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第17話 α固体の真実 その3


12月22日 日曜日 午後4時


僕はキッチンに立って晩御飯の仕込みをしていた。

昼間のアレ何だったんだろう。

めっちゃ気になる。


ファミレスで苺のタルト食べてたおっさん達が持ってた小瓶の中身って、多分玉だよな。玉が助けてって。どういう状況?


あの声が聞こえてたのって僕だけぽかったし、どうするのが良かったんだろう。

考えても答えは浮かんでこない。


それに遠藤も電話繋がらないし。

ホントにもうにっちもさっちもだった。


これじゃ何のために戻ったのか分からない。

それにこれは時間遡行じゃないって玉は言ってたし。


「最適解じゃないのかよ」


玉は何も答えない。


僕はそんなことばかり考えながら晩御飯の仕込みをしていた。

色々あって前回の日曜日の晩御飯に何を作ったか思い出せなくなっていたのでハンバーグを作ることにした。


練り上げたネタを空気抜きしてハンバーグの形に整えて、焼く直前まで冷蔵庫に入れておくことにした。

仕込みが終わったあと、美咲に今日の晩御飯はハンバーグだよとLINEを送った。


手を洗っていると美咲から返信があった。

返信には吉住さんも僕のハンバーグを食べてみたいと書いてあったので、特に何も考えず、たくさん作ったから連れておいでと返信した。


返信してから気がついた。

あれ?こんなこと前回あったっけ。




午後5時過ぎ、玄関のチャイムが鳴った。

誰だろうと思って玄関を開けてみると、玄関先に母さんと美咲と吉住さんが立っていた。


「え?」


3人は物言わず立ち尽くしている。

何でチャイムなんか鳴らしたんだ?

見ると3人の表情に生気がまるで感じられない。

なんだこりゃ?


「こんばんは」


3人の後ろから白衣のおっさんが現れた。

このおっさんには見覚えがあった。たしかファミレスで苺のタルトを食べていた白衣のおっさんだ。


おっさんは左手にごついアタッシュケースを持っていて、右手にはあの小瓶を持っており、アタッシュケースから伸びたコードらしきものが小瓶と繋がっていた。


小瓶は何かの液体が満たされており、ガラスのカケラのようなものが沈んでいるのが見えた。小瓶自体が薄っすらと虹色に輝いているようだった。


「……これは?」

「素晴らしい!これです!今までで一番の反応ですよ!」


何がなんだか分からない。


「……なにか御用ですか?」

「あなた!」

「はい?」

「そう!ファミレスで見かけたあなた!あなたの近くでα固体が一番の反応を見せている!」

「は?」


「いやあ特定するのに時間がかかりました!α固体のフェイズ2以上の反応を僕が見過ごすはずないでしょ!あのファミレスから出たあと反応が鈍くなったのです!あのときファミレスにいた誰かに反応していたのです!探しました!」

「???」


何言ってるんだこのおっさん。




「それがあなただったのです!見なさい!あなたの近くにいると、微電流の供給で催眠現象の発現に成功している!」

「催眠現象!?」


『………ギギギギ』


「!?これは………」 


え?今のギギギって何?

それに催眠現象って?まさか!


母さんと美咲と吉住さんはその場に立ち尽くしたままだった。


これって………。


「青柳一佐、α線が大量に放出されています。周囲を立ち入り禁止にしてください」


はっとして見渡すとそこら中の暗がりに軍隊みたいな格好の人がたくさんいて映画や漫画やアニメでしか見たことないような物騒な銃器を構えていた。


「α線……放出……立ち入り禁止………」


青柳一佐と呼ばれた人が虚ろな表情でキープアウトの垂れ幕を家の前に張り始めた。


「あなたには本部まで同行してもらいます!」

「え?」

「来てもらいますよ!今すぐ!あなたの近くでこれほどまでの反応が見られたのです!この原理を解明できれば軍事運用の計画も夢ではありません!まあそんなことは抜きにして僕はこの原理を知りたい!」


『ギギギギ……』


またギギギって……


「あの、もうすぐ晩御飯なんでこれから出かけるの嫌なんですけど」

「は!はははは!あなたには催眠現象は効かないのですね!」


やっぱりだ。母さんや美咲や吉住さんがおかしくなってるのって、このおっさんのせいか。


「それに近所迷惑なんで帰ってもらいたいんですけど」

「素晴らしい!それでこそです!こんなにワクワクしたことはありません!」


どうしてこう僕の周りには人の言うことを聞かない人が多いんだろう。


「それでは、これでどうでしょう!」


白衣のおっさんが自分の足元にアタッシュケースを置いて、小瓶とアタッシュケースを繋いでるコードの間に据え付けてある丸いゲージをぐいっと回すと、


『ギギギギギギィイイイイイイイイ!』


悲鳴?きしんだ金属音のような音が辺りに響き渡った。


ブン!


と音がして母さんと美咲と吉住さんが着ている服が一瞬で消し飛んだ!

3人は玄関先で素っ裸になっていた。




「素晴らしい!非常に素晴らしい!君は今α個体を所持していますね?α個体は所有者を保護するというレポートはこれで実証できたわけです!はははは!」


……これは!

見たくなくても見てしまう!

ごめん母さん!

美咲見ない間にこんなに大きくなって!

吉住さん着痩せするタイプだったんだ!

いや!そうじゃなくて!


はっとして辺りを見回すと、周りの暗がりにいた軍隊みたいな人たちの服も全て消し飛んでいた。青柳と呼ばれた人もすっぽんぽんだった。


おっさんの全裸はノーサンキューだった。


この場で服を着ているのは僕と白衣のおっさんだけだった。


「青柳一佐!この人を確保してください!」

「……かくほ……確保……」


青柳と呼ばれた全裸のごついおっさんがフラフラとこちらに向かって歩いてきたので、僕は反射的にポケットから玉を取り出した。

取り出したピンク色の玉は虹色に輝いていた。


「君!それは!………その輝きは!」


「ねえ、この人たちにはもう帰ってもらいたいんだけど、お願いできるかな」


「君、そ、それは!」


僕の持っている玉からしゅるしゅると細長いムチみたいなものが伸びて、白衣のおっさんが持っている小瓶から伸びているコードをスパンと断ち切った。

白衣のおっさんが持っている小瓶から輝きが消えた。


全裸のごついおっさんが歩みを止めた。


「な!?なんだそれは!待ってくれ!君!そのα個体はなんだ!すごいなんてもんじゃない!そんな反応はどのレポートにも載ってない!どういう処置を施したらそうなった!?」


豆乳与えただけなんですけど。

恥ずかしかったし言いたくなかったので答えなかった。


玉から伸びた細長いムチは白衣のおっさんの手から小瓶を絡め取り、僕の手に預けてきた。


「は!?い、いつの間に!」

「ねえ、みんなの服とか元に戻せるかな?」


僕がそう言うと玉は、


『スキャン完了。原子分解で拡散した物質の特定完了。99.9%再構築可能。実行しますか?』


いつか聞いたことがあるような返答が玉からあった。

残り0.1%はどうなるんだろう、やっぱり怖い。


「頼むよ」

『原子分解された物質の再構築を実行します』


バカでかい拳銃の発射音のような音があたりに響き渡った。




気がつくとみんなの服が元に戻っていた。

ホッとしたようながっかりしたような。


でも依然皆は動かない。目がうつろのまま立ち尽くしている。

白衣のおっさんも同じように目がうつろになって立ち尽くしていた。


僕は小瓶の蓋を開けようとしたが、どうやっても開きそうになかった。


「頼めるかな?」


僕がそう言うと玉から伸びた細長いムチは僕が手に持っていた小瓶をスパンと真っ二つに切り裂いた。とたん中から液体が溢れ出した。


「うげっ!げほっ!うえっ、くっさ!」


なんの臭いだこれ!思い切りかぶってしまった。


「なにこれ?どうにかならない?」

『ホルムアルデヒド溶液です。オーナーの意思に従い無効化します』


玉の声がして臭いが無くなった。

ホルムアルデヒドってどこかで聞いたような。あっ、ホルマリンか。どおりで臭いわけだ。


玉は細長いムチを小瓶の切り口から突っ込んで中から小さいカケラを拾い上げて僕の手に預けてきた。


「助けを求めて来てたのは君か」


なんとなくそう言ってみた。


玉は細長いムチを伸ばして庭に落ちていた小石をしゅるると拾ってきて、僕の手のひらにあるカケラの代わりに小石を小瓶に入れて、切断した小瓶を完全に復元した。


玉が虹色に光ると、ブンと音がして小瓶の中身が液体で満たされていた。


玉は、白衣のおっさんの足元に置いてあるごついアタッシュケースに繋がっていたコードと小瓶の接続を元に戻すと白衣のおっさんの手に小瓶を戻した。

この間30秒もかかってなかった。


「すみませんが、今日はもう帰ってください。あと、今日見たことは全部忘れてください」


玉が虹色に光ると、兵隊みたいなおっさんたちはぞろぞろと帰っていった。

これで良かったのだろうか。




「あれ?」

「ここって玄関?」

「あれれ?藤原君?」


良かったみんな正気に戻ったようだ。


「母さん、美咲、おかえりなさい。吉住さんいらっしゃい。晩御飯の下ごしらえは終わらせてあるから待ってて、すぐに作るから。今日はハンバーグだよ」


見ると、階段のところでジャージ姿の真鍋さんが、


「あれ?あれ?あれ?あれれれ?」


たった今 目が覚めた感じであたふたしていた。


なるほど真鍋さんもさっきのアレに巻き込まれていたのか。


「……真鍋さん?」

「あ、吉住さん、こんばんは」

「美咲ちゃん、なんで真鍋さんが藤原君の家にいるの?」

「ええと」


色々あって疲れていたが、今日の夜は長くなりそうだった。

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