないだろ!」


僕もそう思う。ホントにごめんなさい。


そのとき割れた窓からポーンと何か小さいものが飛び出してきた。

Youtuberは気付いてないようだった。


ソレは道路まで飛んでいってコロコロ転がっている。

多分あの玉だ。


いろいろ疑問が溢れたが、僕はなにも考えないように徹する。


僕は誰にも見つからないように注意しながら玉を拾ってその場を離れた。

どうか見つかりませんように。


「は、ははは!」


夢だ。これは夢だ。……でもどこからが夢?

意思に関係なく僕の顔が勝手に笑っている。


「はははははははは!」


もう完全に異常者だった。なんで僕は笑ってるんだろ。



「綾人こんな時間にどこ行ってたの?」


お風呂から戻ってきていた母さんに怒られた。


「ごめん母さん、コンビニにジュース買いに行ってた」


これは本当。冷蔵庫に豆乳しかないのは知ってたし。


僕はジュースを幾つか入れたコンビニ袋を母さんに手渡したあと、なんとなく部屋の時計をみた。午後11時になろうとしていた。


「お兄ちゃん、さっきは何だったの?」


美咲が訝しげな面持ちでこっちを見ている。


「ああ、さっきは悪かったね。YouTubeはあれからどうなったの?」

「それがさ傑作なの!」

「ほう」


「私がね、爆発するから叩くなってコメントしたら、コメントが荒れに荒れてね」

「ほう」

「叩け早く叩け!いや叩くな!って荒れまくって、そしたら窓の外からブロックが投げ込まれてきて」

「マジか」


あれ実況されてたのか。


「気がついたら玉無くなってたし」

「はははは」


まあその玉はここにあるんですけどね。


「叩くのはなんか可哀想だったし、結果オーライって感じ?」

「結果オーライか、そうかもな。あ、そうそう吉住さんから、子猫ありがとうってLINEで連絡が来てたよ」

「見せて見せて」


「美咲は人のスマホはすぐ触るくせに自分のは触らせないよね」

「あたりまえじゃん」



こっちがさっき拾ってきた玉で、こっちが僕が持ってた玉か。

部屋に戻った僕は、机の上に玉を並べて置いてみた。

大きさはほぼ同じくらいで、どうみてもフツーのビー玉だった。


きっと明日にはどっちがどっちだったか分からなくなるに違いない。

そんなふうに思ってたら、


ギギギと音がして玉がくっつき始めた。


「んん!?」


くっつくというよりは、さっき拾ってきた玉が、僕が持っていた玉を飲み込もうとしてるように見えた。


「……これは?」


完全に一体化するのにものの数秒もかからなかった。

昔パックンチョってお菓子があったらしいがだいたいそんな感じ。どんな感じだ?


ブン


玉は一瞬一回り大きくなったような気がしたが、そんなことはなくすぐに元の大きさに戻った。


「どういうことですか」


共食いという言葉が思い浮かんだが、何がなんだかさっぱりわからない。


玉はそれきりうんともすんとも言わない。

何事もなかったかのようにそこにある。

スマホで録画しとけばよかったと思ったり思わなかったり。


それにしても疲れた。

ホントに何がなんだかさっぱりわからない。


『どうしよ、どうしたらいいかな』


天井をみていたら、吉住さんの言葉が思い出された。


「すみません、わかりません」


僕は誰に言うでもなく呟いた。



7 

12月6日 金曜日


「あ、お兄ちゃんおはよ」


朝起きて台所に行くと美咲が朝ごはんを食べていた。


「おはよ母さんは?」

「今日は朝早いんだって」

「そっか、そうだったのか」

「?」


テレビはガス爆発のニュースはやってなかった。

不思議な気持ちになる。

あれは本当に夢だったのか。それとも。

確かめる方法はない。


いや1つある。

豆乳だ。


玉に豆乳を与えるときっと何かが起こる。

そんな気がした。


でももう一回工事用のブロックを投げ込みに行くのも嫌だったので、試す勇気は僕にはなかった。


あれは全部夢だった。

僕はそう思うことにした。


(1/6)物語内の曜日設定が曖昧になっていたので訂正して加筆致します。大変失礼致しました。

(1/15)改行を訂正しました。

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