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第15話 α固体の真実 その1

12月18日 水曜日

今日は朝から土砂降りの雨だった。


この日、磯辺という男は朝から狂喜乱舞していた。

陸自に探索させていたα固体の反応があったと連絡を受けたからだ。


磯辺達也(いそべたつや)は陸自の化学科の研究員だった。


「おはようございます青柳1佐、ここが反応があったという現場ですね」


「はい、昨晩ガス爆発があったと所轄の消防に通報があり、消防隊が駆けつけたときにはガス爆発の痕跡がないどころか、アパート建屋が新築に生まれ変わっていたとのことです」


「ほう」


「全く信じられません。が、アパートの管理業者に問いただすと確かに築30年だったと」


「なかなか興味深い話ですね、α線の反応は?」


「僅かですが新築に生まれ変わったアパート建屋の壁から反応がありました、しかし今はもうありません」


「α個体は不定期にα線を放出する特性があります。当面は不発弾が見つかったことにしましょう。付近一帯は誰も立ち入らないようにして下さい。安全のためです。α個体はカケラでもいいので入手できるようなら入手して下さい」


「了解です」


「今は本部にバラバラに砕けたサンプルがあるだけだし、今度こそ綺麗な個体が見つかるといいな」



12月24日 火曜日


温泉旅行の日になった。

母さんが運転するワゴン車が僕らを乗せて温泉旅館に向かって海岸通りを走っている。


車の中はなんというかちょっと微妙な空気だった。

それもそのはず…… 


「あのう、私もご一緒して良かったんでしょうか?」


助手席の真鍋さんが後ろの席の僕らのほうをチラチラ見ながら申し訳無さそうにしていた。


「いいのいいの気にしないで祐来ちゃん」


なんか母さんがめっちゃ主催者ヅラしているし。


諸事情から僕の家に居候することになった真鍋さんを1人で留守番させるのも気が引けるし、旅行券があと1人分余ってたのもあり、なにより母さんが半ば無理矢理参加させたのだった。


僕と美咲は事前に知っていたが、吉住さんが真鍋さんの飛び入り参加を知ったのは今朝だった。


「美咲ちゃん教えてくれないし……」

「ごめんねお姉ちゃん」


美咲がいつにも増してしおらしい


「あの、吉住さん……私……やっぱりお邪魔だったよね」

「え?いやあの、違うの真鍋さん!知ってたらもっと違う準備ができたかもって思っただけで」


吉住さんがあたふた返事しながら僕のスマホにこっそりメッセージを送ってきた。


『真鍋さんのことあとで説明してね☺️』


笑顔の絵文字に何故か妙なプレッシャーを感じた。


どうしよう、うまく説明できる自信がない。

どうしてこうなった。



旅館についたときにはもう夕方になっていた。

一泊だけなので明日にはもう帰らないといけない。なんか切ない。まあ一泊旅行なんてこんなものかな。


旅館の受付で僕と母さんがチェックインの手続きをしていると、ロビーのほうから吉住さんたちの話し声が聞こえてきた。


「えと、あのあの、じゃ……じゃあ真鍋さんて、今、藤原君のお家に住んでるの?」


吉住さんが今まで見たことない青ざめた表情になっていた。ちょっと可愛い。


「うん、私のお母さんがね、藤原君のお母さんと古くからの知り合いで、私のアパート自衛隊の人が調査することになって住めなくなっちゃって、それで……」


ウソではない。


真鍋さんの住んでたアパートが立ち入り禁止になってしまったのはホントだった。

不発弾が見つかったと連絡を受けて立ち入り禁止になっていた。


僕が母さんに苦し紛れに言った言い訳はホントのことになってしまったのだった。


んなアホな。


しかもまだ地下に残っているとのことで周辺地域の避難が強制されてしまっていた。


「美咲ちゃん!なんで言ってくれなかったの!?」

「はうぅ!ごめんなさいごめんなさい」


真鍋さんの自殺の一件や、玉がガス爆発で吹っ飛んだアパートをリフォーム(?)して瞬時に新築に変えてしまったことはこのまま秘密にしておこう。

言ってもややこしいことになるだけだし、第一僕が誰にも言いたくなかった。


そういえばカラスの怪獣が学校を壊した時間軸で学校に来ていたゴツい車が、真鍋さんのアパートに来ていたので、気にはなっていたが関わり合いになりたくなかったので、僕は一切近づかないようにしていた。


なんなんだろうなあの集団、あの集団は玉のこと知ってるのかな?



「ええと、ファミリータイプの大部屋が1部屋だけって。どうにかなりませんか?」

「誠に申し訳ありません、手違いで……」


チェックインが揉めてる理由は、ファミリータイプの大部屋1部屋とシングルを1部屋予約入れてたはずが、ダブルブッキングがあり、シングルが他のお客さんで先に埋まってしまい、ファミリータイプの大部屋1部屋だけになってしまったのだ。


母さんと美咲、真鍋さんと吉住さんが一斉に僕を見る。


そうなのだ今回の温泉旅行、僕だけ男でめっちゃ肩身が狭い思いをしてたのに、同室とか僕のメンタルが持たない。ていうかダメだろ。


仕方ない、今日は駐車場に停めてる母さんの車で寝るか。

そんなことを考えていたら美咲が、


「お兄ちゃん人畜無害だし、同じ部屋で良いよねお姉ちゃん」

「え?ええと、ええと、真鍋さんはどう思う?」

「私は構いませんよ」

「……………美咲ちゃんや真鍋さんが良いって言うなら………」

「あらーよかったわね綾人、信用されてるじゃん」


母さんがめっちゃニヤニヤしていた。

男として見てもらえてないのもなんか切なかった。



旅館の部屋の窓から遠く見渡せる山々に、薄っすら雪が積もっているのが見えてとても綺麗だった。

なんとこの客室には、こじんまりとだが露天風呂も付いていた。


「ねえねえ旅館の2階にある大浴場が岩風呂になってるんだって!お姉ちゃん!真鍋さん!行ってみようよ!母さんも!」

「岩風呂だー!」


美咲がカバンから取り出したパンフレットを開いて女連中でワイワイ座談会を始めた。


「僕は旅館を探検してきますんで、その間に着替えとかしておいて下さい」


僕は返事を待たずに客室から出た。


旅館のロビーまで来た僕は、ソファに座ってぼけっとロビーに設置してあるテレビを見ていた。


すると、北海道に旅行に来ていた高校生がヒグマに襲われて遺体で見つかった、という物騒なニュースをやっていた。


熊怖いなぁ。襲われた人可愛そうだなぁ。これで熊殺すなとか市役所に苦情の電話入れる熊かわいそうって言ってる人達どうかしてるよ。


そんなふうに思いながら、テレビのニュースを見ていると、被害者の名前に見覚えがあった。


遠藤恭弥 16歳


「えええええええええええええ!?」



僕はテレビのニュースに釘付けになっていた。

なんでも昨日の午前中、福島町の市街地から少し離れたところでヒグマに襲われて藪の中に連れて行かれるところを他の人達が見てたらしい。


めちゃくちゃ変な汗が出た。

遠藤のやつ北海道に渡ってたんだな。

ていうか北海道に行くよう仕向けたのは僕だ。


ニュースの内容が怖すぎた。


遺体の性別がわからなくなってたらしい。

死因は失血死らしいが、生きたままヒグマに喰われるってどんな気持ちなんだろう。

絶対に想像したくない。


遠藤はすごい嫌な奴だったけど、こんな最期は違う気がしたし、この原因を作ったのは僕だ。


今度も戻ってなんとかできないか玉に相談してみると

思ってもみない返答があった。


『最適解はあります。しかし念の為補足しますが、オーナーは今まで一度も時間遡行をしていません。これを忘れないでください』


え?どゆこと?


玉が輝いて僕が見ている風景が虹色に歪んで遠くなっていった。



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