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第2話 里親募集中

12月5日 木曜日

寒い。12月に入ってから急に寒くなってきた気がする。ついこの間まで半そでで扇風機に当たって暑い言いながらアイス食ってたと思ったのに。

今年も秋はなかった。


「おいっす藤原」


朝、僕が教室の自分の席に着くと、隣の席のケンヤが話しかけてきた。僕より寒そうに顔をしかめている。


「ケンヤおはよ」


ケンヤとは高校に入ってからの付き合いで、ほどほど仲は良い。


「そういえばケンヤってさ、猫好き?」

「……なんだって?」


開口一番朝イチで話を切り出してみた。


「猫は好きか?」

「……何の話?」

「それが昨日子猫を保護して、里親を募集中なのですよ」

「………」


「どうかな?」

「どうって言われてもな」

「無理か?」

「すまん無理だ。うち犬派だし」


まさかの犬派宣言!いきなりアテが外れてしまった。


「いやこっちもゴメン」


どうしよう、ケンヤ以外の頼む相手を考えてなかった。


「どんな猫?」

「それが生まれたてほやほやのやつで、捨て猫っていうよりは、多分だけど野良猫の育児放棄ぽいんだよね」

「マジかー」


「里親見つからなかったら保健所行きだし。正直困ってマス……」

「いつまで?」

「今日中」

「ダメじゃん」

「ですよねー」


実は昨日の晩、あの子猫のお世話で一晩中起きてたので、テンションがおかしくなってる自覚はあった。


フツー子猫は複数で身を寄せ合って暖を取るものだけど1匹だと話は別で、油断すると室内でもあっさり凍死するそうな。

全くもって面倒くさい話である。

母さんまかせてって言っておきながら美咲と一緒にソファーで寝てるし。

僕は頑張りました。頑張ったんですよ!


お腹の袋に子供を入れた親カンガルーの気分を一晩中実体験したおかげで、僕の思考能力はだいぶおかしくなっていた。



対子猫用カンガルーの陣。

なんてことはない、子猫をお腹の上に乗せて毛布被ってただけだし。

やり過ぎかもと思ったけど死なれるよりはマシだったので定期的にミルクあげながら寝ずの番。

その甲斐あってか子猫を死なせずに無事朝を迎えることができやがりました。


ちなみに子猫のうんこやおしっこのことは語りたくないので割愛することにする。


そっかケンヤは犬派か。

ていうか断る理由が犬派って何?

……あの子猫どうしよう。


「クラスのLINEで募集するか?」


ケンヤが言ってるのはクラスの連絡用LINEグループのことだ。


「アレあんまり使いたくないんだよな、面倒くさい奴いるし」


ケンヤみたいな気のいい奴ばかりじゃないし、正直あのLINEグループはろくな思い出がない。

アレって言ってもこのクラスのことだけど。

全くもって世知辛い世の中である。


「じゃあSNSで広く募集するか?」

「母さんがそれやるなって。あとが怖いんだと」

「縛りプレイ過ぎるだろ」

「ですよねー」


「……藤原君?」


僕とケンヤの話を遮ってあまり聞いたことがない声が聞こえた。

気がつくと前の席の女の子がうつむきながらこっちを向いていた。


「吉住さん?」


吉住香穂よしずみかほさん。悲しいかな前の席のこの子とは、今までほとんど会話したことはない。

その子が僕を呼んでいた。


「……子猫?」


僕とケンヤの話を聞いていたのか吉住さんが言葉少なめに聞いてきた。

彼女とは多分初めてまともな会話になったと思う。



「ごめん吉住さん、うるさかったよね」

「ううん、いいの。それでどんな子なの?その、子猫」

「ああ、ちょっと待って。こんな子ですよ」


僕はスマホを取り出すと、美咲と一緒に撮った子猫の写真を吉住さんに見せた。


吉住さんが眼鏡をかけて僕のスマホを覗き込む。

吉住さん、眼鏡かける人だったのな。それすら知らない。


「スマホのことはセンセには内緒な」

「こ……これ……」

「へー、どんなの?俺にも見せて」


ケンヤもスマホを覗きにきた。


「……………」

「おー見事に手の平サイズですな」

「うむ」

「………………たま…」

「白いいなり寿司って感じだなって、……たま?」


吉住さんが肩を震わせながらスマホから目を離さない。


子猫の身体が真っ白だったのを知ったのは日を跨いだあとだった。子猫の身体を拭いてあげたら真っ白になったのでかなりビビッたのを覚えている。


「これが保健所送りになるのはあまりにもやりきれないんだよな」

「保健所!?」


吉住さんが真っ青な顔になって泣きそうになっていた。


「吉住さん?」

「うちで」

「?」

「たま、うちで引き取ってもいいですか?」

「え?」


あの子猫の名前がいつからたまになったのかを思い出したら、多分このときだったはず。

あと唐突に里親が決まってしまった。



放課後、

地獄のようなテスト返しがようやく終わり僕は帰り支度を始めた。

帰宅部はこういうとき気楽でいい。


「藤原君、校門のところ、待ってるから」


吉住さんは席から立ち上がると、こちらを見ずにぼそっと呟いてさっさと行ってしまった。


今日一日それとなく吉住さんを観察する機会を得た。するとどうやらクラスにはあんまり打ち解けてない人みたいだった。

まあ僕自身もこのクラスには関わり合いになりたくない人がいるので、人のことは言えないのだけど。


とりあえず遠藤恭弥えんどうきょうや

いわゆるクラスのカーストってグループのリーダー格。

こいつは特に要注意。


「ケンヤー!みんなでボーリングに行くんだけどお前も行かないか?」

「悪い遠藤!このあとサッカー部のミーティングだわ」


「そんなわけだから俺先に行くわ、じゃあな藤原ー」

「おいっすー」


遠藤はお金が足りなくなると気の弱そうな奴から金をせびるから、絶対関わり合いになりたくなかったし、何度もそれを見てきた。

幸か不幸か、僕はあいつのターゲットになったことはない。なりたくもない。

名前に藤があるのが実に嘆かわしい。


僕も遠藤に捕まらないようにさっさと教室をあとにした。



「あ、吉住さん、居た居た」


校門のところまで行くと吉住さんが隠れるように立っていた。

吉住さんはショートヘアがよく似合う小柄な人だった。さっきは眼鏡をかけていたけど今はかけていないようだった。


「行こ?」


「それで里親のことなんだけどさ、ホントに良かったの?」

「大丈夫」


女子と下校するなんて、生まれて初めての出来事だったが、残念なことに徹夜明けの疲労がとっくにピークを越えていたので、このとき吉住さんとどんな会話をしたのかほとんど覚えてなかった。


彼女が僕のスマホの写真を見ながら、たまたま言ってたのはなんとなく覚えている。

どうやら昔飼っていた猫の名前らしい。説明を聞いたはずだがさっぱり覚えていない。


「こ、こんにちはー」

「わー、お兄ちゃんが女の子連れてきたー!大雪が降るぞー!」

「…美咲、帰ってたのか」

「いらっしゃい、あなたが吉住さん?」


吉住さんが里親になってくれることはあらかじめ母さんには伝えてあった。


「この子ですか?」


母さんは子猫をペット用の籠の中に入れてくれていた。

あんな籠いつ用意したのだろう?


「ホントにごめんね、よかったのかしら」

「はい、うちはおじいちゃんもおばあちゃんもいるし大丈夫です」

「あの!子猫に会いに行っても良いですか?」

「はい。いつでも来てください。うわー、たまだたまだー」

「たま?」


ここらへんから僕の記憶がない。

眠くて仕方なかった。

次に目が覚めた時、僕は自分の部屋のベッドで横になっていた。



僕が目を覚ますと部屋の中は真っ暗だった。

スマホをみると午後10時。

何時間か眠ってしまっていたらしい。

LINEの通知がチカチカしていた。吉住さんからだった。


どうやら吉住さんの家族は子猫を受け入れてくれたらしい。

なかでもおばあちゃんらしき人が僕なんかより丁寧な対応をしている様が写真に写っていた。

ありがたい話だった。


美咲や母さんにも吉住さんの写真を見てもらおうと部屋を出る時、部屋着のポケットの中に丸いものがあることに気付いた。

掴んで出してみると黒いビー玉だった。


あれ?これ学生服のポケットに入れたままになってたと思ったけど、いつこっちに入れたっけ?

全く覚えてない。まあいいか。


リビングに行くと美咲が1人ソファに寝そべって自分のスマホをぼーっと見ていた。

母さんはお風呂に入っているようだった。


「美咲、吉住さんからLINEで連絡があって子猫ありがとうだって」

「あ、お兄ちゃんおそよう。見せて見せて」


僕は美咲に吉住さんの写真を見せた。


「まさかお兄ちゃんが彼女連れてくるとは、スミにおけませんねー」

「残念ながら彼女じゃないんですけどね」

「またまたー」


「美咲は何してたの?ゲーム?」

「うんにゃ、これこれ」

「YouTube?」


美咲のスマホを見ると画面には


『光る玉を発見!これより実験LIVE実況します!』


とタイトルが描いてあった。


「え?」


「なんかね、この人光る玉を見つけたらしいんだけどね」

「ほ、ほう」

「それがね、見てる人みんなガセじゃないかって」

「……………」


どこかで聞いたことがあるようなないような。


「でもね、ほら見てみて」


画面を見ると、水で満たしたコップに黒い玉を入れると、すーっと無色透明になる様が映っていた。


「おー、そういうことかー」

「そういうこと?……でも不思議だよねー、ヤラせだとしてもどういう仕組みになってんのかな」

「そ、そだねー」


なんとなくポケットの中の玉を握ってみた。うん、あるよね。


「でね……あ、またやってる。そうそうこれこれ」


画面には玉を金づちで殴る様が映っていた。


「は!?」


『さあ!ご覧ください!』


ガキンと音がして、玉が一瞬虹色に光っていた。

何やってんだこの人。


『不思議ですよね!凄いですね!世紀の大発見ですね!』


YouTuberが得意げに解説を加える。

画面を見ると、もっとやれ!とか ガセだろ!的なコメントで溢れていた。


そして、そのときそれは起こった。


Youtuberがもう一回金づちで玉を叩いた瞬間スマホの画面がブツっと音がして真っ黒になったと思ったら、家の外からドカンとバカでかい音と振動があった。

近くか遠くかもわからない。


お風呂から戻ってきた母さんもびっくりしていた。

窓の外を見ると、すごく大きい黒い煙ぽいものが見えた。

あのYoutuber、ご近所の人だったのかな?

(1/6)物語内の曜日設定が曖昧になっていたので訂正して加筆致します。大変失礼致しました。

(1/15)改行を訂正しました。

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